俺たちのパラダイス -少年たちの死神狂騒曲-

故ク太郎

第1章 ―無垢の誓い―

プロローグ 導かれた魂の縁

とりあえず投稿したくて投稿しました。


※完結までに時間がかかるかもしれませんが、気長にお付き合いください。

更新は不定期ですが、全力で物語を紡いでいきます。

どうぞよろしくお願いします。


――――――――――――――――――――――


「はあ……。来ちゃったよ、視察の当番…………」


 柔らかい春の陽射しが、未だに残る冬の気配を溶かすように射し込んでいる。


 やや冷たい空気に満ちた、青空の元に広がる“四神代しかじろ”の街を一望しながら、少女は小さく溜息をついた。


 本来であれば立ち入りが禁止されている高層ビルの屋上から、少女はこの街を見下ろしていた。


 少女は異質な雰囲気を纏っていた。

 青白い肌に、プラチナブロンドの髪。


 ……見た目こそ人間の少女のそれだが、しかし彼女の本質はまるでこの世界に馴染みのない、特異な存在のようであった。


 短く切られた、少女のボブショートヘアが風に揺れる。


「視察なんて嫌だなあ……。私、まだ飛ぶのだって下手なのに……」


 そんな彼女も、人間らしい感情を露わにして、面倒くさそうに呟くことはあった。


 少女は愚痴をこぼしながらも、眼下に広がる人間たちの営みに目を向ける。

 飛ぶのは苦手だし、怖いという感情も湧いてくる。


「……でも、やらなきゃ怒られるし」


 怖がってばかりではいられない。


 それに、せっかく視察に来たんだから、どうせなら観光も兼ねて、自分の興味の趣くままに色んなものを観察してくればいい。


「バレたら怒られるだろうけど…………」


 何もできずに帰って来る方がもっと怒られるし、それよりはずっといい。


「よしっ……!」


 そう自分を奮い立たせて、少女は勇気を出す。

 もし上手く飛ぶことができたら、自身の興味を思う存分満たしてあげようとご褒美を設け、少女は屋上を囲う柵の前に立つ。


「ふー……」


 少女は集中するために目を閉じた。


「えいっ!」


 直後、少女は覚悟を決め、目先に広がる小さな街へ飛び立つべく、眼前を阻む柵を飛び越えた。


 高所から飛び降りたことで、当然身体は落下する。

 そこで少女は飛行を解禁。


 しかし、これまでずっと上手くいかなかった飛行のコントロールが、急激に上手くいくわけもなかった。


 だが、少女はその事を念頭に置いて飛び立っていた。

 自分の身体を浮き上がらせるためには少し時間が必要なことなど、何度も練習して失敗してきた少女が理解していないはずがなかった。


 むしろ失敗ばかりしてきた少女は、自身の飛行の性質を熟知していた。

 だから、16階立てのマンションを飛び立つ場所に選んだのだ。

 高すぎると練習にはならないし、低すぎても地面に打ち付けられるだけ。


 でも、これくらいの高さならいい練習になる!


 ごうごうと音を立て、冷たい空気が少女の顔を強く叩きつけるように吹き抜ける。

 果てしなく広がる青空の下にあった小さな街が、次第に大きく姿を変えていく。


 落下していく恐怖と、空を飛んでいる解放感が綯い交ぜになった気持ちで、少女は飛行するための準備に移っていた。


 遠かった地面が、凄まじいスピードでどんどん間近に迫ってくる。

 そして、少女はそのまま、地面に叩き付けられる……


「やあっ!!」


 ……かと思われたが、彼女はそうなる前に身体を急上昇させていた。

 

「おっ……とっと……!」


 上昇したのち、少女はフラフラしながらも、何とか飛行を継続することに成功していた。


「あ……! やったっ! できたぁーっ!」


 そのことに気づいた少女は、嬉しさのあまり空中でガッツポーズを決めていた。

 その時に少女が見た景色は、高層ビルの屋上から眺めていたそれとは全くもって違っていた。


 彼女の眼前には、ビルの屋上から眺めていた時よりも壮大な、見慣れぬ世界の景色が広がっていたのだ。


「わあ……!」


 常にこの街で生活している人間からすれば、彼らは自分たちがどれだけ矮小な存在なのかを分かっていないのだろう。


 だが少女は、初めてこの街に降り立った時、ここを“なんて小さな世界なんだろう”と思った。

 

