潜り姫の城艦

鈴ノ木 鈴ノ子

第1話

 ラスタリア王国には三人の姫君がいる。

 その末娘であるカルヴァルには一風変わったあだ名がついていた。

「潜り姫」である。

 海をこよなく愛し、浜辺に立てば誰からも振り向かれるほどの美貌を持つ、今では海軍軍人として姫将軍として艦隊を指揮するほどの実力を兼ね備えている。

 短い銀髪を海風になびかせながら、彼女は双眼鏡で前方を見つめる。ほどよい波と気候はとても過ごしやすい、狭い艦橋で手元のタブレットで各種データを確認しながら振り向くと海軍近衛艦隊所属の随伴艦二隻が波を裂きながら力強く進んでいた。

 葉巻型の細長い船体を持つ攻撃型潜水艦タルコーと、ややぼってりと膨らんだ背を持つ輸送型潜水艦ルソンだ。


「姫様、そろそろ、潜りましょう」

「ええ、艦長、そうしましょう。あとは任せるわね」

「承知しました」


 退役間近のエドワーズ艦長が指揮用のタブレットを受け取ると軽く頭を下げる。

 カルヴァルはメイドのアレハンドラが付き従って水密ハッチから伸びているハシゴを慣れた手つきで降りてゆく、最後に床を軍靴でカツンと叩くようにして甲高い音を響かせ降り立つ、これは彼女の流儀だ。甲高い音は潜水艦乗りにとって嫌われる行為だが、7歳から28歳の現在に至るまで変わらない行為であるし、艦の中では最上位を兼ねているので文句を言うものなどいない。

 

 超大型潜水艦「カルヴァル」。


 全長200メートル、タルコーとルソンが縦列にすっぽりと収まるほどの大きさ、形はやや楕円ね葉巻型で1軸スクリューが主流の現代において2軸の大型スクリューを備える旧式設計の戦略戦術ミサイル艦である。

 姉妹艦は数年前に全隻退役となって全てが鉄くずの露と消えてしまったが、この艦は[第三王女城艦](第三王女の住居)としての数奇な運命を辿り、その役目を帯びたが故に命を長らえていた。

 元は「900-1」潜と味気のない艦名であったが、指揮所に飾られている切り取られた外殻プレートがまだ外殻のとして張り付いていた頃に、王女が油性ペンで「カルヴァル」と可愛らしい文字が書かいたことによって艦名となった。

 数奇な運命をたどった潜水艦は王女の城艦であるが、多くの国民に親しまれる潜水艦として有名である。寄港地には一目見ようと人だかりができるほどだ。

 王女の気さくで飾らないスマートな言動も人気の一つだろう。

 王室記者と宮中侍従からは伝統を守らぬ問題児、素行不良の小娘などと度々に批判され問題視される数々の行為、それらが全てこの潜水艦が浮上する地に引き起こされるが、行動は多くの庶民が支持し絶大な人気となっていた。

 その身にひっそりと武装を宿し、鯨類のような艶やかな黒色の艦体肌の姿には、いつしか海中の貴婦人と例えられるほど。 だが、国民がこの潜水艦を目にしたとき、真っ先に思い浮かべるのは教科書にも載っている「カロロース諸島火山災害の救助潜水艦」であろう。

 少しばかり数奇な運命を辿っている潜水艦の話をするとしよう

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