第18話同期襲来1

「ん〜、よく寝たぁ、っていたたっ!!」


二度寝から目が覚めた後筋肉痛のことを忘れていて伸びをしてしまった。起きはしたけどベッドから起きれない。仕方ないので寝たまま近くにあったスマホに手を伸ばし画面を見ると、真冬さんから『リングフィットお疲れ様でした!筋肉痛で動けないとのことでしたので少し食べ物を買って持っていきますね』とチャットが来ていた。


「もうマネージャーじゃなくて嫁じゃん」


そんな独り言を笑いながら呟き『本当にありがとうございます。助かります』とチャットを送り返してスマホを置いた。その後真冬さんからの追加のメッセージに気づかないまま。



────ポーン、ピンポーン


「あれ、私また寝てた……?というか何の音……」


どうやら真冬さんからのチャットを返した後に寝てしまっていたらしい。ん、チャット……?あっ!!


「やばい来るの忘れてた!!」


私は寝起きということと外で待たせていたかもしれないという焦りで色々なことを忘れていた。一つ目は自分が起きてから着替えていないこと。二つ目はインターフォンを確認して真冬さんかどうか確認しなかったこと。三つ目は筋肉痛ということ。

その結果、玄関の扉を開けて目の前にいた真冬さんではない綺麗な金髪の女の子に、さっきまで寝ていた格好で出迎えることとなった。


「やっほーあやちゃん!あ、もしかしてあやちゃんさっきまで寝てた?」


私は無理をして動いたせいで来た痛みと、初対面の女の子にこんな姿を見せてしまった恥ずかしさから思考が停止していた。そのせいで扉を開けた勢いのまま前に倒れてしまった。あぁ、急いでる時こそ冷静になれってこういうことだったんだね……。

そう考えながら体勢を崩した私を女の子は受け止め、そのまま流れるようにお姫様抱っこした。少し動き始めた脳はまた停止した。


「おっとと、危なかった〜。このまま玄関先にいると不審に思われちゃうかもだし上がっても大丈夫?」

「は、はひ」


回ってない脳で返事をした後、女の子は私を抱っこしながら器用に鍵を閉め、私をベッドまだ運んでくれた。自分のベッドに乗った瞬間さっきまで停止してた脳が動き始め、急激に恥ずかしさが込み上げてきた。初対面の女の子に起きたばかりの姿を見せた挙句倒れかけてお姫様抱っこされた……。恥ずかしすぎて死ねる……。


「急に来ちゃってごめんね?チャット送ったんだけどその様子だと寝てて気づかなかったよね」

「こちらこそお見苦しい姿を見せてしまい申し訳ございませんでした……。というかチャット……?」


私は急いで近くにあったスマホを取ってチャットアプリを開いた。そこには真冬さんから『事務所できらりさんと会ってお家に伺うことを伝えたところ、代わりに行きたいと言われましたので今日はきらりさんが伺います』と言うチャットと、きらりちゃんから『マネージャーちゃんから聞いてると思うけど今日は私が行くね!』『好きな食べ物とか欲しいものある?どっか寄ってついでに買ってこよっか?』とチャットが来ていた。ということは目の前の少女は……。


「もしかしてきらりちゃん!?!?」

「あはっ、やっぱり気づいてなかったんだね。改めて自己紹介!七瀬きらりこと水瀬ひかりだよ〜!」

「あっ、星月綾華こと月宮綾乃です……!」

「本名もあやちゃんだ!久しぶりにいい渾名つけられたよ!」

「そういえばなんできらりちゃんが?」

「筋肉痛になると思ったらそこまでだったんだよね。やることないしちょっと外出たい気分だったからいろんなところ行ってたら事務所近くでさ〜。ついでに顔出そ〜って思ったら、あやちゃんのマネージャーちゃんがいたから話聞いてあとは来たってこと!」

「なるほど……」


軽く話した後、私は目の前にいるきらりちゃんのことを見ていた。アバターと同じ綺麗な金髪でモデルのような整った体型、今のトレンドを取り入れたおしゃれな服装。いつも家から出ないで最低限の服しか持ってない私とは大違いだ。

そう思いながら見ていると、きらりちゃんがいいことを思いついたような顔で笑っていた。


「ん〜?どうしたのあやちゃん?もしかしてリアルの私に見惚れちゃった〜??」

「ち、違います!!!」

「ほらほら正直に言っていいんだよ??なんなら付き合っちゃう?」

「なに言ってるんですか!い、意味がわかんない冗談はやめてください!」

「冗談じゃないよ。今ここで冗談じゃないってこと証明してあげるよ」


え?これはまずくないか?と私が思い始めた時にはもう遅かった。私の座っていたベッドの横にきらりちゃんも座ってきた。きらりちゃんの綺麗な髪が肩に触れ、また思考が停止しかけてた時にきらりちゃんが口を開いた。


「ぷっははは!あやちゃん真に受けすぎだよ!流石にまだ付き合う云々の話は早いよ!」


そう言いながら笑ってるきらりちゃん。私は揶揄われたことと、ここまで手のひらで転がされたことが恥ずかしくなり、きらりちゃんから逃げるように布団を被った。


「きらりちゃんのばか!もう今日は口を利いてあげませんから……ね……」


言っている途中で朝からなにも食べてないせいでお腹がなってしまった。どうやら神様は私に恥をかかせるのがブームらしい。きらりちゃんは優しく笑い、私のお腹をさすりながら口を開いた。


「あやちゃんと今日話せないのは辛いな〜。そうだ、今からご飯作るから一緒に食べたいな〜」

「……さっきのはなかったことにします。ご飯お願いします……」

「うん、任せて!」


そう言ってきらりちゃんは私の頭を撫でてベッドから立ち上がった。私は子供のような不貞腐れ方をした自分への恥ずかしさと、頭を撫でられたことのこそばゆさから逃げるように足をパタパタさせた。筋肉痛なのをまた忘れて。

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