Ep.6-3 名無しの権兵衛

※アラームを信じていたら裏切られました(22:10更新)

22時更新の約束、守れずごめんなさい!

ですが今回はその分、かなり気合を入れた話を投下します。


皆さま、どうか最後までお付き合いください!


―――――――――――――――――――――


 それから。

 しばらくして、ヌルティスからの説明が一段落ついたところで。

 

『……では、話も長くなってしまったし、そろそろ君を生き返らせる準備に取り掛かろう』

 

「はい!」

 

 俺はいよいよ、現世へ生き返ることができる。


 そんな期待に胸を膨らませていたところで……。

 

『ナナシ! 少し来てくれ!』


「えっ」


 ヌルティスはいきなり、この場に新たな闖入者を迎えるべく、その名を呼んでいた。

 

『はーいっ! 呼びましたか?』


 すると。

 柔らかく、それでいて可憐な声と共に。

 俺の目の前には、いつの間にか、あの時の白い少女が現れていた。


「あ…………!」


 朝、現世でゴミ箱に引っかかっているところを俺が助けて。

 そして夕方、俺が謎のバケモノに襲われていたところを助けてくれた、あのロリが。

 

 そうだ。


 俺はこの世界に来てから、最初のうちはずっとこいつを探していたはずなのに。

 それどころか、ユピテルやヌルティスと会って話している最中にも、こいつの話を出していたのに。


 結局のところ、ヌルティスへ感情をぶつけているうちに、俺はこいつのことをいつの間にか忘れてしまっていた。


 それどころか、当時はドタバタしていて気付かなかったけど、俺はまだ、こいつの名前すらまだ訊けていなかった。


 けど。


 そうか。

 こいつ、ナナシっていうのか。


 よかった。

 一時はどうなるかと思ったけど、やっと会えた。


 ……しかし、そんな感動の再会を喜ぶ暇もなく――

 

「うわ臭っ! お前あれからフロ入ってねえな!? きったねえな身体洗えよ!」

 

 彼女の後頭部から、鼻腔を突き刺すように漂ってくる、腐敗臭に顔面を殴りつけられるようにして、俺は思わずロリにそんな言葉を投げかけていた。

 

『えっ!? ……ええええぇっ!? ねえ、いきなり酷いよ! 女の子にそれ言っちゃダメだって!』

 

 すると、ロリの方も俺の声に驚いてこちらを振り向き、すかさず女の子アピールをしながら俺の発言を咎めてきた。

 

  ……いや、こいつ魂だけで、性別ないだろ? 

 ヌルティスは話を聞いた限り性別とかないらしいし、ユピテルは見た目が完全に男だけど、この感じなら死神に性別の概念なんてなさそうだし。


 あ、でも見た目は思いっきりロリだから、そこはちゃんと気にしてんのかな?


『……ああ。私はともかく、他の死神こどもたちに魂の性別はあるよ。……彼女も忙しくて魂を浄化する暇がないのだ。許してやってくれ』


 対してヌルティスも、そんなロリの言葉の意を汲み取り、彼女に味方するかのように、そう付け加えた。


「あー、なるほど。そういう感じなんですね。っていうか死神の風呂って、体洗うとかじゃなくて魂を直接浄化するんだ……」


 だから俺は、二人の言葉を素直に飲み込み、ロリの事情を察してやった。


 ってなると、万物の“父”って呼ばれてるヌルティスに性別の概念がないのが違和感あるけど……。

 まあ、それはいいや。


 ――いや、よくない。

そんなことはどうでもいいんだよ。


なんで俺は死神たちのフロ事情について詳しくなってんだよ。


 こっちはそんな、魂の入浴マナーの話なんかどうでもいいんだよ。


 まずは自分の身を案じるところからだろ。


『――そうなるな。……話に戻るが、君には彼女と契約し、現世に生き返ってもらう』


「…………契約、ねぇ。さっきも言いましたけど、そんな付け焼き刃の能力を得て生き返ったところで、本当にマルスに勝てるんですか? ……それに、能力を得ても結局マルスに敵わず殺された場合が怖いんですけど。……もし、そうなったら。二回目も死んじゃったらその時はどうなるんですか?」


