見習い陰陽師の難卦
日守悠
0.プロローグ
「君には幽霊が見えるんですね」
落ち着いた声音だった。目の前に、制服姿の男がいる。
「僕、全然見えないんですよ。霊とか、そういう不思議な奴って」
照れたような笑顔を懐かしく思った。
これは、高校二年生のころの記憶だ。初夏だったからお互いに半袖だ。教室には誰もいない。白いカーテンが風に揺れて、夕方なのにまだ明るい。昼間に雨でも降ったのだろう、空気が冷えていて気持ちがいい。
彼の名前は
きっと、他人に対して壁を作っているのだろう。当時の俺はそう感じた。
「……イン君は、変だと思わないのか? 俺のこと……」
白昼夢のように、記憶の中の自分が喋る。この頃はまだ苗字に君付けで呼んでいた。よそよそしさと警戒心の入り混じった声音。
「思いませんよ。僕は幽霊を触ることができますし」
「そういえば、そうだったな」
幽霊に触れるなんて、見えるよりもよっぽど変わっている。だけど実際に俺は、彼が幽霊に触れた瞬間を見たんだ。この目で確かに。
「大神君。幽霊に襲われたら、いつでも僕を呼んでくださいね」
「……まあ、うん」
返事はしたものの、幽霊に襲われるなんて事はめったにあるものじゃない。
あの日がおかしかっただけだ。
そう思っていたんだ。
……あの日までは。
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