第三十話 貴族の心構え

 レイテアの身辺のみにとどまらず、波紋は拡がり続けている。


 夜。王城の一室。

 国王とダロシウは向かい合い、既に一時間以上に渡って押し問答を繰り返している。


「レイテア嬢との婚約は一旦解消。これは元老院、西部の貴族諸侯からの意向だ」

「父上、そんなことをすればレイテア嬢が」

「わかってる。しかしだ、新型ゴーレムの開発を成し遂げ、自らが操作。そしてお前の婚約者となれば帝国はどんな手を使ってもレイテア嬢を手中に収めようとするだろう。それならまだいい。彼女の身の安全を戦場においても万全に守ることが出来るのか?」


 ダロシウは言葉に詰まる。


「国防省からもアテナの運用に関して案が上がっておる。ダロシウ、あの新型ゴーレムに対して帝国が抱く危機感がわかるか?」

「……機動性でしょうか」

「そうだ。あのように高速で移動出来る大型ゴーレム、攻城兵器は存在しない。ディーザ侯爵領まで早馬だと二日の距離、それをアテナは一刻(一時間)もかからず駆けつけた。単純計算をすると帝国の都までここから半日もかからず辿り着く。これが帝国にとってどれほどの脅威か」

「それはわかります」

「しかもだ、あの運動性能。帝都にある皇城など容易く攻め滅ぼせるぞ。城壁なぞ何の役にも立たん。逆の立場なら、わしは国の総力をあげてアテナ、いやレイテア嬢を潰す」


 ラーヤミド王国はディーザ帝国に対して侵攻の意図は無い。

 ずっと昔から帝国が、温暖な土地、不凍港を求めて一方的に攻め込んでいるだけだ。


「わしとしては帝国を必要以上に刺激したくない。アテナの扱いはこれから慎重に検討していくが、レイテア嬢を守るという観点から、お前との婚約は解消しておいた方が危険度を下げよう。これにはルスタフ公爵も同意している」

「私がレイテアにアテナから手を引くよう説得している最中です」

「それはいつまでにだ?」

「即答は出来かねます」

「新型ゴーレムの開発、急いだところで何年かかることだろうな」

「それは……」


 ダロシウは二の句が告げない。

 現在アテナを模したゴーレム、骨格を持ち、それをベースに駆動するゴーレムは構想段階に過ぎない。

 “考えるスライム”の代用品は今のところ目処もたってない。


「ダロシウ、お前は王位を継ぐ者として国益を最優先に考えなければならぬ立場だ。それを忘れるな」


 退室する王。

 ダロシウは目を瞑り考え込む。


「レイテア……私は五歳の時、君を見た瞬間に運命を感じたんだ。女性向け恋愛小説にあるような一目惚れとかではない。魂が君を欲した」


「王太子ともあろう方が随分と少女趣味のような独り言」

「お前か」


 いつの間にかその場に佇む男。

 王家の諜報活動を担う一族である。


「レイテア嬢の守りに抜かりはないな?」

「もちろんですよ。第八耕作地ではアーシア様の直轄地ゆえ、そこまで人員を割けませんでしたが、今は万全の体制を敷いております」

「次に狙われるとすればやはり貴族学院内か」

「少々台所事情が苦しい貴族の子弟やラーヤミドに併合された国の子孫などは監視していますが、帝国の古代魔導は予測もつきません」

「あの楔の解析は進んでないようだが」

「私は専門家じゃないから何とも。古代遺跡からの発掘由来だと推測出来ますが」


 ディーザ帝国が位置する北部には、はるか昔ディザ帝国という国が栄えていた。魔導を元に周辺国家を次々と併合し、国土は大陸の半分を占めていたという。


「古の帝国か」

「その遺跡から発掘されるのは、我々の想像すら及ばない超技術の宝庫とか。ラーヤミドに存在するガイザ国やまと国の遺跡とは全く異質ですからね」


 ラーヤミド王国がディーザ帝国の侵攻を退けてこれたのは地理的要因、国境に広がる山脈と大森林によるところが大きい。

 軍事力では圧倒的に帝国が優位。

 それをひっくり返しかねない新型ゴーレムアテナ。


「殿下、アテナによって浮き足立っている開戦派の方々を抑えてくださいね」

「もちろんだ。戦争外交の時代はとっくに終わってる」


 同じ頃、レイテアは男にダロシウとのやり取りについて相談していた。


『そりゃあ……王子がそう言うのも当然だよ」

(でも)

「レイテアちゃんはさ、王子のこと好きなの?」


 男は気づいている。


(公爵家の娘としての責務は果たします。そこに心情を差し挟むことはありません)

『あちゃー。ほんとなら恋バナにきゃあきゃあ言う年頃なのになぁ』

(恋バナ?)

『恋に恋するってことだよ。貴族令嬢……背負ってるものが違うよ、庶民とは。王子の片想いだな』

(殿下が?)

『前にも言ったろう? 俺の目から見てもレイテアちゃんにベタ惚れだよ、王子』

(……)

『だからこそレイテアちゃんに危ないことさせたくないんだよ』

(殿下が……)

『まっ俺は部外者だ。レイテアちゃんの思うようにすればいいと思うよ。こればっかりは周りがどうこう言っても仕方ない。俺としてはレイテアちゃんの足枷になるようなら婚約解消には賛成かな。知れば知るほど帝国は放っておけない脅威だから』


 この会話をしたせいか、レイテアはこの夜なかなか寝付けずに朝を迎えることになる。

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