 そう思って投げかけた疑問は、答えられることもなく。


『そうならないように、彼女を呼んだのだ。……ナナシ。今日から、君が彼を護衛するのだよ』


 明らかな不安要素になりうる、ヌルティスの頼りなさすぎる采配によって、闇へと葬り去られていた。


「はあああああああああああ!? いやいやいやこいつ俺を守れてなかったくないですか!? そんなのに護衛任されてもらっても困るんですけど!? こいつじゃ些か力不足って、さっき自分で言ってませんでした!? 本ッッッ当に、こいつは俺を護り切れるんですか!? 結局、また死んだらその時はどうなるんですか!??」

 

 だから俺は、無の方角へと消し去られた自分の質問を再び投げかける。


 答えられなかった質問は、拾われるまで投げまくれ。 

 これをやるとウザがられることが多いが、しかし無視されてしばらくずっとモヤモヤするよりはマシだ。


『……保険をもって生き返ってもなお、二度目の死を迎えた場合、か。……そうなった場合は、すまないが、もう生き返れないな』


 そんな自分流ゴリ押しメソッドをもってして掴み取った質問の答えは、ありえないほど冷たいシステムの説明だった。


「マジですか。あの、正直に言っていいですか? 酷すぎます。ボスがこうなった元凶が別にいるのは分かりましたけど……俺は、そんな変なシステム納得できません。あまりにも、ふざけんなんよって感じなんですけど」

 

『変なシステム、か……、すまない。本当に、申し訳ないよ。……しかし、どれほど足掻こうと、抗えぬ死の運命は確かに存在する。その災厄を越えられぬ者は、ただ静かに命を終えるだけだ。――運命とは、全ての命に等しく牙を剥く。ただ、それだけのことなのだ』

 

 けど、そんな突き放すような冷たい説明になった理由は、単なるヌルティスの独断ではなく、運命や因果がどうのとかいう、スピリチュアル的な要因っぽい。


「……あー。まあ、はい。……でも、生き返ったところで何もできずに死ぬくらいなら、俺は契約の力を使ってマルスと戦う運命を選びますけど……」


 なら。

 そんな運命、俺は捻じ曲げてやる!


 なんて、主人公ぶった瞬間。


『そう言うと思ったよ。だから少し君を試させてもらう。“死神”との力の差――格の違いを、まずは身をもって感じてみなさい』


 ヌルティスはそう宣言すると共に素早く手を掲げ……いつの間にか、パチンと指を鳴らしていた。


『――ユピテル!』


 そして。

 聞くだけで嫌な記憶が脳内に溢れてくるくらい、この短期間で死ぬほど嫌いになった例のアイツの名を呼んだ。


 ……案外悪い奴じゃないと分かっていても、やはりあのノイローゼに対する嫌悪感は消えていなかったというか。


 直後、綺麗な指パッチンの音が、塔全体に木霊するように柔らかく響き、同時に俺の眼前から、いきなり金髪の美青年が現れ――


『アヒャッ! 呼びましたかぁボスゥ!?』


 もはやいつも通りと言えるくらい聞き慣れた、気味の悪い笑い声を上げて、無からノイローゼ野郎が飛び出してきた。


「うわっ、出た……」


『アヒャヒャッ!! そう言ってられるのも今のうちだぜ、組木勇翔――!』


 口ではそう言いつつも、俺は身構える。

 こいつと俺とで、どれだけの力の差があるのか――。


 それはまだ分からないけど、受けて立ってやる……!

 と、思ったら。


『きゃああっ!?』


 何故か、ロリの悲鳴が聞こえた。


 瞬間、奴は前傾姿勢から素早く拳を突き出し。

 かたや俺は、大事な大事なおポンポンちゃんに突き刺さった、ユピテルの渾身の一撃を受けて。


「ゔぐォッ……!?」


 腹をられたと認識する頃には、激しい腹の痛みと、そして新たな痛みと衝撃が、背中を襲ってきて。

 それから数秒遅れて、俺はようやく自分の身体が宙を舞い、後ろに吹っ飛ばされて、壁に激突していたことに気付いた。


 恐らくあのロリは、俺が殴り飛ばされたことに悲鳴を上げたのだろう。


「ぐああああああああああああああッ!?」


 ――と、意識が追いついた瞬間、全身を苛むように、ありとあらゆる体の部位から激痛が押し寄せてくる。


『大丈夫!?』


 すぐさまロリが駆け寄ってくるが、しかし俺は自身の無力さに打ちひしがれるのに精一杯で、彼女のことなど気にしていられなかった。


「ぐッ……がはっ、ごほッ……! く……ッ、そォ! なんだよこれ、こんなに力の差があんのかよ……!」


『ああ。“死神の力”を理解してもらうには、これが一番手っ取り早い。……組木勇翔よ。人間と、死神。契約を挟まぬなら、たったこれだけの種族の違いでここまで差がつくのだぞ。それでも、君はマルスと戦うというのか?』


