ダブルシンク

萩津茜

第一話 僕の人生のせい

 早春の、桜木が色付きだした、長閑な昼下がりである。そこだけ時が止まっているかのような、薄暗い書斎で、窓沿いの机に向かっていた。かといって有意義な作業でもしているわけではなく、うたた寝しているような状態だ。風揺れるトゲトゲしい小枝の上下を観察しているだけで、時間を潰していた。

 客観的に見れば、なんだこの悠長な男は、と軽蔑的に捉えられることだろう。うたた寝を無駄とは言われたくない。これも僕にとっては、大切な創作の時間である。そんなことを思考しつつも実のところ、僕に対して時間の使い方をあれこれと文句をつける存在が普段はいないわけであるが。そのために書斎はいつでもひっそり閑としている。

 何度目かわからない、文学賞への応募は、案の定一次選考で落選していた。来るはずの通知が一週間待っても来ないのだから、残念でした、という間接的な通知であろう。「案の定」としたが、原稿用紙の束が入った封筒を郵便局に委ねに行ったその際は、必ず選考員の共感を――だなんて、嘘だ。文学賞がなんだ。はなから執筆中に自分以外を考えたことがない。落選して当然だろう、当然だ。――かといって、僕は小説をどうしたいのだ? 死後百年は世界の染みになりたい、それは撞着だ。

 小説家として生きはじめてから掲げてきたもののは、どれもこれも衝突している。

 けたたましく携帯電話からアラームが鳴った。手にとって機械的に指を動かして通話をはじめた。人生の好転はたった一つの電話から始まる、とも言うが、それを願ってかなんだか、滅多に可動しない携帯電話に光が灯った時には、思わず舞い上がってしまうのだ。

「久しぶりだな、元気にしてたか」

 長い付き合いの知人からである。出版社に務めたから、小説を掲載できる、とか、文才があるから文学賞に応募しようよ、とかだろうか。そうでなくとも再会の飲み会でもいい。そんな期待を孕んでいたが、この通話は人生の好転と無関係であった。

「一度、精神科医に診てもらわないか」

 あまりに突拍子もなく、却って返す言葉がなかった。

「友人の伝で、良い先生が居るんだ。あんたは確かに良い文章を書くよ。このまま続けていれば、文豪にだってなれるかもしれない。でもな、俺はとにかくあんたの身体が心配だ。友人として、放っておけるかよ。一回でいいから、専門医の診断を受けてくれよ。最近は高度な治療法が確立されているみたいだし、精神的な病もどうにかなるさ」

 彼は事情を語った。どうやら、彼は某知り合いから、僕が今回も文学賞で落選したらしいということを聞かされたそうだ。「きりがいいから」電話をかけた、と言った。

 僕は彼が伝えたいことを大体理解っているつもりだ。なぜなら、僕の心情に関する問題は今に始まったことではなく、辿れば出生の際には存在していた。実感として、人生を他人より損してきた、というのはつくづく思う。他人と楽しさや喜びが共有できずに此処まで来たのだ。

 知人らは、彼含め、僕が天性の精神疾患を患っていると、確信しているらしい。けれども。

「何の心配だよ。僕は一切健康じゃないか。それとも、小説の内容のことか? ああ、僕はいつも暗いテーマでストーリーを構成するよ。でも、理解っているはずだけど、あれらは一切がフィクションであって、謂わばエンタメなんだ。人のニヒリズムは作り感情に過ぎなくて、所詮カタルシスの材料だ。いいか、だからな、僕はニヒリズムに苛まれた憐れむべき存在などではない。全くの杞憂だよ。病院なんて時間と精神の浪費だ」

 本当に、他者への不用意な憂いは、自己満足の偽善だ。誰が僕の真意を見透かせるというのか。

 もう飽き飽きだ、と通話を切ろうという時、スマホから微かな溜息が漏れ、彼は再び喋りだした。

「ったく、あんたは――。〝ユーキ〟、一般的な人間は、家庭の衣食住そっちのけで自室に籠もったりしねえよ。特に、俺らくらいの年齢になってだな。それに、俺が前、あんたの家に行ったときは、木屑になった家具が一面散乱してたよなあ。仮に、本当にあんたがぼやくように、虚無感? ニヒリズムかなんかや錯乱が小説の中のフィクションなら――〝ユーキ〟の人生そのものは、小説の中のおとぎ話か? そんなわけがない。だって、そりゃ、おれらは空想の人物ではなく、此の世に今も実在しているからな」

 ――その通り、彼の言うとおりだ。これ以上言い返す余地もない。僕は精神疾患を患っていて、ずっと個性の一つだとか、思い詰めるのは過剰だとかで誤魔化してきたのは事実である。僕こそ理解っているものの、他人から病人のように認められるのは悔しくて仕様がないのである。だから、僕の精神異常をそれとして烙印を押す有識者と面会するのは、まっぴらごめんだ。

「――病院には行かない。決してだ。僕は一切正常であって、小説を通して自分を偽り続けているペテン師だ。これでいいだろう、もう。僕は現状で――不便なんて感じていない」

 うんざりだ。バイトも学生生活も、放りだしたい苦役の全てが免じられている日に。通話を切って、連絡先も削除しよう。そういう思惑がスマホ越しに見透かされたようで、彼の投げやりな言葉が聞こえてきた。

「――今から、家行く」

 そして、彼から切った。僕はスマホをまだ耳に押し当てたままで、戻ってきた静寂の書斎に居続けては、ただバツが悪かった。気付けばまた、まばらな花をつける桜木を映す窓とにらめっこしていた。早速彼の連絡先を削除してやるか? もはや家まで訪ねてくるなら無意味である。――いっそのこと、硝子を突き割って、青天に身を投げたかった。まるで、僕の生誕とともに開廷した刑事裁判の三審が今日閉廷し、受け入れ難い最終判決を知らされたかのようだ。となると、彼は警察官か何か、公的な司法の人となろう。――逃亡の末の恐怖! これも社会的な巡り合わせで、あんな知人を僕は持ってしまったのだ。そんな社会は、いつでも社会自身に区分した人間に、気の済むまでのエロスを向ける! ――人間のプライバシーが保証されているなら、一切他人に干渉することのなきよう。悪魔への審判も、人種隔離も、大勢というコミュニティーから異端への押しつけ愛情なのだ。

