世界を変えようと誘った後輩(♀)が、私(♀)とイチャつくことしか考えてない!

井の中に居過ぎた蛙

【第1話】これが私たちの始まり



 『つら』いという字に『一』の字を足すと、『しあわ』せという字になる。



 それは何か『一』つを失えば、『幸せ』は『辛いこと』になるという話でもあるけれど、逆に何か『一』つを足してしまえば、『辛いこと』は『幸せ』に変えられるという訳で。


 だから、気持ちが沈んだ時も、何かピンチが起きた際も、何か一つを足そうとすれば、誰だって『幸せ』になるチャンスはやってくるのだと、それが今あたしの目の前で偉ぶる教師様が語った、ありがたいご高説というやつだった。



 ……だけど、こいつは大事なことを教えてはくれない。



 今のあたしに足せば幸せになれるという、その『一』が何なのかを。



 『幸せ』というものを生まれてこの方、『一』度も感じたことが無いあたしの、生きること自体を『辛い』と思っているこんなあたしの、その特別な『一』が何なのかを。



 ◇ ◇ ◇



「……あ~あ、アイファ先輩におち〇ち〇が生えてれば良かったのに。

 そしたら今頃あたしたちは……ポッ♡」


 低く物悲しく鳴り響く大聖堂の鐘声しょうせいが、ここ神聖しんせい国家ハイラルディンに広g……って!!!


「おまっ!? こ、こんな人の居る所で、変なことを口走るな!(ボソボソ)」


 それは隣で私を熱っぽい視線で見つめる少女に対する私の焦りだが、この世界では同性愛が禁止されており、それを疑われるようなことはするなと何度も言っていたのだから、当然と言えば当然だ。


「だって~、退屈なんですも~ん。あのオッサンの話~」


「いや、私も正直そうだが……って、オッサンもやめろ!(ボソボソ)」


 なにせ、そのオッサンというのは「さぁ、打ち鳴らせ! 弔いの鐘の音を! この国の安寧のため、平穏のために、その命を散らした少女たちのために!!」などと、今も我々に向けてメッセージを送り続けている黒いローブを身にまとうこの国のあるじのことなのだから、


「特にあいつへの悪口は、

 このハイラルディンの中ではやめろと前から言ってるだろうが!(ボソボソ)」


 と、私が叱るのも当然だろう。


 ……というより、普通は思ってても言わないんだがな!


「……は~い」


 そうして、面倒臭そうに男の話を聞くことにした少女をため息交じりで見た私は、軽く咳ばらいをしつつ、モノローグを再開する。



 ◇ ◇ ◇



 低く物悲しく鳴り響く大聖堂の鐘声しょうせいが、ここ神聖しんせい国家ハイラルディンに広がっていく。


 それは先輩たちの無念の調べ。


 真実を知らされず、男の本性にも気付かずに、それが正しいことなのだと信じ込まされたが故に訪れた、男にとってしか意義のない犠牲の証。


「フォルグ……」


 溢れる憎しみ。


 それはいつも我らの死を嘆き悲しみ、常に哀悼の意を捧げるためにと、平時でも喪に服したような黒いローブを纏っているていを装いながら、結局はこの教会に足を運ぶこともなく、映像写具ヴィジョン・ツール――遠くに居る者の姿をこの場に映し出すことのできる聖具カルマ・ツールだけで済ますこの世界の支配者あのおとこに対して私が抱く、怒りしかない感情だった。


 無論、そんな感情を少しでも表に出そうものなら、折角手に入れたフォルグのお気に入り・・・・・・・・・・という地位を失いかねないので、私は無心で命を失った少女たちに黙祷を捧げ続ける。


 純粋に、真摯に、ひた向きに。


 そして、あなた方の仇は私が取ると、彼女らの失った想いいのちに誓うよ……




「……ハァ♡ アイファ先輩の金髪ロング、いい匂いしゅぎ~♡

 ずっと吸っていたい~♡ いや、ずっと吸っていられる!

 というか、この香水が欲しい! 全身に振りかけたい! ……ハァ♡」




 ……オ、オホンッ!


 か、仇を取ると言っても、今の今まで大したことなど出来てはおらず、而してこれからの私次第だということなので、決意新たにといったところだが……


 神帝しんていフォルグ。


 その空虚で、悪辣で、独善的でしかない地位にしがみつくあの男と戦うための準備、それが今ようやく始められr……




「……ハァ♡ その憂いを帯びたエメラルド色の瞳も素敵す・て・き♡」




 ……んんっ!


 な、なにせ我々神使みつかいは、神子みこと呼ばれる神使みつかい見習いと共に、巡礼じゅんれいという神聖国家ハイラルディンが発布した平和条約――通称フォルグ条約に加盟している全ての国々への奉仕活動をさせられることになっており、フォルグの裏の顔を知らないまま奴を篤く信仰する同胞たちに、「フォルグ打倒に協力して欲しい」と声をかけられずにいる私においては、その旅立ちはフォルグ打倒のための仲間集めに最適だったのだから。


「……先輩」


 それは私がまだ神子みことして、1人の神使みつかいと共に巡礼をした旅の果て。


 ハイラルディンを追われることになったあの人を起因としたフォルグの闇を。

 神使みつかい神子みこは、何故、女しか選ばれないのかという理由を。

 神聖国家ハイラルディンには、何故、男が1人もいないのかという訳を。


 知ることになったあの日の事を、未だに私は忘れはしな……




「ねぇ、アイファ先輩?

 アイファ先輩の髪、家宝にしたいので一房ひとふさいただけません?

 一応、先輩の抜け毛は集めてる・・・・・・・・・・・んですけど、

 流石に長いとはいえ、

 それだけじゃ先輩の温もりを感じれるほどには集められなくt……


「ちょっとこっち来い!!!!!」




 そうして、多くの神使みつかい神子みこが集まる中で、変なことを隣でささやき続ける神子みこエスカを連れてその場を離れる私。


 ……そう。

 先輩との約束を、私の意志を、共に果たしてくれる仲間を探してはや3年。


 ようやく私たちの目的に協力してくれそうな少女と巡り合うことができたというのに……



「ア、アイファ先輩?! あたしを無理矢理どこへ連れてく気なんです?!

 も、もしかして……遂にあたしに欲情したと!?

 その手であたしの純潔を散らそうと!?

 こんな往来で?! 人の目がある中で?! そ、そんな……

 正直、心の準備が出来てないですけど……

 で、でも、先輩がどうしてもっていうなら……


 あたしは全部、あなたに捧げます♡


 ……キャッ♡ 言っちゃった♡」



 よりにもよって、こんな子なんだよなぁ~。



 しかもこの子には、未だに私の覚悟や決意を伝えられない――というか、「難しい話は任せます!」とか言って聞いてくれないし。




 声をかける子、間違えたかなぁ~?




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 どうも、井の中に居過ぎた蛙(かわず)です。


 本作は全150~170話ぐらいの短めな作品となっており、大したご負担にはならないと思いますので、何卒最後までお付き合いくださいますようお願い申し上げますm(__)m


 具体的なご挨拶や本作の裏話などは『近況ノート』に書いていく予定ですので、ご興味を抱いて頂けましたら是非そちらもご覧ください(*- -)(*_ _)ペコリ

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