 少女がこの地を見くびっていた訳ではない。

 少女は、知らなかっただけなのだ。

 人間の世界がいかに広いものなのかを。


 ――と、そこへ突風が吹き抜けた。


「わっ! ちょっと待って、やだやだやだ!」

 少女はそれに驚いて声を上げたかと思えば、風に髪を乱され、軽い体をふわりと持ち上げられそうになるのを必死で踏ん張っていた。


 しばらく持ち堪えていると、風は止んだ。


「うう……っ! 酷いよ! これだから外は嫌いなんだ……!」


 不意を突かれたとはいえ、少女は早速バランスを崩されて半泣きになっていた。

 

「……っ。でも、仕事に戻らないと」


 しかし、いつまでも弱気になっているわけにはいかない。

 今の少女に与えられた役目は、この区画に住まう人々の生活を視察し、異常がないか報告することだ。


 もし、この世界に“異常”が発生した時は、もちろんその危険因子を排除しないといけない。


 ここで言う“異常”とは、最近よく報告されている怪物のことだ。

 視察から帰ってきた仲間が持ち帰ってくる報告書には、よく「人間や動物が溶け混じって混ざりあったような見た目の奇妙な怪物」の存在が記されていた。


 ……そんな怪物を放置しようものなら、人間はみんな殺されてしまう。


 だから。

 この世界を守るためにも、少女は使命を全うしなければならないのだ。


「よしっ、頑張るぞー!」


 彼女はその役割に責任を感じて、再び視察に戻ろうとした。


 しかし。


 ――ビュオオオオオオオオオォォォォォ!


「うわっ!?」


 意気込む少女のもとに、再び突風が吹いた。


 その風は先程吹いたものよりも一段と強く、しばらく少女の小さな肢体を揺らしてはコントロールを乱し続けた。


「くっ……! うぅ……………………っ! きゃああああああああっ!」


 少女は最初こそ耐えていたが、いずれごうごうと吹き荒れる強風に耐えきれなくなり……今度こそ吹き飛ばされてしまう。


 少女は飛行のコントロールを完全に失っていたため、ぐるぐると回転しながら落下し、次の瞬間には街路樹に突っ込んでいた。


「あばばばばばば!!」

 そこから勢いよく枝の間を突き抜け、彼女は全身傷だらけになりながら木から転げ落ちた。


「うぅ……っ、痛ったぁ…………!  なんでこうなるの……」


「はあ……。またやり直しか……」


 そんな痛みに悶えながらも、少女はやっとのことで立ち上がり、再び飛び立つために集中しようとした。


 だが。


 ガルルルルルルルルル……ッ


と、後方から、突然唸り声がした。


「え……なに…………?」


 その声に、少女は恐る恐る振り返る。


 彼女の背後には、日中であるにも関わらず、真っ暗な路地裏が広がっていた。


 ……そして。


 そんな闇の中には、一匹の野良犬が少女を睨むように立っていた。

 日が差し込むことのない闇の中で双眸をギラリと光らせ、特徴的な潰れた顔で剣呑にこちらを睨むその野良犬は、ブルドッグであった。


 しかし少女は、この世界に住まう人間以外の生物の細かい名前など知る由もなかった。


「……うそでしょ?」


 何も嘘ではなかった。

 この犬は、紛れもなく少女を狙っていた。


 その気迫に圧され、少女は慌てて後ずさる。

 だが、野良犬はその一瞬の隙を見逃さなかった。


 ――ギャウッ、ギャウッ!