 彼は今に、ギラつき出した日照りの下、情熱に駆られてこの玄関扉のドアノブに手をかける。投げやりにエスケープしたい、到底至らぬ願望が薄っぺらく頭を渦巻いているが、追跡者が彼一人でないこと、そもそも僕に書も家も捨てて、大いなるエスケープを図る気力など、微塵もないことは彼らも勘づいているだろうし、何より僕自身、できない。

 仮初めに、その日暮らしの荷物をリュックにまとめて、隣街のホテルへ入った。このままだと、いずれ捕捉されて、僕の都合の悪い方に転がる。環境を変えて、僕に迫る奴らを見返すような逃亡劇を企てようと思ったのだ。知人が僕を追って来ているような気配はなかった。

 ホテルロビーの受付は機械のように優しかった。従業員に導かれるまま、古めかしい匂いが立ち込め、擦り切れたカーペットがそのままの廊下を往き、中等の一室に籠もった。

 一夜の決心を迫る部屋は、あまりに息苦しいようだった。縦長く狭い窓からは、未だ沈まぬ夕、ビル群、街明かりが望まれた。はたや、あの人波の一塊は僕への追跡者かもしれない。だが、そんなのは問題ではないように思われた。愛情も嫌悪も、何ら興味はない。執筆にだって、成長しきった今では、見るものすべてに憧れていた少年期の惰性でずるずる引きずっているものなのだ。――マンネリ化した作風は、誰の胸も打たない塵となった。

 死ぬことのみ、怖かった。いや、生きることも恐怖である。僕はゆるやかに死を待つ老人と同じだ。アフリカのライオンを夢見る程の、人生への自信も、抱かず……

 環境を変えて僕に生じたのは、自称の小説家デビューから溜まってきた負債である。重力に引き込まれ、寝床に座った。

日の沈みきるのも待たず、深い微睡みの内に寝床へ横たわった。斜陽は、此処をも同じ光で包みこんでいた。眠気眼のまま。

 深い微睡みの内に……

 深い微睡みの内に……




 走馬灯のようだった。ふわふわとした光輪の中に居た。隅々まで、寝付き前まで視認していたものは幽暗に沈んでいるが、一塊の光団が流れ落ちている。

 走馬灯のようだった。水底に横たわるように、記憶を投影している。だから、僕は、とうとう死んだのだと悟った。僕という人は、すでに此の世のものではない。これからは幽霊である――。

 深い微睡みの内に……




 再び目覚めて、狭き部屋の床を踏んだ。ギラギラした日光が空間を満たしている。――未だ生きていた。でも、やはり、生きてはいないように、そうとしか思えぬことだった。何らか、脳の奥深くで、死に絶えている。頭部の一部が欠けたのやもしれぬ、と、洗面台へのろのろ歩んで往った。鏡を見ても、普遍的な人間が立っているのみであった。酷く恐ろしいものだ、醜い、青ざめた人が居る。

 浮いた足取りでテレビ前に戻って、ソファに深く腰を下ろした。僕は呆然と染みの際立つ天井を眺めた。心のローブで大事に包んでいた、唯一心理らしく思えていた信条を、手放さぬもっともらしい理由があるようには思えなくなっていた――。

 夢を捨てるには充分なほど、時計の秒針は回った。天井は無機質に見つめていた。染みは同じところを汚していた。

 ――昨日の追跡者が扉をノックしたときには、僕の頬を昼下がり前の東光が照らしていた。ただ無心に、其の空間に佇んでいた。もはや、追跡者の標的が、紛れもない僕だということも忘れて――。




 腕は未だうっすらと赤い手跡を残している。

 彼は、僕が解錠すると有無を云わず、腕を鷲掴んで、そのまま僕をホテル前に停めた自動車に押し込んだ。車内には、彼の他にもう一人、運転席を占める者が居た。きっと、いつか僕が面識のある人物であろう。誰も言葉一つさえ云わなかった。ただ、抵抗する気力なんて微塵もないのに、僕の腕をがっちり拘束する男が横に居て、やはり哀れむように僕の顔を眺めていた。そういうことがあった。

 長い国道の喧騒を過ぎ、窓から広大な田園が姿を見せたかと思うと、住宅が散見されだし、また騒々しい道路が映った。目的地は――連行先はこの通り沿いのようだった。ドライバーが減速し、白が誇張された、人工的な自然がやけに目に付く、そんな施設へ入った。駐車場も広々としている。賑やかではないが、閑散ともしていない。停車とともに、僕は再び彼にエスコートされた。

 日の光が眩しすぎた。全身に毛立った。僕は体の操作権を放棄したのを良いことに、前も見ず俯いた。社会的な認知が一切不必要に思えていたのだ。誰にも知られず、猫のように消えたかった。光の下に居たくない。一人に数えられたくない。そんなわだかまりが渦を巻いて、体内を跋扈している感覚があった。

 自動ドアが開くと、縦横に広いようなフロアに飽和する声、声、そして鼻をつく薬品のような臭いがした。――病院だ。某無頼派作家の一文を借用すれば、私はもはや人間でなくなりました、そういうことであろう。改めて、首をこっくり傾けて、フロアを眺めた。天井より落ちる日斜光が、隅に黒々と深淵を形成していた。院内を往き交う人々は、それを避けているように見受けられた。――先の見えない闇は、こんな神々しい施設にも在ったのである。

