人生道路の果てにある幸せの場所
ちびまるフォイ
一旦止まって安全確認
「あ、この世界にお生まれになったんですね」
「ええ。でも人生道路を通るのははじめてで……」
「最初は誰でもそうですよ。で、どの道にしますか?」
「人生カーナビにはこのまままっすぐ、と」
「ああそれでしたら、高速人生道路がおすすめですよ」
「じゃあそれで」
「いってらっしゃーーい」
高速人生道路に入ると、人生速度のギアを上げた。
遅い人生速度では走れない。
「どけどけどけーー!」
「俺が最初に人生の最高到達点へたどり着くんだ!」
「負けるか!! 幸せになるぞーー!!」
周りにあおられて負けじとアクセルを強く踏む。
道路の道中にはいくつもの大破した人生脱落者が倒れている。
それらを踏みつけてトップスピードでかっとばす。
みんながこの人生高速道路の果てにある
「幸せ」というサービスエリアに到着を夢見ていた。
『この先、就職!』
『この先、結婚!』
『この先、こども!』
いくつもの人生標識が脇をかすめていく。
ハンドル操作に失敗するとたちまちコースアウト。
ラジオからは繰り返し急かされる言葉が繰り返された。
>人生は短い!!
>後悔するくらいなら、今すぐ行動!!
>今すぐ動いたものだけが勝利者!!
なんとか人生高速道路を走っているが徐々に体力が限界を感じる。
「やばい……もう運転できそうもない。
でもどこかで休める場所もないし……」
誰もが不眠不休で道路をかっとばし、
人生のあらゆるイベントを一気に詰め込んで進んでいく。
途中で休んだり、スピードを緩めたら
この道路の先にある幸せにはけしてたどり着けないからだ。
しかし……。
「もう……限界だ……」
神経すり減らしながら、ハンドルを握り続けることも限界。
ついに人生高速道路を降りてしまった。
人生ETCレーンでは料金所のおっさんが驚いていた。
「おや。せっかく人生高速道路だったのに、降りちゃうのかい」
「もう疲れてしまって……」
「そういう人多いよ。んでも、たいてい戻ってきちゃうんだよなぁ」
「いや自分はもう……一般人生道でいいです……」
高速道路を降りて一般道へと同流する。
さっきまでの爆走はどこへやら。
厳しい制限速度によりゆっくりと人生が動いてゆく。
「あら人生高速道路から来たのかい?
あっちはせわしなくてだめだ。こっちはもっとゆっくりだよ」
「ええ。それはよかった」
人生一般道をゆっくりと進む。
高速道路ではいくつもの人生標識が出てきたが、
一般道に入ってからというものまったく見ない。
あまりに出ないので横を並走する他の人に聞いてみた。
「あの。ちょっといいですか?
どうしてここには人生標識がないんです?」
「おかしなことを聞くね。なんで必要だと思うのさ」
「だって人生の分岐点や選択がともなう場合には
人生標識が欠かせないでしょう?」
「ははは。一般道を進んでいてそんなものがあるわけないだろ」
そういうと隣の人はまた進んでしまった。
自分も流れにのって進んでいく。
完全に整備されたまっすぐな道を、同じ速度で進んでいく。
いつしか人生自動運転モードに切り替え、
ついには人生ハンドルからも手を離してしまう。
「代わり映えしないなあ……」
窓から見えるのは、一定周期でループする景色だけ。
前後左右を車で囲まれているので、車線変更も追い越しも不可。
これが自分の求めている人生の進み方なのだろうか。
「これでいいんだよな。あんなに急かされるのも嫌だし。
こうしてずっと低速で進むのがいいんだ」
この道をどれだけ進んでいても、もう人生標識はないだろう。
今あるすべての材料を持って幸せを作り上げるしかない。
運転するストレスからは解放されたが、
幸せを追い求める道からもはずれた気がする。
そのときだった。
「うわ!? うわわ!? はっ、ハンドルが!?」
急にがくんと車が傾き、コースアウト。
あわてて確かめるとタイヤがパンクしていた。
「おいおいうそだろ……」
もうこのまま一般道を進むことはできない。
まして助けを呼ぶことなども。
この一般道では等間隔で同じ速度で誰もが動いている。
道をはずれたもののために、列を乱せばたちまち大渋滞。
誰も助けにくるわけがなかった。
「おおーーい! 誰か止まって! 助けてくれーー!」
もちろん誰も止まらない。
チラ見こそすれ、みんな自分の人生でいっぱいいっぱい。
「どうしよう……」
途方にくれた。
もう自分は人生道路を進むことはできないのかもしれない。
この道路の先にある幸せにはたどり着けないのかも。
へたりこんで空をあおいだ。
「ああ俺はこれから人生をどうすれば……ん?」
ふと視界のはしに獣道が目に入った。
そこは道路を突っ走っていたら気付けないほど狭く細い道。
「こんな道あったのか……?」
雑草を押しのけながら道を進んでいく。
やがて開けた場所にやってきた。
そこにはでかでかと「人生空港」と書かれていた。
「いらっしゃいませ。ご搭乗ですか?」
手段を失っていた自分には選択肢などない。
「はい。乗ります!」
「まもなく離陸です。座席に座ってくださいね」
自分が最後の人だったのだろう。
人生飛行機に乗るとあっという間に飛び立った。
空からは自分がこれまで通ってきた人生高速道路や一般道が目に入る。
窓際に座っている人に思わず話しかけた。
「あの、高速道路そっちから見えますか?」
「ええ見えますよ。もしかして高速道路から来たんです?」
「はい。果てにある幸せのサービスエリアを目指してて」
「そうなんですか。でも見たところ何もないですよ」
「え? でも最終地点には幸せが……」
「あるのは事故現場と、それによる大渋滞だけですよ。見ます?」
「ほんとだ……」
スピードを出しすぎたいくつもの人たちが玉突き事故を起こし、
高速道路の果てに待っていたのはスクラップと大渋滞。
幸せなんか待ち受けちゃいなかった。
「それじゃ一般道の果ては? 果ては見えますか?」
「ありませんね」
「ない?」
「いえ、一般道は……ほらずっとループしてるんですよ」
「あっ……本当だ……」
一般道を走っているときは気づかなかったが、
こうして空から見てみると一般道はムゲンのようにループしていた。
どこまで行っても終わりはない。景色が変わらないわけだ。
「まもなく人生飛行機、到着です」
ドスン、という衝撃とともに着陸した。
飛行機を降りると待っていたのは見たこともない景色だった。
「すごい、ここは一体どこなんです?」
スタッフはにこやかに答えた。
「"幸せ"という島ですよ。ここは空からしか来れないんです」
人生道路の果てにある幸せの場所 ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます