SECRET 前編

プロローグ

 小さな記憶




『ちゃん・・・』


『結城ちゃん・・・・』




頭の奥の方でそんな声が聞こえた。


あれ・・・???誰の声だろう。

凄く、懐かしくて・・・心地が良い声。


私・・・・。


私は誰?

名前が出てこない。


「う・・・・・・」


凄く眩しい・・・・。


目を少しずつ開けると・・・・・光が・・・・・・・。


「結城ちゃん!!・・・母さんッ!結城ちゃんが目覚ました!!」


・・・・・・。

この声・・・。

さっき聞こえた声だ。


そんな声が聞こえて、直ぐに女の人が私の前に来て私の手を握る感触。


・・・・・・・。


誰?



少しだけ開けていた目をもう少し開け、私の直ぐ近くに居る女性を見る。


日に焼けた・・・綺麗な女の人。


優しそうな顔で、・・・でも心配をしているような・・・そんな顔。




「結城ちゃん??・・・・・痛いとこ無い???先生今来るからね・・・」


優しい話し方。


誰だろう・・・・。


その人は、ずっと私の手を摩りながら声をかけてくれた。






ママかな。


身動きがあまりとれない中、横を見ると・・・女の人の脇に居た真っ黒い顔の男の子が私を見て、


「先生呼んでくるよ!!!!」


そう言って・・・部屋を出て行った。






―数日後―



「可哀想に、・・・記憶が無いんですって・・・・。」


・・・・・・・。


お坊さんのお経が流れる中、私は一人後ろから聞こえてくるそんなヒソヒソ話を聞きながら、子供なりに自分が可哀想なんだと少し自覚をしようとしていた。


でもその現実もよく分からない。


だって、


何も覚えていないんだもの。


お葬式の祭壇の上の方に置かれてる3つの写真。




パパと・・・ママと・・・・お姉ちゃんだと・・・病院にいたあの綺麗な女の人が言った。

私のパパとママとお姉ちゃん。


三人は私を置いて亡くなってしまった。



ボーーーっと眺めていると、


「財産とか東京の家とかどうなるの??」


「あんな子供に相続する事出来ないだろ??」


「じゃあ・・・やっぱり・・・・あの親戚の???」


大人達は、私には何もわからないと思ってコソコソそんな話をする。



私は下を向き膝でこぶしを握った。






「結城ちゃん、お外で遊ぼう」


私の隣に居た男の子がそう言った。

その男の子は病院にも居た子だ。


私に呼び掛けてくれていた男の子だ。


その男の子は笑って私の手を引っ張り言った。


私は頷いて席を立ち・・・男の子と一緒に葬儀場の外の庭に行った。



多くの人が真黒な服を着てどんどん入ってくるの。

私とその男の子がその姿を見ていると、真黒な顔のオジサンが手を振ってきて・・・。



「あまり遠くに行くなよーーーー」


そう言った。


男の子はそのおじさんに向かって手を振って・・・。


「わかったーーーー!!」



男の子は私の手を引っ張り私にこう言った。


「うちの父さん・・・」


お父さん・・・・。


一緒にしゃがみ込み、砂いじりをしていると葬儀会場から出て来た大人たちが・・・。


「ねっ、遺産幾ら位あるのかしら??兄さん手広くやってたからかなりあるんじゃない?」


「家も売って土地も売るか・・・・。」


夫婦と思われる二人がコソコソ話しているのが聞こえた。


子供の私にも伝わる、イヤな話し。


私はこの先どうなるんだろう。


お父さんだという人も、お母さんだという人も・・・お姉ちゃんだって・・いう人も誰もいないの。


自分がどうやって、どんな生活をしてきたのかも分からない。なのに、この先一体どうしろというんだ。



その後、多くの大人が私をどうするかって話になった。

皆、

口を揃えて言うの。


「養育費ってもらえるのよね?」

「預かったら幾らもらえるかな?」

って・・・・。


子供なりに思った。


『だったら、そのお金私にちょうだいよ。

勝手に生きるから。』


思ったけど、言えなかった。


すると・・・病院に居たあの綺麗な人が、


「あの子はうちで引き取れませんか???」


・・・・・・。


男の子と遊んでいた手を止め、綺麗な女の人の方を見た。


すると、最初に居た夫婦が・・・。


「何だアンタ、・・・橘家の親戚はうちなんだから、うちが引き取るに決まってるだろ?」


「そうよ!!貴方、橘家の遺産が欲しいんでしょ?口出さないでくださいよ!」


・・・・・なんか・・・・。



やだ。



女の人は振り返って私の方を見ると、ニッコリ笑って・・・・。


「子供の前でお金の話は止めましょう、・・・うちはあの子だけ引き取れれば結構ですから!お金は要りません。」


・・・・・・・。


「そんな事言って!!あの子がアンタのとこに行くなら金も持っていかれるに決まってるだろ!!!!」



やだ、怖い・・・。


聞きたくない。


私が下を向くと男の子が私の手を握って・・・・。


「あっちに行こう」


男の子は私の手を引きまた外に出た。


庭の綺麗な花が沢山咲いている花壇の前に立ち私の手を・・・ぎゅーーっと握った。



「結城ちゃん・・・・僕の所に来ればいいのに」


くしゃっと笑ってそう言った。


「・・・お兄ちゃんは何処に住んでるの??・・・・」


私が聞くと、男の子は私の目をじっと見て・・・・・また笑った。


「海が綺麗なところ!スッゴイ遠いけど結城ちゃんも何度も来たことあるんだよ」


私行ったことあるんだ。


「お兄ちゃん、・・・遠くに行っちゃうの???」


寂しい。


知らない人ばかりの中一人ぼっち。


「・・・・うん、来週帰るよ・・・・」


帰っちゃうんだ。


「ね・・・、一緒に帰ろう??一緒に帰って・・・・・」


お兄ちゃんは私に向き合う様にして両手を掴み・・・言った。


「・・・一緒に帰って・・・・大人になったら・・・・・・。」



・・・・・・・。





「大人になったら・・・僕と結婚しよう。」




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