 彼は、僕の肩に手を添えた。愛撫するようである。背後には、先程の運転手が構えている。今度は腕でなく――背中を押された。自立を促されているかのようだ。また、彼は一切、僕の方を向かなかった。――無性に彼を思いっきり殴ってやりたくなった。単純である。殴ってやりたいのだ。単なる鬱憤晴らしに過ぎぬ。保護者面をして、真っ当な生き方を主張する自己論について押し付けがましい。光の中で生きるのを良しとする人間と、いつまで経っても反りが合わない。ああ、そうだ、いっそのこと爆破してやろう、罪も善意も巻き込んで――。だが、彼の手を振り払うほどの僅かな気力さえ持ち合わせていなかった。自分のできる最大のレジスタンスだ、彼にもたれかかるのを辞めた。地に足つけて、歩いた。

 淡々と連れられたのは、整然とドアが連なる廊下の、或る一室である。スライド扉が彼により開かれると、白衣の、医師にしては若年に思われる、そんな男がパソコンに向かっていた。部屋のデスクや壁は、狭いなりに花などで彩られている。医師はさっと椅子を回して、僕をまじまじと目で舐めた。――そこには、たしかに貫禄が在った。僕は思わずその目に、圧倒された。つばを飲んだ。その音が一瞬、部屋に響いた。

「〝ユーキ〟さんですね。どうぞおかけください。お待ちしておりました」

 医師は、淡々と診断らしいものをはじめた。

「氏名、出生、職業など、基本的な、あなたについての説明は、以前にお連れの方から伺いました。分かりきった応答をするのは、私としても億劫ですし、あなたとしても此処での滞在は短く済ませたいでしょう。そういう心境はお察しします。さて、ですから、本日はあなたの病を突き止めましょう。そして、適切な治療方法が本日の診断の中で提示できるでしょうから、あなたの心の健康を目指していきましょうか。患っている病は、早めに治療を始めるほど、楽に完治できますから。あなたのような種の病気ですと尚更です。私はあなたを全面的にサポートしますから、あなたも私を信じて、協力してください。――いいですか? ではこれから、あなたの口からでしか話せないことについて尋ねますから、正直にお答えください」

 医師はクリップ留めされた書類に目を通しだした。状況は察した。僕は軽く頷いておいた。どうせ後ろの奴らが勝手をしたのだ。

 医師は自ら名乗りはしなかったものの、胸元の名札には『精神科医 主任部長 大中功』と記されてあったので、この医師は大中先生と呼ぶべきであると、把握した。ただ、ここからは全くの受け身であろうと心に決めている。――もはや、この身に何をされようと、この身体は自分のものではないからどうだっていい、というような考えで満ちるのだ。この期に及んで、余計なことも話したくなかった。

 大中先生は一つ咳払いして、僕に尋ねた。

「あなたはなぜ、小説家を選んだのですか。今あなたは主にバイトによって生計を立てていると聞きました。それほどまでに小説を書き続け、それを仕事にしようとするのは、どういう心持ちからなのでしょうか」

「そもそも、物書きを仕事にしようとは思っていません。バイトは食いつなぐためです。僕は――生死などどうだっていいのです。実は、小説でなくたっていいんです。ただ、僕は自分が死ぬ前に――いや、後でも、この世に生きた証を残してやりたい。その手段が、物書きです。――別に、誰しも思うことでしょう?」

 二人の反応が気になった。それで背後をちらりと伺ったが、すでに退出した後だった。大中先生は動じず、続けた。

「ええ、人の生きる道、目的はそれぞれでしょう。私も夢を追って、中々に曲がりくねった道を辿ってきましたから。あなたの考えも理解しました。普遍的でないのは、あなたの、その、生死への無関心ですね。あなたの作品を拝読させていただきました。人によって創られるものは、創り手の信条の核が宿ると云いますが、その通りですね。一般的に、人は人生の中で富や地位――つまり幸福を模索します。そこには普通、人間関係が付き纏います。例えば、愛する人と一緒に居たい、とか、信頼する友人と苦楽を共に乗り越えたい、など。または、SNSでフォロワーの頭数を求めるのも、一種の人間関係でしょう。――しかし、あなたは全くというほど、そういう人との付き合いを欲することがないと見受けられます。どうですか、ご自身を振り返って」

 生死への無関心、小説で似通った内容は確かに書いた。今までの人生を振り返れば、僕は先生の言う通り、他者に関心がなかったということかもしれない。

 ――無頼! そういうことだ。いつしか僕の孤独は体を蝕んで、もはや孤独たることを当然とし、幸福としていた。共生は拒絶でなく、僕と一切関連のない事柄として扱われていたのだ。これらが潜在意識に在ったというのは、今自覚したことといえども、大中先生の図星であるということだ。口角のすっと上がるのを感じた。

「ええ、僕は確かに――人為的ではなくとも、世界でたった独りでありました。謂わば某無頼派作家たちの模倣でしょうか。人為的では在りません! 僕は人との関わりが嫌なのではないと思います。ただ――一切無縁なのです」

「無縁、ですか――人付き合いの失敗によるトラウマ、なんてのを抱え込んでいるわけではなさそうですね。精神疾患の度合いとしてはかなり深刻です、自覚はないと思いますが。所謂サイコパスと呼称されるやつです。これは、列記とした精神疾患なのですよ――生来のものであることがほとんどですが、発症は人生経験にも左右されます」

 大中先生はパソコンと向き合って、僕のカルテらしきものに、聞き出した情報をまとめているのだろう、打ち込みをした。棚を漁って太いファイルを傍らに置いた。

「用意していた質問は他にもあるのですが――想定以上に早く終わりました。事前情報とともに検討しますので、しばらく診察室の外でお待ち下さい」

 大中先生に指示されるがまま、診察室からでて、用意されていたパイプ椅子に腰掛けた。暫くして診察室内から声がかかったので、再び入室した。

「お待たせしました。検討の結果、やはりあなたは――根本的に補正治療をする必要がありますね」

「…補正?」

「はい、補正です」

「…なにの?」

「――潜在意識まで、奥深く根を張る、あなたの魂です――所謂、イメージしやすいもので表すと、性格です」

「――え?」

 開口一番にしては、あまりに話が飛躍している。あいにく、僕は医療についてほとんど知見がない。それでも大中先生が、日本にありふれた医師とはまた一線を画した、というより、また異なる業種であるという確信ができていた。大中先生の云う補正が、誇張したものなのか、一つの医療的手段なのか、それとも――。

