01.コーヒーはブラックで


 昼間の目抜き通りは人で賑わっている。


 行きつけのカフェで買ったホットコーヒーを手に、外のテーブル席に座って新聞を読むアルバートは、長い足を組み替えた。


『エイブリー家のご令嬢、三ヶ月前から行方不明。事件に巻き込まれた可能性を含めて警察は捜査中』


 見出しの文字とともに、新聞には若い女性の写真が載っている。いかにもお金持ちのお嬢様らしく、美人で品のある外見をした女性だ。

 記事の内容を軽く流し読みしていると、何人もの買い物客や観光客が楽しそうに会話をしながらアルバートの前を通り過ぎていく。


 その会話のなかで、やたらと耳にする言葉があった。


「満月美術館に、噂の絵画を観に行こう」


 この言葉を聞いたのは、一度や二度ではない。

 満月美術館には『動く絵画』があるというのだ。


(噂の絵画か……ただの話題作りに騙されちゃって)


 美術館の話題作りにまんまと引っ掛かっている人々を横目に、アルバートは新聞を手に立ち上がる。空になった紙コップをゴミ箱に捨て、春の日差しを浴びるように両手を上げて身体を伸ばした。


(夜の労働まで、一眠りするか)


 アルバートは大きな欠伸をすると、ジーンズの尻ポケットに新聞を押し込み、目抜き通りを歩き出した。



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