チートスキルは『お母さん』?! ~異世界転移した中学生、一緒に異世界転移した母親(人外)の加護を受けながら冒険者になる~
猫石
第1話 ダンジョンに響く、軽快なファンファーレ
たったったった……
ダンジョンの中に、軽い足音が響く。
トンッと床を蹴り宙を舞うと、次いで土に苔の生えた壁を蹴った少年は、右手に、刃を下にして握った細いナイフを振りかざすと、刃の先に埋め込んだ夜行石が放つ閃光が大きく弧を描きながら、目の前にいる魔物の体を大きく切り裂いた。
声ではない、短い音の断末魔。
真っ二つになった体から噴き出す体液を浴びないように、注意深く、くるくると回転しながら後ろに飛び退ると、トン、と上手に床に降り立った。
「ふぅ」
倒したばかりの魔物が目の前でボロボロと崩れていく。
ナイフを鞘に入れ、じっとそれを待っていると、崩れ落ちて消えた魔物の遺骸のあった場所には、つやつやの銅貨1枚と、手のひらにちょこんと乗るくらいの小さな袋が落ちていた。
「やった! 傷薬も落とした」
トントン、とそこに近づき、しゃがんでそれに手を伸ばす。
「なんで魔物がアイテムとか金とか持ってるんだろうな?」
それは確かに教わった通りなのだが、どうにも不思議に思え、それをつまみ、拾い上げながらつぶやいた時だった。
ちゃららららん、ちゃんちゃんちゃ~ん♪♪
薄暗いダンジョンに不釣り合いの、軽快な
これがいわゆるこの世界の
「あ……やっt 『わあ! やっとレベルが上がったね! おめでと~!』
腕輪の主である少年の言葉を遮るように、パチパチパチ! と力いっぱい拍手する音とともに、のんきで明るい女の声がダンジョン内に響き渡る。
その声と拍手を聞き、心底嫌そうに顔を顰めた少年は、噛みつくような勢いで、背後にいるとだろうと思しき、声と拍手の主の方を振り返った。
「うるさいなぁ! 解っ『カヲル! 危ない!』
振り返った、カヲルと呼ばれた少年の顔の横すれすれに、目にも止まらう速さで銀色の閃光が走る。
バチーーーン!
柔らかい何かに平手を打ちつける音と、複数の金と荷物の落ちる音。
そして。
ちゃららららん、ちゃんちゃんちゃ~ん♪♪
と、再びダンジョン内に軽快な
しかもに連続で。
少年が出しっぱなしにしていた
そこには先ほど少年が倒したのと同じ形で柄付き色違い、つまりはスリーランク上のスライムが1体が、ボロボロと崩れおち、銅貨10と先ほどと色違いの小袋を落とした後だった。
「……またか」
『もう! 危ないよ!』
もう一度深い溜息をついた時、カヲルの頭上からのんきで軽い声がふってきた。
『今のはとっても危なかったよ! 初心者用の試練のダンジョンとはいえ、こういう場所は常に危険と隣り合わせだから、気を抜かず、周りを確認しなさいっていつも言ってるよね? あ、でもレベル上がったね! わ~い、おめでと~』
パチパチパチパチパチパチ……。
能天気な女性の声と拍手の音に、ぎりぃっ! と少年の歯が軋んだ。
「……っるっさいなぁ! そんなことわかってるよっ! 少し黙っててよっ!」
明るめの声で女性の声を出すモノに、少年は叫んだ。
「母さん!」
『……あ、ごめ~ん』
少年の切実な怒りの悲鳴に『母さん』と呼ばれた、顔が3つ、手が3対の異形の存在は、きょとんとした顔をしてから、3対ある両手を全て器用に合わせ、眦を下げて謝った。
チートスキルは『お母さん』?! ~異世界転移した中学生、一緒に異世界転移した母親(人外)の加護を受けながら冒険者になる~ 猫石 @nekoishi_nekoishi
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