第二十九話 ダロシウとの会話

 第八耕作地襲撃事件より一週間後。

 貴族学院内にあるダロシウ王太子の自室。

 向かい合って座るのはダロシウとレイテア。


 ダロシウの表情は硬い。


「レイテア、単刀直入に言うよ。君はアテナにもう関わるべきでない」

「殿下……」

「もちろんここを卒業した後に国防省に入るのもなしだ」

「……」

「君は私の婚約者であり、すなわち将来の王妃。身の危険を抱えたままでは私が安心出来ないよ」

「……それはわかります」

「いや、わかってない。自らゴーレムに乗り込み戦場に出向く。もしも、もしもだ、捕虜となった場合、敵にとって君の価値は計り知れないものとなる」

「……」


 レイテアは拳を握り締め俯く。


「アテナの技術を参考にして新型ゴーレムの開発を始めた。君が出なくてもいいように、だ」

「帝国の侵攻は二十年前が最後でした」

「ああ。痛み分けといった結果だったが」

「ディーザ侯爵領事件、そして今回のこと、搦手を使ってきています。きっと次の侵攻は大掛かりなものになるかと」

「それは君が考えることではない。君はただの公爵令嬢だ」


 レイテアの中にいる男の意識はない。ディーザ侯爵領事件の後、まるで睡眠をとるかのように、一定時間沈黙するようになった。レイテアもまた同様に。


「そのあたりをルスタフ公爵ともよく話し合うことだ。君がしていることの是非をな」


 退室した後、レイテアは講義棟へ向かう。

 途中待っていたのはオリドアだ。


「レイテアさん、顔色が優れませんわよ」

「オリドアさん……」

「あんなことがあったから無理もないわね」

「あ、いえ。あの時のことはもう何も」


 途中から意識がなかったレイテアは、事件の翌日にカシアやエミサからことの経緯を聞かされたのだ。


「オリドアさん、わたくしが国を守るために働くというのは、王太子婚約者として相応しくない行いなのでしょうか」

「殿下に言われたのですね」

「はい……」

「慣例に従えば異例なことでしょう。でもディーザ領で起きたことをこの目で見た私からすれば、帝国の脅威は三十年前とは比較にならないと思います」


 レイテアの目を見据えてオリドアは続ける。


「あなたのアテナはきっと多くの人々を救うことになる。ご安心なさい。学院内では私があなたの盾となるから」

「いつも他の方々からのお誘いをわたくしの代わりに断っていただき、感謝しています」

「いいのよ。あなたを懐柔しようとするくだらないお茶会にあなたの貴重な時間を奪わせない。私もディーザ侯爵家の跡取りとして、あなたを支援する」

「オリドアさん……」

「殿下はあなたの身が心配でたまらないのよ。それはわかってあげなさいな」

「……はい」

「さ、次の講義が始まりますわ。急ぎましょう」



 講義室へ入ってきた二人、一瞬にして集まる生徒たちの視線。

 レイテアへ向けられる様々な思惑。

 それを意識しないようにしているレイテア。


 何としてもレイテアを取り込みたいのは国防省に連なる軍閥の貴族、その子弟たち。


 また将来の王妃としてのレイテアに近づきたいのはほぼ全ての生徒たち。


 そのどちらでもない視線もある。それらはレイテアよりも、彼女を守るように振る舞うオリドア、そしてレイテアに近づきはしないものの、結果的に彼女を庇うような立ち位置の生徒たちに向けられている。

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