死んだらソウルライクな世界に転生した

くろまにあ

第1話


「――」


 視界を覆うような眩い光に包まれ、真冬の寒空の下で一人の男が命を落とした。

 前方不注意な法定速度を超過した車に衝突した事故であったとされているが、現場にはブレーキ痕はなく、減速する事無く衝突した衝撃で即死であったとされている。

 

 事故を起こした車は未だ見つかっていない。






「ん……、寒っ」


 身震いするような寒気を感じ、男は目を覚ました。

 そして目を開いた先の光景に絶句する。


「なんだこれ……」


 強い風が吹き抜ける場所で男は目を覚ました。

 周囲を見渡して見えるのは、ここが石造りのどこかだということ。

 自身がかなりの高所にいるということだけだった。

 ほとんど反射的に、男は足を動かす。

 男のいる場所の近く、そのふちに立てば眼下にはではない家屋の街並みが広がっていた。

 

「なんだ、これ? どこだここ」


 冷たい風に震えながら、男の頭は混乱していた。

 ここに来る以前の記憶がなく、どうして自分がここにいるのか皆目見当がつかない。

 なぜ、どうしてという疑問は頭を巡るばかりで答えは出ず、男はその場に座り込む。


「つめたっ!」


 座り込んだ瞬間、臀部に濡れた感触と冷え切った水の冷たさに驚く。

 運の悪いことに水たまりに座り込んでしまったらしい。


「くそっ」


 悪態つくが周囲には誰もおらず、答えをくれる誰かも見当たらない。

 周囲を見渡すが、暖を取れるような場所も見当たらない。

 このままでは凍死の危険性もあり得る。


「あからさまな一本道だけど」


 男の視線が、今いる場所の先へ続く道へ向かう。

 今男がいる場所は街をぐるりと囲う塀の上らしく、かなりの高さと分厚さをしている。

 男一人が通る分には十分すぎる道幅もあった。


「行くか……」


 得体の知れない場所から更に知らない場所へ向かうという行為と、濡れたズボンのままでいる事を天秤にかけ男は進む事を選んだ。

 巨大な塀の上を歩くという、恐らくは初めての体験も、今の未知の状況では恐怖を掻き立てるものでしかなかった。

 塀の上は意外と滑らかに舗装されているが、所々では穴が開いていたり崩れているところが見て取れる。

 風化しているほどではないが、暫くは使われていないのだろう。


「うわっ」


 道なりに進んだ先に見つけたものに、男は声を上げる。

 それは倒れこんだ白い物体。

 手には剣を持ち、薄手の鎧を着た白骨死体だった。

 人間のものであろうそれに肉の類はついておらず、死んでから幾年の月日の経過を感じさせた。


「本物……なわけないよな」


 願望に近い事を口に出しながら白骨死体に近づく。

 その骨が本物か偽物かは判別つかないが、うつ伏せ状態の白骨をひっくり返すと、その胸に矢のようなものが刺さった痕跡があったのを発見する。


「気味が悪いな」


 白骨死体を再度裏返すと、男は先へ進もうとする。

 その時、ガラガラという奇怪な音を聞いた。


「――っ!!」


 振り返った男が見たのは、うつ伏せの状態にしたはずの白骨死体が起き上がった姿だった。

 一瞬で混乱の最高潮に到達する男を待つ事もなく、白骨死体はたどたどしい足取りで男へ近づき、その手に持っていた剣を振り上げた。


「っ! うわああっ」


 剣の重みをそのままに振り下ろされた剣は遅く、混乱した男は咄嗟に避ける。

 眼前を振り下ろされた剣が通り過ぎ、男は尻もちをつく。

 

「なんだよこれっ!」


 慌てて男は後ろへ立ち上がり、駆け出して逃げる。

 その後ろを、奇怪な音が追いかける。


「えっ」


 逃げ出した男が振り返った時、動き出した骸骨は先ほどいた場所とあまり変わりない距離にいた。

 よほど動きが遅いのだろう。

 鈍い動きで男に近づこうと歩いてきている。


 「なんなんだあれっ、何かの仕掛けなのか?」


 一番現実味のある想像をするが、男は一度骸骨を調べている。

 骨自体が偽物か本物かは不明だが、骸骨自体を動かす方法なんてなかったはずだ。

 だが現実として、骸骨は動いている。


「っ」


 男の視線が動く骸骨に集中している時、男は背中に強い衝撃を受けた。

 振り返った先に見たのは、弓を携えた骸骨の姿だった。


「――」


 声を出そうとして、代わりに男の口から出てきたのは血液の塊だった。


「あれっ……」


 体に力が入らなくなり、男は膝をつく。

 自分の体を見下ろせば、見覚えのないものが胸から生えているのが見えた。


「なんだ、ごれ……」


 声を出すたびに強い痛みが走り、背中から胸に焼けるような感覚があった。

 それが骸骨が放った矢という事に気づいたのは、すでに立ち上がる事も出来ずに倒れこんだ時だった。


 自身が吐き出した血だまりの上に倒れこむ。

 霞む視界の中、あんなに鈍足に思えた剣を持った骸骨がいつの間にか近づいている事に気づいた。


 骸骨が剣を振り上げる。


「まっ」


 背中に衝撃。

 斬られるというよりも、鈍器で殴られたかのような衝撃を受け、かろうじて残っていた肺の中の空気を吐き出す。

 激しい痛みと脳の奥を揺さぶるような衝撃を受け、男は意識を手放した。



 ――称号『はじまり』を獲得しました。

 ――ステータスの一部に補正が掛かります。

 

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