SINOBIMASTER―楠木正成の討幕に潜む影―
橘 玄武
序章 英雄
第一話 皇居外苑の一角
―皇居外苑の一角に
皇居外苑は、東京の中心にありながら、都会の喧騒を忘れさせる静けさと、歴史の重みを感じさせる場所である。
観光客の足音や休暇を楽しむ家族の話し声が時折響いてくるものの、そこには過去と現在が交差する独特の
人々はその場所で心を癒し、歴史の足跡を感じ取る。
秋風が葉を揺らす空の下、二重橋を正面に望む広場の一角には、堂々とした銅像が静かに佇んでいる。
馬上で手綱を握る武将の姿は、まるで今にも動き出しそうな迫力を放ち、その眼差しは遥か彼方を見据えているようである。
彼の足元には歴史が流れ、時を超えてこの瞬間まで、その威厳を保ち続けている。
その像の前で、大学教授と二人の学生が話をしている。
教授は五十歳前後の男性、スーツを身にまとい、落ち着いた雰囲気を醸し出している。一方、学生二人は二十歳前後の若い女性で、目を輝かせながら教授の言葉を聞いている。
彼らは、某国立大学の中世日本史の研究の一環として、この場所を訪れていた。
教授は学生たちを前に、指を銅像へ向けて静かに語り始めた。
「この銅像は、鎌倉時代終焉期、隠岐島に流罪となった後醍醐天皇を京へ迎え入れるために兵庫の港へ向かう瞬間の武将の姿だ。民衆に囲まれ、人生の頂点に立ったそんな場面を描写している」
学生の一人が首をかしげながら口を開いた。
「天皇がどうして流罪に? この時代、何が起こっていたんですか?」
教授は少し
「天皇、上皇が流罪で、島に流された事例は、何度かある。この事件は、後醍醐天皇が鎌倉幕府の力に抗い、自らの政治権力を取り戻そうとしたが、失敗して隠岐に追放されたんだ。しかしその後、この武将が立ち上がり、鎌倉幕府を討ち天皇を京へ帰還させた。この銅像は、彼のその功績を称えている」
学生たちはその銅像をじっと見つめながら、もう一人が問いかけた。
「武将が幕府に挑むというのは、確かに大変なことですよね。でも、日本の歴史では、天皇や国のために戦った武将や志士はたくさんいます。なぜこの武将が皇居外苑の一角で特別に称えられている理由は何でしょうか?」
教授は笑みを浮かべ、静かに答えた。
「その理由はいくつかあるが一つは圧倒的な戦力差を覆したことだろう。当時、鎌倉
幕府の軍勢は、30万から50万、古文書によれば100万と記録されたものもあるが、彼の手勢は、わずか千人ほどだった。それでも小さな山城に籠もり、知恵と勇気で圧倒的多数の幕府の軍を翻弄して戦い抜いた。その英雄的な行動が、後世の人々の心に強く残り、今日まで語り継がれているんだ」
さらに教授の説明は、続く。
「数字については誇張されている可能性もあるが、近年の研究では、彼が『忍』の力を駆使して戦力差を埋めたという説もあり、ネット上にも、そのことを研究した論説や論文が掲載されたウェブサイトもたくさんある」
そして最後に、教授は何かを思い出したかのように一言付け加えた。
「あそうだ。つい半年前のことだが、この武将がいかにして圧倒的な戦力差を覆したかということが詳細に記された古文書が、七つの星塚を祀る
と、言いながら鞄から資料を出し、学生二人に仲間の教授が書いた研究論文の写しを手渡した。
その話を聞いて、学生は感心したように頷いた。
「なるほど。どの時代でも、背後で動く人々が鍵を握るんですね。早く論文の内容を読みたくなりました」
教授は軽く頷き返し、微笑んだ。
「歴史は表舞台に立つ英雄たちだけでなく、陰で支える者たちによっても大きく動いているんだ。だからこそ色々な視点から歴史を学び続けることに意味があるんだよ」
風が少し冷たくなり、銅像の影がゆっくりと長く伸びていく。
会話はその後も続き、歴史の謎や英雄たちの物語が次々と語られていく…………。
外苑の一角、二重橋を正面に望む場所には、一際、目を引く銅像が、堂々とそびえている。
甲冑に身を包み、馬上で手綱を引く姿は、かつての武士の栄光を象徴するものだ。
しかし、この銅像の背後には、当時、誰も知ることのない存在があった。
像の武将を取り囲むように忍たちがその身を隠していた。
彼らは歴史の表舞台には決して姿を現すことはないが、その鋭い目で周囲を見張り、即座に動けるように備える。彼らは「影の守り手」として、常に闇に潜み、使命を果たす者たちである。
忍たちは、銅像の武将を護るために存在していたが、その者たちは、人々には知られぬまま、七百年もの長い歳月を超えてきた。
彼らの存在は、時代の流れの中に忘れ去られ、歴史の影に埋もれてしまったかのように見える。
しかし、この物語は、皇居外苑に静かに佇む銅像の武将と、それを守り続けてきた忍たちに再び光を当てる。
七百年にわたり封印された彼らの宿命は、解き放たれ、「北斗七星伝承記」とともに歴史の表舞台に姿を現わす。
影に隠れた物語が、再び歴史に刻まれる時を今、ここに迎える。
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