ブレイク部~駄弁ったり、笑ったり、ラブコメしたり。

リアルソロプレイヤー

いつものブレイク部

 いつもの放課後。

 いつもの部活動。

 今日もブレイク部は平常運転。


「誰だ‼ こんな危険物を部室に持ち込んだやつは‼」


 周囲から小学生にしか見えないと言われる部長のハルは、一冊の漫画雑誌を手にして部員たちに訴えかける。手にしていた漫画雑誌は少女漫画。それも最初の漫画から過激な描写の多い漫画雑誌だった。

 漫画やライトノベルにおいて、チューまでしか許さないハルにとっては有害図書である。


「すまない。それはボクの私物だ」


 パソコンスペースに陣取る男装お嬢様の姫乃ひめのが手を挙げる。彼女は悪びれた様子もなく、視線もパソコンの画面に向けられたままだった。


「やっぱりお前の私物か。この歩く有害図書ゆうがいとしょ

「そうだよ。少しだけ実験をしてみたくてね」


 ハルが漫画雑誌を持ったまま近づくと、姫乃は何食わぬ顔でそれを受け取る。

 そして姫乃が雑誌を受け取ったことを確認すると、ハルは慌ててその場から逃げ出した。


「なるほど。やはりハルっちには過激だったようだね」

「俺じゃなくてもこうなるわ‼ なんでカラーページからあんな……」


 部室に置かれた長机の下に隠れたハルは、口ごもりながら顔を俯かせる。

 するとこの騒ぎを聞きつけて、ハルと窓際のソファーで眠る小猫こねこ以外の部員三人が、姫乃の漫画に興味を示し、結果として一分も掛からないうちに、ハルと子猫以外の三人が姫乃の元へと集まっていた。


「昔からハル君はこういうのは苦手ですから」


 そう言うフユはハルと幼馴染のため、彼のことを熟知していた。


「少年漫画も女性のグラビアが表紙の時は、出来るだけ見たり触らないようにしてますし。だから滅多に市民プールにも行けないんですよ。夏はいつも私と一緒にビニールプールです」

「それは何ともお似合いの姿だな、夏陽ハル」


 フユの証言に思わず笑みを浮かべる女装メイド執事のいさみ。彼は姫乃に好かれているハルのことが嫌いだった。ことある事にハルへの敵対心を剥き出しにしている。


「それにしても。アニキが顔を真っ赤にするなんてよっぽどですね」

「誰が真っ赤だ‼ というか犬子いぬこ。お前は見てないからそんなことが言えるんだ」

「ハル君は性に関しては大袈裟ですから。見た目同様、中身も小学生並みなんです」

「誰の見た目が小学生だ‼ つうか中身だって性以外に関しては超大人だし‼」

「大人なら、せめて幼馴染の下着姿ぐらい見慣れてください」

「たぶん、誰が聞いてもその発言の方が意味不明だからな」


 それだけ言ってハルはそっぽを向き、口を堅く閉ざしたが、一方で後ろからは小猫以外の女性陣+女装メイド執事の声が聞こえていた。


「これがハル君をKOした漫画ですか?」

「確かにすごくエロいです‼」

「お嬢様。いつの間にこのような過激な漫画を……」

「これぐらい大したことないさ。これよりも過激な漫画は他にも……」

「これは確かにハル君は耐えられませんね」

「純情。そこがアニキの良いところです‼」

「お屋敷に帰ったら、SPに命じてお嬢様がお持ちの書物を全て検閲します。執事としてこのような書物の所持は認められません。お父様とお母様にご報告されたら、なんと申されるか」

「でもこれは母君に教えてもらった漫画だよ」

「あのお方はいつになったら、母親としての自覚をお持ちになられるんですか」

「それにしても襲われている男の子。どこかハル君に似てませんか?」

「小さい男の子が格好いいお姉さんに襲われてます‼」

「まさかお嬢様。自分と夏陽ハルをこの漫画の登場人物に当てはめてませんか?」

「当然じゃないか」


 後ろから聞こえる不穏な会話。

 ハルが聞きたくもない単語が次々と聞こえてくる。一度は耳を塞ごうとしたハルだったが、それをした場合逆に話が気になりそうだったため、断念した。だから結局ハルは耳を塞がず、後ろの会話を聞き続けている。


「ハル君が姫乃さんに……」

「普段のアニキじゃ見られない顔が……」

「お嬢様。このような表情をするなんて、はしたないですよ‼」

「あ、遂にハルっちの電源が入ったみたいだね」

「ハル君が先ほどとは打って変わって激しく……」

「こんなアニキもなかなか格好いいですね……」

「あの男。お嬢様になんて破廉恥な行為を……」

「現実の彼もこれぐらいしてくれたら、嬉しいんだけどね」


 ただ聞き耳を立てているだけでも、ハルにとっては地獄のような時間だった。

 なぜか自分がしてもいないことで、知り合いの女の子二人を恥ずかしめ。

 なぜか自分とは無関係なところで、数少ない男友達に憎悪を抱かれ。

 なぜか自分と別の誰かを比べられ、親友の女の子にダメ出しをされる。

 ハルからすれば、風評被害もいいところだった。


「封印だ‼ 二度とその漫画を持ち込むな‼」


 ハルは堪らずに素早く姫乃たちから漫画雑誌を奪い取り、それをソファーの横に置いてあった『封印』と書かれた段ボール箱にブチ込んだ。


「ちなみにこの部室の本棚には、今以上に過激な漫画が隠してあるんだ」


 涼しい顔で言い切った姫乃。

 それを聞いたハルは狼狽えた様子で本棚に近づく。部室にある本棚は大きい物が二つ。それぞれ部室の天井ギリギリの高さだ。そこから全ての漫画の内容をこと細かくチェックするとなると、最低でも一週間は掛かりそうだった。


「…………」


 本棚の前で言葉を失うハル。

 それから彼は泣き出しそうな顔で部室を飛び出して行った。

 ちなみに副部長のフユ曰く。

 ハルが部室から逃げ出した直後、姫乃がこう零したらしい。


「これぐらいの嘘で狼狽えるなんて、相変わらずキミは可愛いね」と。



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 ブレイク部解説 ブレイク部について①

 ブレイク部。

 部長、夏陽ハル。

 副部長、秋月フユ。

 創立メンバー。

 夏陽ハル、秋月フユ、姫咲姫乃ひめさきひめの勇川勇いさみがわいさみ

 現在のメンバー。

 夏陽ハル、秋月フユ、姫咲姫乃、勇川勇、獣坂子猫けものざかこねこ獣坂犬子けものざかいぬこ

 活動目的。

 全ての退屈をブレイクすること。

 ブレイクタイムを全力でブレイクすること。

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