 刹那、野良犬は牙を剥いて勢いよく地面を蹴りだしていた。


 ブルドッグの中でも一際大きな身体を持ったその野良犬は、見た目にそぐわずしなやかに跳躍し、少女に飛びかかってきたのだ。


「わあああああ! やだやだやだやだーっ!」

 しかし少女も、野良犬に負けない軽やかな身のこなしで逃げだしていた。


「ワンワンワンワンッ!!」

「ひいいいいいっ!?」


 少女は何度も後ろを振り返りながら全力疾走していた。


「助けてーーーーー! っ…………わぁ!?」

 しかし、後方ばかりで前への注意が疎かになっていた少女は、案の定躓いてしまった。


 少女の小さな身体は思いっきり空中に投げ出され―――前方に都合よく置いてあった、蓋の開いた大ぶりのペールにすっぽりと収まっていた。

 

 まるで時が止まってしまったようだった。 

 野良犬は驚いて動きを止めていた。


 少女も、ゴミ箱の中でフリーズしていた。

 少女も野良犬も、何が起きているのか分からないといった様子で固まっていた。


 が。


「――ぎぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「キャウンッッ!?」


 しばらくして、止まっていた時が動きだした。


 少女は自分がゴミ箱に頭からダイブした事に気づくのに3秒ほどかかった。


「うぎゃあああああああ!! 何コレ! 臭い臭い臭いっっ! 抜けられないよぉ!! …………あああああああ! これじゃ空も飛べないじゃん!! どうしよーーーーーーッ! 誰か助けてーーーーーーーーーーーーーーッ!!」


 そして、少女は盛大に取り乱した。


「キャインッッッッ! キャンッ! キャンッ! キャウンッ!!」


 ブルドッグは少女の咆哮に怯え、さっき少女を狙っていた時の威勢はどこへやら、恐れをなして逃げだしてしまった。

 まあ、無理もないだろう。


 少女たちにとって、この状況はそれほどまでの珍事件だったのだから。

 いや、誰が見てもそうか。


  野良犬にとっても、 誰が見てもこんな光景、滅多に見られないだろう。

 幼い見た目の少女が野良犬に追いかけられて、つまずいた弾みでゴミ箱に頭から突っ込んだ光景など、誰が見たことあるものか。


 ――いや。

 そんな事はどうでもよかった。


 このままじゃ、本当にまずい。

 ふと、少女はそんな危機感を覚えていた。


 何故なら、人間に少女の声は聞こえないから。

 この声を聞きつけた誰かが、少女を助けに来る可能性は限りなくゼロに近かったからだ。


 この世界に住む人間には、少女が空を飛んでいる姿も見えないし、少女がどれだけ声を張り上げてもその声は聞こえない。


 それに。


 少女は知っていた。

 長い間この世界に留まり続けると、自分の存在は少しずつ消えていってしまうことを。


 つまり、ゴミ箱に頭を突っ込んだせいで飛ぶことができない少女は、このまま足をじたばたさせながら自身の消滅を待つことしかできなかった。


 ――しかし、まだ希望はあった。

 少女はまだ、完全に孤立したわけではなかった。


 少女の声が聞こえないのは人間だけだ。

 ならば自分と同じ、この世界に視察に来た仲間に助けてもらえばいい。


 可能性が限りなくゼロに近いといっても、低い“だけ”だ。

 ゼロじゃないだけ、まだマシだ。

 まだ、可能性はあるのだから。


 少女はひたすらSOSを送っていた。


「助けてーーーー!! 誰かーー! お願い!! この声誰かに届いてーーーーッ!」


 そうだ。

 まだ時間はある。


 自分はまだ、この世界に来てから数十分しか経っていないのだ。

 自分が消滅するまで、まだ数時間もの猶予がある。

 それまでには、きっと誰かが気づいてくれるはず。


 そう信じて、少女は足掻いた。

 まだ時間はたっぷり残っている。

 だったら消滅するまでの数時間、声が枯れるまで叫び続けてやる。


 そんな想いを胸に、少女はひたすら叫びながら助けを求め続けた。



 ……あれから、何時間経ったのだろうか。


 いや。


 そもそも、まだ一時間も経っていないだろうか。


 だとしたら、何分経ったのだろう?


