第3話
で。
課題を提出して学校を出ての今。
私は三澤君に手を引かれて、どこかへ連行されている。
職員室に課題を一緒に提出しに行ったので、流れで校門まで一緒に向かったのだ。
仲良くなったわけでもないけど一緒に課題をやったし、三澤君は思いのほかとっつきやすかった。
だから「また明日ね」くらいは言うべきか、なんてちょびっと考えていたら、職員室を出てからだんまりだった三澤君に手首をむんずと掴まれてしまった。
「礼がしたい。ついてきてくれ」と言ってきて、返事をする前に足を踏み出した三澤君。
いったいどこに行く気なんだろう。
だけどもう、五時半を過ぎている。登校初日に帰宅が遅くなればお母さんが心配する。
それに、背が高くて足の長い三澤くんの急ぎ足について行くのは私にはちょっとした運動で、心臓に負担かかかる。
しだいに息がはあはあと切れ始めた。
「……三澤、君、止まって。私、もう、走れない」
やっとの思いで言うと、三澤君は立ち止まって振り向き、驚いた表情をした。
「顔、真っ青! 俺のペースで走ったからか? ごめん!」
必死で謝ってくれる。
三澤君は悪くない。病気のことは伏せてくださいと学校に伝えているから、このくらいで私が調子を崩すなんて知らないんだもの。
「ううん。大丈夫、謝らないで」
「気がつかなくて悪い。体調が悪そうだな。礼はまた今度にするから、今日はもう帰ろう」
三澤君が眉根を寄せて、私の手をほどく。途端に、今までの友達の姿と声が頭に浮かんだ。
──つばさちゃんは病気だから仕方ないね。遊ぶのは今度にしよう。
──また体調悪いの? 無理しないで帰った方がいいよ。
「待って。行かないで!」
すがるように三澤君の腕に掴まった。
「みんなそう言うの。また今度ねって行ってしまうの。みんな心配はしてくれるけど、そばにはいてくれない。私が心臓の病気だから……!」
私……どうして今日会ったばかりの不良の三澤君に、こんなことを言ってるんだろう。
どうして泣きながら病気のことまで話しているんだろう。
三澤君だって困ってしまう。
でも三澤君はちっとも面倒くさがらずに、黙って耳を傾けてくれていた。
私が心に積もった澱をすべて出し切ってしまうと、朝日が照るような笑顔で頭をぽんぽんとしてくれる。
かと思えば、どうしたんだろう。
三澤君が私に背をむけてしゃがんだ。
「じゃあ、こうしよ!」
「え? きゃあ!」
えっ? おんぶ? 私、今おんぶをされてるの?
「俺が走ってやるから、一緒に行こう! 荷物、落とすなよ」
「ええ?」
しっかりと私の膝の後ろに手を当てておんぶを強固にし、走り出す三澤君。それも結構なスピードがある。
いくら私が小柄で痩せっぽっちの女子だからって、いくら三澤君ががっしりとした骨格の男子だからって、おんぶして重くないわけがない。
でも、三澤くんの足取りも私をかかえる腕も背中も力強い。
私は彼の頼もしさに心と体をゆだねた。
頬に当たる夕方の風が気持ちよかった。
流れていく景色が夢の世界のようだった。
もう長い間全速力で走っていない私には、それらは大きな感動だった。
それに、風になびく三澤君の赤い髪が夕日の色と同じで、とても綺麗だった。
朝日のような笑顔の、夕日色の髪の三澤君。
あなたはどこか私のヒーローに似ている。
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