『…………! そんなのやりすぎです、ボス!』


『いや。……マルスの攻撃はこんな生半可ものではない。彼奴は、一度狙った相手は絶対に逃がさん。今の場面でも、既に君が斃れてもなお、彼奴はユピテルよりも容赦なく、君を激しくいたぶるだろう。……それだけ残忍な死神と戦うのだと意気込もう者が、これくらいで折れてもらっても困る。それだけの話だ』


『だからって……!』


『いーんだよ、黙ってろナナシ。……わかったか? 人間がナマ言ってんなよ。俺はお前なんざより100倍強ぇんだ。ククッ、アヒャヒャヒャッ!』


 抗議するロリの声と、突き放すようなボスの声。そして、ユピテルの不快な笑い声が、耳鳴りの奥からぼんやりと聞こえてくる。

 だが、負けるわけにはいかない。


「……だから、なんだよ…………!」


 息ができない。


 うまく、声が出せない。


 けれど、俺は床に這いつくばりながら、そう吐き捨ててやった。


 ――そうだ。


 今ので、よく分かった。

 人間の俺じゃ、どうあがいても死神には敵わない。


 さっきの一撃だってそうだ。

 俺は、あれに反応すらできなかった。


 けど。


『それでも……俺はもう、黙って殺されるのはごめんなんだよ! マルスって野郎の……それも一番下っ端にやられたまんま終わるなんて、冗談じゃねえ!!』


 そう喚いて、俺は拳を握り締める。

 どれだけ身体が痛くて、苦しくても、それでも立ち上がろうともがいてみせる。


『ああ。その“執念”こそが、君の大きな武器になる。しかし組木勇翔。これから君は、その死神と“契約”するのだ。契約して能力を得れば、身体能力も一時的に向上し、対等に戦うことができる』


『だからこそ、君に問おう。――ナナシと契約し、その身に死神の力を宿してでも、生き返る覚悟はあるのか?』


「……あるに決まってんだろ!! だからさっき、マルスと戦うって言ったんだよ!」


 そして。

 俺はヌルティスの問いに答えるべく、そう啖呵を切って、歯を食いしばりながら、立ち上がってみせた。


『へっ、腹パン食らったばっかだってのに、お前の減らず口は変わんねぇな、組木勇翔。……けどな。マルスは俺たち全員を敵に回してもなお、未だずっと生き延びてるヤベー奴だ。お前はこれからそんな奴にケンカを売る。が、ヒラの俺に負けてるようじゃ、先が思いやられるぜ?』


 しかしその直後、ユピテルにもろ煽られたことで。


 あんのクソ野郎、絶対許さねえ……!


『……やめろ。それ以上煽るな、ユピテル。……すまないな、組木勇翔。話が脱線してばかりだが、“契約”して君の魂を強化する理由はこれだ。その契約相手がナナシなのも、実は理由がある』


 と、俺は闘志を燃やしていたが、しかしヌルティスがその争いを諌め、再び説明を始めた。


「……げほっ、ごほッ…………、へぇ。まあ、“試す”ってのは、今ので何となく意味が分かりました。けど、俺の契約相手がロリじゃないといけない理由はまだ分かりませんね。説明してくれます?」


 だから俺は、やっとの思いで息を整え、そして話の長さが校長先生超えの超説明おじさんに、あえて挑発的な態度でまた質問を投げる。

 

 ……なんだよこの、妖怪スーパー説明おじさんvs妖怪クエスチョンマンの戦いは。

 

 正直、俺自身、この長いせつめいがいつまで続くか分からないから、自分でも呆れてる。

 すまんね、色んな意味で。

 

 けど、この戦いの結果を見届けてもらうまで、俺は絶対に諦めないつもりだ。


  ――Ep.6-3 【名無しの権兵衛】



―――――――――――――――――――――


ここまで読んでくださりありがとうございます!

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更新は不定期になったりしますが、今後もマイペースに投稿していきますので、よろしくお願いします!

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