 まだ、助けは来ない。


「お願い……。誰か……気づいて……!」


 でも。


 ――もし、誰も来なかったら?


 切実に願う少女の脳裏に、ふとそんな非情な言葉がぎってしまう。


「…………………っ!」


 少女の中に湧きあがった、考えるだけでも恐ろしい“タラレバ”は、それを生んだ彼女の心を蝕むように恐怖の底へと陥れる。


 時間だけがどんどん過ぎ去っていく。

 その感覚が、少女を確実に追い詰めていった。


 人間ならざる異質な存在である少女にも、心はあった。

 それは、“生きる”という行為に不可欠な思考や記憶、そして感情を生む原動力である。


 彼女の心がどのようにして存在しているのか、それを問うのは難しい。

 しかし彼女は、“面倒くさい” “楽しい”……そして“怖い”といった人間らしい感情を確かに持ち合わせていた。


 だから。


「うわーっ!? なんかロリがゴミ箱に頭突っ込んでるー!?」


「っ!?」


 その時、そんな少女の切実な願いに応えるように声がした。


 瞬間、少女の胸にはかすかな希望の光が灯っていた。


 ……しかし、少女の胸中には、希望と同時に困惑の感情も広がっていた。

 何故なら、恐らく声の主は人間だからだ。


 人間に、自分の姿は見えない。

 それは少女たちの共通認識だった。


 だが、この人間は少女の姿を視認して驚いている。

 その事実に、少女は動揺を隠せなかった。

 そんなことがありえるのかと、驚愕した。


「ねえ、そこに誰かいるの!?」

 だから少女は、一縷の希望に縋るように声を絞り出した。

 その時、少女の心は静かに高揚していた。



「うわーッ!? なんかロリがゴミ箱に頭突っ込んでるーーッ!?」


 組木勇翔くみきゆうとは発狂していた。

 彼は野暮ったく伸びた自身の黒髪を掻き毟りながら、錯乱していた。


 彼の友人やクラスメイトは普段から喚き散らかす勇翔の姿を見慣れているのだが、しかし今回は街中での発狂だ。


 道行く人々が向ける白けた目線の数々に心を痛めながら、絶賛登校中の組木少年は、良心と自身に降りかかるリスクの狭間で揺れていた。


 ――少女を、助けるべきか。


「ゴミ箱に頭突っ込んで、足だけ晒して暴れてるロリ……あんなの放っておいたら後味悪すぎるだろ……! ここは助けるしか……。いや待て! 下手に関わったらどうなる……? もし通報されたら俺、変態扱いされるんじゃねえの!? しかも通学中ってオイ!」


