第9話

「俺と賭けない?」


「賭け?」



「そう。

その真湖ちゃんの彼氏が、俺の言うように家で浮気してたら、また真湖ちゃんはこのホテルに戻って来て」



「えっ…」



それって、そういう意味?



此処はラブホテルだから…。




「もし、真湖ちゃんの彼氏が本当に今夜は仕事で居ないのならば、

そのまま真湖ちゃんは自分のお家に帰ればいいよ」



「…」



え、どうしよう、と思ってしまう。



そんな、賭け…。



「あ、その彼の家迄のタクシー代は俺が出す。

そろそろ、電車なくなるから」



「それは大丈夫。いらない」



「遠慮しなくていいよ?」



「遠慮じゃなくて。

彼の住んでるマンション、この辺りから歩いてすぐだから。

彼の部屋寄って駅に行っても、多分、終電には間に合うと思う」



このラブホテルが、私がこの人に拾われた場所から離れてなければ。




「あ、確かに、彼の勤め先のK署も、このS町の歓楽街の近くだね。

ってか、この辺りの管轄。

なら、真湖ちゃんの彼、名前は知らないけど、顔くらいは俺知ってるかもね?」



そう、この人は言うけど、

昌也の方はこの人の事をとても知っていて。



いつか挙げてやる、と言っていた。



「この辺り物騒だから、気を付けてね?」



そう送り出すような言葉をかけられ、

もう、そんな賭けしないなんて言えない。



加賀見一夜の言うように、この辺りのS町は大きな歓楽街で、ちょっと物騒で。



女が一人でふらっと飲みに行くような場所じゃない。



今夜は、誕生日なのにデートをドタキャンされた事のやけ酒だけど。



もし、昌也の仕事が早く終わって、

今から会えないか?と言われた時に、この辺りに居たら、すぐに駆け付けられると思ったから。



だから、S町の歓楽街のバーで一人で飲んでいた。



でも、時間も遅くなり流石にもう帰ろう、と店を出た所で、この人と…。



きっと、この加賀見一夜も、そんな私の思惑に気付いてそうだけど。



そこまで意地悪じゃないのか、それは言わない。



けど、思ってそうだけど。



馬鹿な女だな、って。

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