そのキセキは彼方へと
もすまっく
プロローグ
「―――新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。」
数人のお偉い方の長話の後、アナウンスがあり始まった彼女の挨拶は、そんな定型文のような一言からだった。並べられたパイプ椅子に座っている生徒たちは緊張した面持ちで声を発している壇上の女子生徒を見つめている。
(綺麗な人だな)
一目見てそう思ってしまうほどには、彼女は美しかった。
長い黒髪をポニーテールにしており、切れ長の目は可愛いというよりはかっこいいといった印象だ。大勢の前に立つということに、何も不安など無いかのような力強さを声や表情から感じ取られる。
(凄い人だ、本当に)
何かを成し遂げた訳でもない。何かを成し遂げようとした訳でもない。
ただ毎日を過ごしてきただけだ。そんなただ生きて来た自分とつい比べてしまう。自分も何かを、将来の目標を見つけ突き進んできていたら、あの人のように不安など微塵も感じさせない。そんな自信に満ち溢れる人間になれていたんだろうかと。
それなりに頑張ってこの高校に入ることはできた。進学校に入っておけば少なくとも将来への選択肢は増える。人によってはそれだけで人生にとって十分大事な一歩を踏み出せているじゃないかと言う人もいるかもしれない
「―――そして、改めてここ私立明瞭学園へのご入学おめでとうございます。これから始まる学園生活が、皆さんの人生にとって有意義で素晴らしいものになると、私はそう確信しています」
(でも俺にとってはそうじゃない。どれだけ考えないようにしても、考えてしまう。)
これは悪い癖なんだろうと思う。中学を卒業し行きたいと思っていた高校に入学できた。それ自体は良いことだし、親や先生方はとても喜んでくれていた。
でも、その先は?
高校卒業後は?
大学は?
就職は?
仕事は何を?
このまま東京で暮らす?
そもそも日本で暮らし続けるのか?
もしくは海外へ出るのか?
そして―――――は?
「――――――私立明瞭学園高等学校生徒会会長、
壇上から聞こえる凛とした声でハッとする。顔を上げると挨拶を終えた彼女が壇上からゆっくりと降りていくところだった
(また、考え込んでいたのか俺は)
背筋を伸ばし美しい姿勢で歩いて行く彼女を視線で追いながら、また悪い癖が出たなと反省する。
(どうしてこんなに気にしてしまうんだろう。本当に俺は、何をしたいんだ……何を求めているんだ……?)
緊張を隠せない者、これからの学園生活に期待を膨らませる者、様々な表情を見せている生徒たちの中、またも深く考え込み泥沼に沈み込んでいくその姿は、まるで霧の中でさまよい歩く亡霊のようだった。
それを、教員の中に混じって姿勢良くパイプ椅子に腰かけている一人の女子生徒が、じっと見つめていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
プロットは一切無く、思いついたまま書いて修正を行っています。
なんとか頑張ってキリのいいところまで行けたらいいなと思っています。
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