「ヒソヒソ…………あの子……大丈夫かしら?」

「ママー! あれなにー?」

「ダメ! 関わらない方がいいわ! 行きましょ!」


 周囲からはそんな勇翔を哀れむ声が聞こえてくる。

 当然、勇翔もそのことには気づいていた。


「いや違う! 俺は正常だ! …………たぶん!!」


 だが、勇翔は自分がおかしいヤツだと思われていることを認めたくなかった。

 自分に言い聞かせるように頭を抱えて「俺は正常だ!」と街中で叫ぶ勇翔を見て、人々はさらに不審な目線を勇翔に向ける。


 ……それもそのはず、通行人に勇翔の言うロリは見えないのだ。

 だから、道行く人々にとって彼は、誰もいない路地裏に向かってロリとか叫んでる変な高校生にしか見えなかった。


 仮に、勇翔の知り合いがこの場にいたとしても、いくら見慣れているからといって、今の彼に関わろうとする者はいないだろう。


「くっそ! なんでこんなタイミングでロリと出くわすんだよ! 関わったら絶対やベーヤツだろ、これ! どうしよーーッ!」

 やべーヤツはお前である。


 しかし彼の目の前に映っている少女は、決して幻覚ではないことも確かだった。


「――ねえ、そこに誰かいるの!?」

「うわ喋ったァ!?」


 と思ったら、ゴミ箱幼女はいきなり話しかけてきた。


「声も聞こえてるの!?」

「あーあーなんも聞こえなーーい! 聞こえませーん! ロリの声なんか聞こえませーーんッ!」


 勇翔はそれに驚き、耳を塞いでいきなり「聞こえませーん!」と叫びだした。


 周囲の人々はいよいよその奇行を動画に収めだした。


「絶対聞こえてるじゃんっっ! ねえお願い、助けて! 私、ここから出ようと思っても身体が小さいせいで出れないの! お願い! 行かないでーー!!」


 少女はこれから自分を救い出してくれる人物がそんな奇行に走っているともしらず、必死にゴミ箱から出してもらうよう懇願した。


「お願い! 出してくれたら何でもするから! ね!? 見てるだけなんてひどいよ!」

「…………知らない男に気安くそんな事言ってたら、後悔するぞ?」


 そんな少女に対して、勇翔は揺れ動いていた良心を発揮し、声のトーンを落として静かに忠告した。


 彼女を、放っておくべきじゃない。


 そんなことは分かっていた。

 困っている人がそこにいるのに、助けることだってできるのに、助けない。


 ――そんな選択肢を一度でも取ったら、俺は自分を一生許せなくなる。


 そう思ったから、勇翔は自分がどうしたいか最初から決めていた。


「えっ!! ねえ待って! そんな冷たい事言わないで! いたいけな私をどうか助けてよ~!」


 しかし少女は、勇翔の忠告の意味をまるで理解していない様子で、泣きそうな声で懇願し続けていた。


 少女は少し調子を落とした勇翔の声を聞いて、相手を怒らせてしまったと勘違いしたのだ。


「だあッ……もう! しゃーねえなぁ! ちょっと待ってろ……! お前、本当に危機感ねえな……」


 そんな危なっかしい少女を見て、限界まで庇護ひご欲を刺激され続けた勇翔は、少女を助けるべくいよいよ路地裏に足を踏み入れた。


「……悪い。脚、触るぞ…………ッ!?」

 そして勇翔は、ジタバタと暴れる少女の脚を慎重に掴み上げた。


 しかし勇翔が掴んだ少女の脚は予想外に軽く…………そして、やけに冷たかった。


「冷たッ!?」

「きゃああああああっ!?」


 勇翔と少女は思わず声を上げる。

 ゴミ箱の中から引っ張り出した少女の肌は、人間の肌の温もりとは全くもってかけ離れていた。


 一方で少女は、空中に放り出されたことで驚いて声を上げていた。

 その際に、勇翔に向かって無数のシャッターが焚かれ続けていたことなど、当の本人は知らなかった。


 勇翔は暗い路地裏にいたため、知らなかった。

 周囲の人々からみれば、勇翔は何もないゴミ箱に向かってパントマイムをしているように見えていたことなど。


「なっ…………!?」


 当の勇翔は、忠告も聞かず、危機感の欠片もなく、ゴミ箱から解放されたはずみに抱きついてきた、ゴミ臭い幼女に押し倒されていただけなのだ。


 しかし道行く人々は、勇翔は精巧なパントマイムを披露しながら倒れたのだと信じてやまなかった。


 歓声や拍手が上がる中、勇翔は小さく呟いた。


「お前…………」


 少女の小さな掌が、勇翔の顔に偶然触れていたからだ。


 その手は、ひんやりとしていて……まるで生と完全に決別したように冷たかった。


 少女は黒く、丈の長い燕尾服を着用していた。


 またその衣装は、子供が着るには不自然なくらい、とても格式ばった服装で――


「本当に、生きてんのか!?」


「――どうかな?」


 ひどく、ちぐはぐな場面に遭遇し、信じられないとばかりに目を剥く勇翔の問いかけに対して、少女は小さく笑って問い返した。


 そんな少女が浮かべた笑顔はどこか儚く、何故か勇翔の心を痛めていた。


 ――Ep.0 【導かれた魂のえにし



――――――――――――――――――――――


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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