第11話 《sideノア》悪役一家

 ノアはエリックと二人、特に会話も無く男子寮へ向けて歩いていた。

 

 話題は当然のように無いし、退屈な時間だ。

 

 退屈だからこそ、色々と考える余裕があった。

 ロザリーの事、兄の事、それから――

 

 嫌な予感がした。

 

「エリックくん」

「なんですか」

「ロザリーちゃんの事追いかけて。今すぐ」

「えっ、なんで」

「いいから早く」

「わ……分かりました」

 

 エリックは困惑したまま、女子寮の方へ向かって行く。

 

(兄さんの事だから、絶対に一人の人を狙うはずだ)

 

 もし、ロザリーの身に危険が及ぶとすれば今だろう。

 

 ノアが助けに行けば、格好良かっただろう。

 しかし、そういうヒーロー・・・・みたいな事をするのはノアの仕事じゃない。

 

 寮の自室に戻りながら、ノアは思い出していた。

 

 ――――――

 

 それは幼い頃の事だ。

 

 当時はまだ兄と仲が良く、よく二人で遊んでいた。

 

「にいさん! やっとみーつけた!」

「くそー、ぜったい見つからないとおもってたのに」

「えへへ〜」

「もういっかい! 次はのあがかくれる番」

「は〜い」

 

 家の敷地内でかくれんぼをしたり、鬼ごっこをしたり。

 

 二人兄弟、とても仲が良かったように思う。

 

 そんな関係が変わったのは、いつからだったか……。

 

 兄はいつしか、天才ともてはやされるようになっていた。


 幼い頃から魔法をいくつか使う事ができ、芸事や学業に優れ、運動もできる。

 両親はいつも兄を褒めていて、使用人も兄の事ばかり噂した。

 

 誕生日の贈り物も、お願いを聞いてもらえる回数も、兄の方が優遇されていた。

 

 必然的に一人でいる事の多くなったノアは、たくさんの本を読んだ。

 

 物語も、歴史も、家にある本であればなんでも。

 家の本が無くなれば次は絵画、音楽、演劇――

 

 好きになる物が増えるにつれ、何となく分かった事が有る。

 

 才能にあぐらをかいて周囲を見下す兄、領民から絞り上げた金品で贅沢三昧の母、権力を傘に着てやりたい放題の父。

 彼らは物語で言う所の悪役、しかもかなり安い部類の、序盤で裁かれるような悪役だ。

 

 そして、紛れもなく彼らの血――ペスカロロ家の血を継いでいるノアも、例に漏れず。

 

 それが嫌で嫌で、人との関わりを絶った。

 両親がノアに無関心なのを良い事に、美術館や劇場に通い、たくさんの芸術に触れた。

 

 そんなノアを兄は暗いと言って馬鹿にする。

 

 対抗するように、起ったはずの人との関係を持ち始めた。

 幸いにも顔が良いから、様々な女性と代わる代わる。

 

 深い関係になる前に縁を切って、誠実であるつもりだったが――それも、いわゆるクズの所業だと後で気が付いた。

 

 物語の悪役と同じ行動を、知っていたはずなのにしている。

 やっぱり自分も悪人だ。

 

(別にそれで良い。どうせ、そういう家の元に産まれたんだし)

 

 家のせいにして諦めて、開き直った後は楽だった。

 

 つまらない人間関係をいくつも作り、広く浅く渡り歩く。

 

 ロザリーとエリックも、そんな関係のつもりだった。

 

 どうでも良い繋がり。

 

 どうせ切れる縁。

 兄に持って行かれる物。

 

 だが、兄に対してどこか呆れた様子の二人を見て、彼らがノアから興味を失うまでは構ってみようと思った。

 

 図書館で声をかけたのも、その後も。

 

 しかし、関係と同じくらい浅い話しかしない周囲と違い、彼らは面白い話をしていた。

 

(もうちょっとだけ、構ってたい)

 

 だから、今兄に手を出されるのは嫌だ。

 

 エリックが、ロザリーを助けてくれればそれで良い。

 

『災難だったね』

 

 なんて話しかけて、明日の話題くらいにはなるだろうし、そうしたら――

 

 思考を途切れさせる、声が背後から聞こえた。

 

「ノア様!」

 

 ロザリーの声。

 なんでここに、と振り返る。

 

 息を切らせたロザリーと、付き添うエリックの姿が。

 

「エリック様から、聞きましたわ。助けてくださったのですわよね。ありがとう、ございます」

「え……いや、特に何もしてないけど……エリックくんを向かわせただけだよ」

 

 表情を作る事すら出来なかった。

 礼を言うためだけに来たのか? この子は。

 

「それでも、ですわ。助かりました。ありがとうございます」

「……まぁ、ん。どういたしまして」

「では、わたくしはこれで。また明日、ノア様、エリック様!」

 

 呼吸を整えるのもほどほどに、ロザリーは去っていく。

 

「何あの子……」

「不思議な方ですよね」

「……うん」

 

 困惑するノアに、エリックが言葉をかける。

 ノアは頷くしかできなかった。

 

(感謝するようなことじゃないでしょ、あれ)

 

 去って行くロザリーの背中を見送りながら、胸に広がっていく感情の意味を――ノアはまだ、理解出来なかった。

 

 

 

 

 ――あとがき――――

 

 次回の更新日はクリスマスです!

 ハッピークリスマス!

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