「医療の現場で、公の場で、性格の補正とは、プライバシーの欠片もありませんね。つまり洗脳と同じような部類の話をされているのではないでしょうか? ――許容された行為とは思えません」

 社会を守るとか、悪を罰するとかではない。

「単なる疑問です。僕は、素人ですから」

 大中先生はやはり、これを当然といった具合であしらっていた。

「安心は――できないかもしれませんが、これは非常に画期的なものであり、将来性を孕んでいる内容です。私共は今回あなたに推奨するこの治療法を『ムゲン内自己人格補正治療』と呼称しています。ムゲンは限りが無いのムゲンではなく、夢・幻と書いて夢幻です」

 大中先生は一束の、A4紙に印刷された資料を僕に手渡した。どっしりと思い、といった感じではなく、家電の説明書ほどである。表紙には「『夢幻内自己人格補正治療』に関わるガイダンス」と印字され、次々と紙をひらりめくってみると、図解などで治療の概要が説明されているようである。

「そちらの資料をお渡ししましたが、あくまで義務的なものですので。中々文字の羅列を見ても、上手くは理解できないでしょう。ですから、私から口頭で説明します。この治療は名称の通り、患者自身の夢の中で、患者自身が人格を補正するものです。勿論、私共は何もせず患者に丸投げ、ではありません。私共は患者に適切な夢を見てもらうための心理的なアプローチをします。ですから、患者の身体に対して何らかの処置をするものではないため、後遺症の可能性は限りなく低いです。この治療は未だ実験段階であり、国内の被検対象も数件にとどまっていますが、現状すべての患者が治療後は順風満帆に社会生活を営んでいます」

 大中先生は、いたって医者らしく説明した。だが、そもそも――。

「これって、なんのための治療なんですか」

「…案外、貴方の為ではないのかもしれません。ええ、これは、本日のお連れの方々を含めた、貴方と関わる人の為です。社会空間はですね、共同体なのです。貴方も勿論、その空間の中で生きています。残念ながら、貴方は現状、周囲の人にトゲを突き立てることになっているのです。この治療は、貴方と、周囲にいる人々とが快く生活できるように、貴方の閉鎖的な人格をより良い方へ補正するためのものです」

「そうですか」

 僕は、全身が沸き立つのを感じた。足元に視線を移した。微かに、足は揺れている。そして、僕と大中先生の影が重なり、一つの灰の溜まりを成している。大中先生は、非常に理解りやすいことを云っている。他者を慈しむというのは、義務教育の核心として教えられるようなことである。

「…他者のために、自分を殺せ、と?」

 人格に手を加えるというのは、そういうことだ。

「そんな事は言っていませんよ。ただ、貴方のモノへの感じ方、見方が変わるようにする、それだけです」

 大中先生は、デスク上のファイルに手をかけ、ページを開いてこちらに提示した。

「よければ、より詳しく説明しますよ」

 嘘つきみたいに、にっこり微笑んできた。僕は、この男の顔をしばし眺めた。

「治療を受けるか、受けないかの決定権は、勿論僕にありますよね」

「それは、そうですが、これからの生活を考えてもらって、より豊かな日々を送るなら…」

「もう結構です。帰ります」

 此処に居続けたら、自分はいずれ説得され果てると思う。意志が残っている内に、さっさと去ってしまうことにした。席を立って、スライド扉を乱暴気味に開け、退室した。

「またお越しください、お待ちしています」

 煽るような冷たい声がぶつけられた。

 廊下の窓から駐車場が見えたが、そこに見知れた車はない。院内は、窓が開いている所為か、肌寒く、勝手に足早に歩いていた。院内の誰も、僕に気を留めない。

 ――僕はもう、帰ってこないぞ。

 病院から出たところの歩道、街路樹、ひっきりなしに轟く自動車の走行音。何処にでもあるのに――これでさよなら、では決してないかのように、しみじみさせた。

 空は、限りなく透明だった。

 僕は、鮮明に色づいているのだ。




 迷惑なほど繁った青葉に、さざめく雨が打っている。それを、僕は机上に頬杖ついて茫と聴いていた。誰も居なくなった部屋も、流石に居心地悪くなってきた。原稿用紙には、たった一文字『あ』とだけ書かれている。

 そういえば、ちょっと前、近所を散歩している際に小ぢんまりした、緑深い公園を見かけた。そこには、ベンチと台を収めるあずまやがあった。晴れ間ですら無人のひっそり閑としていたのだから、雨中に来る人など居るはずがない。そうだ、もし台が濡れていなかったら、そこで物書きをしよう。幾分か此処より、開放的になれるはずだ。

 外はボタボタの雨粒が涼しげである。目的の公園までは、思いの外歩いた。今日再び訪れたのだが、やはり公園は管理の手が入っていなかった。公園を囲むフェンスはそこら中に穴が空き、茶色く錆びついている。放られたファストフード店のゴミはべったり潰れ、空き缶に弾かれる水の音が響いている。

 あずまやのベンチと台は、砂塵こそ積もっているものの、乾いていた。この方形を覆う草木が、雨風を遮っているのだろう。その代わり、冷暗としていた。別に紙に書いた文字が見えないほどではないので、その暗さは気にするものでもなかった。

