君と僕のあしあと

日咲

第1話

僕たちはこのまま幸せの道を歩むはずだった。

あの事実を知るまでは。




 2XXX年4月

 ひらひらと桜が舞い、心地の良い陽の当たる晴れた日。僕は東京の大学へ進学するために上京してきた。自分の家系は特にこれといった特徴のある家ではなかったけれど、医者を目指したいと思うようになったのはいつ頃だったか。

必死に勉強をし、合格通知が届いた時は家族総出で大騒ぎだった。

そんな事をふと思い返しながら入学式に出る為の準備を済ませ家を出る。

大学の校門前には「入学式」と書かれた看板が置かれており、その前で記念写真を撮る人達が沢山居た。1人で上京してきた自分には撮ってくれる人も居ないから『写真は良いや』と通り過ぎようとした時「あ、あのっ...!すみません!写真撮ってくれませんか...?」とそう声を掛けられ、これが彼女との初めての出会いだった。


 それからしばらくは普通の大学生活...というか授業や課題に追われる忙しい日々を過ごしていた。次に彼女と会うことになったのは夏の初め頃の事だった。自分が入学した大学は行事もかなり充実しており、よくある学園祭から体育祭、ボランティア活動、修学旅行と色々あるが今日は学園祭での催し物を何にするか決めるらしい。学部それぞれで2〜4つ程の出し物を考えなければいけないんだとか。自分の学部である医学部では1つは飲食系、もう1つはお化け屋敷をする事になった。僕は飲食側をやる事になり、まあそこで飲食系と言っても何を出すかでそれなりに時間は掛かった。何やら医学部らしさを出したいのだと1人が脳を型どったプリンを出そうと言い出したり、指に似せたフランクフルトを出そうだとか、食欲が失せる物ばかりだったから「安定で焼きそばでいいだろ」と言ったところ、「じゃあお前が飲食班のリーダーやれや」とめんどくさいポジションを押し付けられ、頭を抱えるのだった。でも普通の焼きそば作っても面白くないのは分かっていたから、何か変わったことはしたかった。でもそのアイデアが思い浮かばず悩んでいると、「オム焼きそばとかってどう?それか塩焼きそばとソースの2種盛りとか?」と案を出してくれたのが彼女だった。

「あっ、急にごめんね!私、悠月ゆづき 詩音 しおんって言います!入学式の日に校門のところで写真を撮って欲しいって...お願いしたの私なんだけど...覚えてる?」

「あ、あぁ...うん...僕は結城ゆうき 蒼空そらって言います。よろしく...悠月さん。」|

 これが初めて彼女...詩音と交わした会話だった。詩音はかなり積極的で、あれやこれやと案を色々考えては提案をしてくれた。結局、手間や材料費を考慮して塩焼きそばとソースの2つを作ることにした。塩とソースの単体売りや合盛りでもトッピングで目玉焼きやら付ければ何とかなるだろうと考えたのだった。

「悠月さんが色々提案してくれて助かったよ。自分1人じゃもっと悩んでただろうし。」

「そんな事ないよ。自分がちょっと学園祭楽しみだし、せっかく飲食側になったから出来ることはしたいなって。」

「俺達だって案は出しただろー。却下したのは蒼空じゃーん。」

「指のフランクフルトだとか、脳みそプリンとか食欲失せるもの出すからだろ!」

「でもちょっと指に似せたフランクフルトは面白いかもよ?実際ちょっと私気になるし。」

「悠月さん...!?」

「おっ、悠月さん分かってくれる〜?医学部だからそういうのでアピールしたいよな〜?せっかくだし焼きそばに乗せようぜ!学園祭なんだから面白い方が絶対良いって!」

「えぇ.....まぁ悠月さんも良いって言うなら良いけどさ...」

「なんで俺達のは却下する癖に悠月さんが良いって言うと許可するんだよー!依怙贔屓えこひいきすんなってー!」

「してねーよバカ!」

なんて会話をしながら話し合いは和気あいあいとしながら進んで行った。


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