 広地の全景が見える側に腰掛けた。ちょうどその方は正面が木に邪魔されていないからだ。公園には遊具として、鉄棒と滑り台が置かれているが、どれもまともに使えそうにない。特に幼い子が、と考えると、手に怪我してしまいそうだ。

 ――やはり、錆びついている。錆がツンと臭う。

 環境が変われば、なにか思いつくものと妄想していたけれど、結局茫と広地を眺めて時間が経っていた。不変の哀愁がむんむんと漂っている。

 僕も、完全に人である。紛れもないことだ。

 僕は、まず家庭を逃げ出した。他人に人生を言語化され、修正されるのが嫌だったからだ。僕は次に、学校から逃げ出した。自己を数値化され、比べられるのが嫌だったからだ。そして僕は、社会から逃げ出そうとした。こんな具合で、未来とかどうでもよかったから、その場しのぎで判断してきたお陰で、その社会から見放されてしまった。先月であっただろうか、某医師に話した、僕の無頼的心情。あんなのは、一連が過ぎた今想えば、でたらめな見栄である。かといって、これまでの関わりから、僕が縋れる人の例を見出すことはできない。

 ――偽善に満ちた世界は、生きにくい。

 原稿用紙に手がつかないのは、薄っぺらい言葉の集合で表現できることが尽きたからだ。物書きにしか能が無い僕には、目に映る狭い世界をしゃぶり尽くしてしまったのだろう、野垂れ死ぬほかないのかもしれない。そう気づくと――物書きからもエスケープしたい。物書きを辞めたところで、どうにかなるわけではないが、原稿用紙は目にいれると、脳裏によぎるものがある。

 わざとらしく、青嵐が吹き込んだ。その拍子。紙が激しく波打ち、そのまま泥々した地面に飛んで往った。ベチャと、断末魔を上げて。

「…え?」

「あっ…」

 断末魔は、紙の落下にしては濁った音だった。ふと広地に目を向けると、女性がすらりと立っていた。女性は僕を見て、小微かな声を出した。両手で大事そうに傘を握り、目線を僕に合わせた。均整の取れた顔立ちだ。黒のカーディガンを白い服の上に着こなしている――とても、たまたま公園を訪れた近所の住人、といった感じではない。

 女性は、恐る恐る、という足取りで、こちらに迫ってくる。ターゲットは、僕である。あずまやに入ると傘を畳み、すぐに地面に張り付いた原稿用紙を発見したようだった。

「もしかして…」女性は息を吐くように呟いた。

 僕はわけがわからず、ベンチに深く座り直した。女性も、自然に対辺へ座った。

「〝ユーキ〟さん、ですよね。小説家の」

 ユーキさん――たしかに僕はユーキだ。

 小説家――たしかに僕は小説家と云える。

 けれど、力なく「はい」と答えてしまった。女性はそれでも充分だったようで、目を張って身を乗り出した。思わず僕はたじろいだ。

「やっぱり! そうですよね。私、文藝誌『夜行』にユーキさんが寄稿されている小説が大好きで。一目惚れみたいなもので。それで一度でいいからお会いしたいと、街を探していたんです。よかった!」

「あ、えーっと、それはもう、有り難いです、けど…」

 でも、実際冷やかしではないか? 女性が言うので思い出した。僕はそういえば、ほとんどアマチュアの文藝誌に寄稿していた。というのも、販売地域が非常に限られた雑誌だ。超ローカルにも関わらず、僕の寄稿は、出版社の渋々の了解によるものだった。2度だ。それ以降は追い返された。はなから、期待のない採用であることは当時も理解っていた。

 冷やかしならば悔しいか? 今になって笑われるのが怖くなったか? 眼の前で僕を見つめる女性は、凛と朗らかな顔だ。

 ――もしも、彼女が僕を嘲笑したら、彼女を殺して、僕もすぐに死んでしまおう。

「何処から来たの?」

「隣町です。電車で一駅くらいの。ちょうど通っている大学が、近くにあるんです」

 あたりまえだ。僕はこの街に一つの大学に通っていた。その経由で小説を出版社に寄稿していたのだ。だから、そこまで遠くから人が訪ねに来るなんて考えられない。

「日下大学だね――僕もそこの学生だ」

「ああ、なら、またキャンパスで会えますね」

 嬉々とした彼女に対して、言葉憚るように、丁寧に紡ぐように告げた。

「いや、去年辞めた。退学したよ」

「…そうなんですね、ああ、そうなんですね」

 彼女は、のろりと身を引いた。

 彼女――。

「そういえば、名前を聞いていなかった。僕は、ユーキでいい」

「私は…名前…」

「本名が憚られるなら、偽名で名乗ってよ。僕も、偽名だ」

「――じゃあ、ロラン、と呼んでください」

「ロラン、だね。わかった」

 ロランはひたすら無垢に見えた。着飾ることがないようだ。人は一面によらないが、僕には彼女が人間を嘲笑するざまをイメージできなかった。

「あの、わたしがユーキさんを探していたのは、ただ会いたかったってだけじゃなくて――」

 ロランは再び、茶に染まってもう原稿用紙とは判別つかなくなったものを覗いた。

「小説、もう書かれないんですか? 私、ずっと今でも、ユーキさんの新作を待っているんですけど――いや、きっと、書いてくれてますよね。この紙、原稿用紙でしょう――あ、もしかして私、執筆の邪魔、しちゃい、ました?」

「いや、それは風に飛ばされただけだ。でも――内心、僕はもう物書きを辞めようと思っている」

「えっ、あ、それは…」

 彼女が虚言吐きだとは思いたくない。だとするならば、彼女は僕のファンであったということになるが、あまりに出会うのが遅すぎた。僕はもう、これ以上作品を書くことはできないだろう。ロランには不憫かもしれないが、すぐに別れるべきなのだ。

「ロラン、僕は、偉そうなことを言うけれど、君は僕のことなんて忘却して――ああ、愚直に、日々を送るべきだ。僕は今君と面したって、何もしてやれることはない――そうだ、宣言する。僕はもう、小説を書かない」

 ロランは両目を沈ませた。それに気づいて、僕は思わず顔を伏せた。どうか、次に広地へ目を向けた時には、すっかり消えていてくれ。なぜこれほどに胸に支えるものがあるのか、それはわかりかねた。

「なんで、もう書かないなんて、決めるんです?」

 それも、わかりかねた。

「想像力の欠如かも知れない。飽き飽きしているような節もあるけど、そんな平易な理由じゃないと思うんだ――でも、何にせよ、僕は物書きを辞める」

 ロランの溜息が聴こえた。ほどなくして、水場を人が踏むのがわかった。やはり、彼女が帰ったのだろうと思い、顔を上げた。正面には誰も居ないが、左横に違和感があった。そこにはロランが、立っている。

「…君は、僕に構うのか」

「――小説を読んで、ファンです会いたいです握手してくださいサインください、そんな生半端な意志の人間が、一ヶ月も毎日人探しをすると思いますか。ユーキさんの作風は、私の人生観を変えたんです。私は、ただ貴方に、もっと私を変えてくれって、頼み込みに来たんです。だから、私は自分のため、ユーキさんにとことん構うつもりですよ」

「僕が、君をどう変えるっていうんだ」

「――影に落された人に、影の中での生き方を教えて下さい」

 ロランがいたって真面目な顔をして言い切ったので、おかしくなって失笑してしまった。

「影から這い上がろうとしないのかい」

「影が好きなんです」

「そうか、ああ、そうか」

 雨の降る音は、いつの間にかサーッという霧吹きのようになっていた。あずまやの中にも、仄明かりが灯っていた。

 僕は何も言い出さない。ロランが横で腕を組み、石像みたく固まっている。

「あ、そうだ」

 彼女が小さく口を動かして呟いた。閃いたように僕の肩に手を乗せ、目線を合わせにきた。

「私が代わりに小説を書きます。ですから、ユーキさん、私に色々教えて下さい」

「…え?」

「私を、ユーキ先生の弟子にしてください」

「…え? あっ、う、うん」

 また、腑抜けた応答をしてしまった。僕がロランと交わした約束が何なのかは、茜に染まった机に座りながら整理がついた。




 だんだんと、朝の狭心が酷くなっていた。旭日の光が飽和する寝室で、夢現の内に、二度寝から覚めてから、ぼんやりとした、死にたくなるほど悶えた記憶だけがあるので、不確かではある。そう感覚的な情報であるものの、余韻からも昨日より今日、心臓の張り裂ける気がする。断定して僕は心の病を患っていた。昔の某新思潮派作家は、それで死んだ。

 最近、小説をめっきり断筆してからは、かつての物書きとしての自分に脚注を入れるのが日課のようなものだった。

 ――僕は小説に云いたいことを書き殴っていた。それが、湧き上がる病原体の吐き口になっていたのだ。

 こんな具合である。ことあるごと水の乾いた花瓶を愛でている。ふと口走る棘がみぞおちのあたりに突き刺さる。日の暮れるまで、散々痛めて苦しむ、そういう日々が流れているのだ。未だバイトには行っている。

 ロランが例の雨の日に書いてよこした住所へ向かうと、そこはコンクリートと石で模様付けられた道に、緩やかな芝生が広がる公園であった。休日の快晴ということで、子連れやら小学生グループやらがキャーキャー走り回ったりして悠々としている。

 ロランは公園中央の遊具を見下ろすような、ちょっとした丘の頂の、木陰のベンチに腰掛けていて、テーブルに両手を添えて何やら考えている素振りである。

「ロラン、来たよ」

「ユーキ先生、ほんとに来てくれたんですね。怪しいから関わらないってされても仕様がないな、とも割り切っていたので。ともかく、嬉しいです」

 他愛ない笑みを浮かべる彼女の手先には、鋭利に削られた鉛筆と大学ノートが在った。

「勉強かい?」

「ええ、まあ、勉強ですね」

 いや、小説じゃなくて、と言いながら、僕も向かい合うようにしてベンチへ腰掛けた。

「もしかして、大学ノートに書くのかい」

「はい、縦書きより横のほうが馴染み深くて。こういうノートなら、いくらでも家に在るので」

「良いとは思うけれど、新鮮だな」

 僕は胸ポケットから万年筆を出した。時折の青嵐が電灯を揺らし、ノート頁をパラパラと波打たせた。ロランは気にしないように、そっとノーとの上に手を乗せている。

 ロランが改まった様子で、こちらをじっと見つめてくる。口を噤んでいる。

「…どうした?」

「え、いや、教えて下さい」

「…何を教えたら、いいんだろうか」

 万年筆を指にかけ、辺りを見回してみる。散乱する落ち葉、白くこびりついた鳥の糞、吸い終えたタバコ。飛行機雲の延長線、淡いビル群、無邪気に遊具をループする幼子。なんとも、平凡である。

「小説を書くとき、一番大切なことって何ですか。ストーリー構成? 情景描写? ――文学部で色々習うんですけど、どれも理屈っぽくて、貴方になるには程遠いものに思えてくるんです」

「君は、僕になりたいのか」

「――代わりに書くって、云ったじゃないですか。私は〝ユーキ〟さんです。ユーキさんとして作品を書きたいんです」

「君の――ロランとしての作品はいらないのかい。〝ユーキ〟として書けば、それは僕の名義になる。君という人はどうなる?」

 ロランは不満げな顔をした。

「厭わしいことをわざわざ訊かないでくださいよ。人なんて所詮モノでしょう。死ねばほとんどの人間は崩れて往くのだから、私もこのままいくと、そのほとんどに含まれるのは目に見えています。それより、貴方を借用した方が、少なくとも私みたいな人に、間接的に護られるでしょう。だから、私なんてどうだっていいんです」

「だったら、僕だってそのほとんどだ」

「どうして謙虚になることがありますか。ユーキさんのその――狂った感性で遺書でも書けば、半世代くらいまでなら体を保ちますよ」

「…君は、生きることへの執念がとんとないな」

「貴方の作品のお陰です」

 やはり彼女は純粋だった。いたって真面目に話しているのがおもしろい。不満げに、次の言葉を急かすようだった。

「そういう思想が、一番大切なものだ。他の要素はどれも、思想から派生する。思想というのは――模倣できるものではない、全く漠然としたものだから。でも、真似事くらいはできるかもしれない。真似でもしたければ、僕をよく観察するといい、そして、僕が君に教えることを否定してみるんだ。所詮、言葉に発するものなんて上澄みだけ掬った偶像だ。鵜呑みにしちゃいけないよ」

 彼女は熱心に聴き込んでいる。言い切った名言らしいものはどれも、謂わば口でまかせに過ぎない。日が暮れる頃にはもう喋ったことなど忘れているだろう。でも、嘘は多分、ない。或る小説の造語を借用するならば〝二重思考〟とかいうやつだ。矛盾する2つをそのまま受け入れる。だが僕はそのうえで、2つを衝突させる。結果、煩雑な脳みそが出来上がったのだろう。

 僕は万年筆を、人質のように置いて丘を下りていった。夏陰に、ロランの白いワンピースが映えている。

 公園は確かに綺麗に整っている。だがまるでショッピングモールのようだ。四方が人工物であり、そのせいか空すら単調に感じた。石畳の道を歩いていると、手持ち無沙汰になって穴があったら入りたくなる。こういう都市公園は、幼い頃から遊び場にはならなかった。

「いったい僕は、ロランに何を教えられるんだ?」

 親は子に、社会的であったり基本的であったりする生きる力を身に付けさせる。横目に観覧している、しきりに滑り台を滑ったり昇ったりしている子どもは、今まさに訓練の中途なのだ。親から子に教えることなど、たかが知れている。僕はロランの親になるのか? 案外そのほうがいいかもしれない。――彼女の言う通りにロランを〝ユーキ〟にするつもりはない。相手が赤の他人であっても、同じである。自分が2人もいれば、すっかり同族嫌悪に陥ることになるだろう。同族嫌悪という点で鑑みれば、やはりロランはロランとしていてもらいたい。――僕はもう晩年だ。最期に一人を大切にすることぐらい、努めようじゃないか。

 いつもの単なる口でまかせかもしれない。快晴のせいで、気が酔っているかもしれない。そのうえで今は、見栄なんて捨てて生きようと思っている。

 ぶらぶらと歩き回って末、丘へ辿りついた。ロランの右手がしきりに動いている。筆のはしる――どこか懐かしい音が聞こえてくる。

 ああ、僕が彼女に教えることなど、たかが知れている、片手で数えられるだろう。それがなくたって、彼女ほどの熱量――僕を見つけ出したように――があるなら、小説家なんて勝手に成れる。

「ロラン――」

 彼女は驚いた素振りで顔を向けた。

「僕は、君の作品を楽しみに待つよ」

「あなたの、作品です」

「…それを、読ませてもらう。読んだあとに、伝えるべきことを伝えるよ。まずは何か書ききってみてよ」

「――分かりました。なら――」

 彼女はノートの一頁をちぎって、テーブルの上に提示した。

「ならユーキさんの住所を教えていただけませんか。たまに通って、貴方の観察をします。ユーキさん、云っていましたよね」

 どうせ家には僕しか居ない。罫線を無視したアンバランスで住所を記した。

「月曜だけ、バイトだから家は開いていない。それ以外の日は、鍵もかけないでおくから、好きにしてくれ」

「施錠していないと、泥棒が入ってきますよ」

 彼女がおかしく笑った。

「もう、盗られるものなんて何も残っていないさ。金も、大半が食材に替わっているからね」

 無愛想に見えたかもしれない、口角を上げてみた。そうして気付いた。ずっと、仏頂面だったのかもしれない。慣れない動きをすると、筋肉のこわばるのを感じた。表情がすっかり固まっていたのだ。

 万年筆をポケットに突っ込んで、宣った。

「じゃあ、家で待っているから。きっと、来てくれるのかい」

「はい、早速明後日に訪ねると思います」

「――生きて、待っている」

 生きてって何当たり前なこと云ってるんですか、と冗談めかして、また筆を執った。

「今日は大したことをしてやれなかった…」

「私は、貴方が学びですけれどね」

 彼女がいたずらに云ったのが気になったが、シャクシャクと丘を下りていって、帰路についた。未だ天井は快晴である。




『青い木陰で、君は筆を奏でている。』




 コンッと、扉がノックされたのが響きに響いて伝わってきた。

「お邪魔します!」

 陽気さと緊張が交錯したような挨拶である。

 音が狂ったアコースティックギターを触っていたので、僕の所在は直ぐに突き止められた。軽い扉がおどおどと開けられ、ロランが顔を覗かせた。

「ここでいいですか?」

「ああ、窓際の席を使うといいよ」

 彼女はそうして椅子に腰掛けるやいなや、体を振り向かせた。

「ギター弾かれるんですね」

「まあ…好きで始めたわけじゃないけど。父が勝手に放りだしたんだ。捨てるのももったいないし、今は僕が使っている。如何せん幼少期は父がいつも演奏していたから、僕も多少なりは弾けるんだよ」

 コードを押さえて一弦ずつ弾く、他人に聞かせてもなんでもない、僕が聴いてもなんでもないフレーズ。

「一軒家なんて、広いですね。ここに独りで住んでるなんて――」

「…これも、父が遺していった。税金だって、親の積み立てた金を使っている。――今は、独りで居る」

 今は――ただ、ここで家族と団らんを楽しんだことが在るかといえば、その記憶はない。漠然と、今のこうではなかった、なんていう謂わば希望的なものが脳裏に泳いでいる。

 僕はそれから恐らく、同じフレーズを幾度も奏でる以外の何もなかったと思う。ロランとは時折、目が合った。

 長短の針がちょうど重なった瞬間、ロランは何やら思い出したように立ち上がった。

「食材は買っているって、おととい云っていましたよね」

 昼食か。僕がなにか作るのか――粗悪品を味わわせるより、多少金を出して外食のほうがいいかもしれない。

「あるけど、今日は、外食でもどうだい。気分転換にもなると、思う」

「…折角なので、私が作りたいんですけど、いいですか?」

「2人分かい?」

「ええ、もちろん。直ぐにできると思いますし」

 ロランは扉へ駆けた。

「使わないほうがいい食材ってありますか」

「…どれでも、好きに料理してくれたらいいよ」

「わかりました、自由にします」

 そのまま、また駆けていったかと思うと、キッチンのシンクが流水を受ける野太い音が聞こえてきた。

 実際、彼女は手際が良いらしく、調理時間というのを感じる暇もなく、声がかかった。

 食卓にはシンプルに、白ご飯とネギの味噌汁、豚の生姜焼きが並べられていた。米は炊いた痕跡がないので、冷蔵庫にあった余り物を使ったのだろう。いずれも、ほわほわと湯気が立っている。

「どうぞ、召し上がってください。冷めちゃいますからね」

 ロランはもう席についていた。僕も向かいに座り、頂きます、と小言を口にして味噌汁をすすった。

「温かい…」

「しょっぱくないですか」

「あ、ああ、ちょうどいい塩梅だよ」

 他の2品もやはり――温かかった。これを表す形容は美味しい、ですらなかった。薄情な形容詞を羅列するより、黙って味わうのが最適な感情表現だと思った。調理人の方も熱心に食べているようで、テレパシーで感想を共有できている、そんな実感があった。唯一、調理人に対してこう言うべきだ。

「ロラン、温かいよ」

 彼女はふと顔を上げ、照れるようにまた料理に目線を落とした。

 食後、片付けまでロランにさせるのは憚られたし、彼女には物書きをさせてやらねばならなかった。彼女もそれに同意したので、皿洗いなんかは僕が処理した。

 乾燥棚に最期の平皿を収めても、書斎には戻らなかった。これといって理由はないが、近所を歩いて回ることにした。小中学生の頃、クラスメイトに連れられ、他人と狭い一室で賑やかに過ごすことが幾らか在った――子どもの遊びである――が、僕はすぐ体調を崩して――そう自認して、我儘に帰っていた。だが今日は、むしろつべこべなしに書斎へ戻りたいのだ。それでもなんとなく、が邪魔をした。無私の放浪願望と云うべきか。

 家屋への圧を極力抑えて戸を閉める。無尽蔵に枝という生命を大空へ広げる木立は、親が勝手に植えたものだ。その陰影に、青芒が繁茂し、外枠の柵を覆い隠している。晴る夏天に青葉の一枚々々が光芒を放つ。自宅からはみ出る青葉を横目に、しばらく街をうろうろした。

 全天を雲が隠しきった下、僕は戸を開けた。室内は薄暗くなっている。靴は相変わらずロランのものが残っている。

 書斎では、彼女が踊るように言葉を紡いでいた。黙々と、いやむしろ叫びながら。彼女の姿が魂の叫びの表象である。僕はその傍で、またギターの弦を撫でている――。




『君が合わせて踊っているのではなかった。むしろ僕が君のダンスに指を踊らせているという方が適当である。ただ彼女は協奏曲みたいに、僕に合わせようとする』




 空が分厚く煙る昼下がりである。冷暖房が稼働しない室内はすっかり凍てついている。

 ロランの来訪は僕の曜日となっていた。月曜日のバイトに行くための示準である。朝から彼女が訪れてきたのなら、大抵は土日である。たまにその他の曜日――大学で休講であったり、祝日であったりする――の際も在るが、彼女も僕の曜日認知が自身に委ねられているのだと察しているようで、この頃はいつも、アナウンサーみたく知らせてくれる。

 2人分の食器を洗っている最中である。珍しくロランが食卓でくつろいでいた。

「ユーキさんは、ドイツって興味ありますか? ドイツじゃなくても、ヨーロッパの他の国でもいいんですけど、行ってみたいとか」

 海外は、幾度かエスケープ先として考えた。ただ今は、この世界から離れたくない、という気持ちのほうが強かった。

「めっきり旅行へ行きたいっていうのは湧かないな。国内外どちらも。むしろ、引きこもっていたい」

 ロランはそうですか、と間延びした声で云った。そうすると音も立てずに――恐らく書斎へ戻っていった。今日もロランは、まっさらな紙面に筆をはしらせていた。

 ロランは毎週少なくとも一度は、欠かさずやってきた。僕は特段何をするでもなかった。部屋が薄暗く、仄明るく照らされた時候、見送るロランの伸びた背を見る度、彼女が僕から何を学べているのかと、ただ不安に駆られる。――この表現は着飾っている。彼女に見捨てられるということに対する不安なのだ。扉から部屋を覗く彼女のはにかんだ笑顔は、彼女なりの愛想づくりなのではないか? バツが悪いとか何やらで引くに引けなくなっているなら、それはそれで一切が僕のせいである。

 どんよりとした青が降りる雪解け。雪解けなんてのは、ロランが軽はずみに話した世間話がなければ使わずにおかれていた言葉である。近頃は、特に朝方、手を赤く染め上げて鉛筆を握っているのが、どうにも不便に思えたので、そのときだけストーブを用意することにしたのだ。

 今日はストーブのお披露目である。

「まだまだ寒いみたいだからね。僕は冬なんて、毎年何もできずに冬眠していたのだから、どうにかストーブで温まって、できることをやろうって思い立ったんだ」

 こんな具合に終始自分のため、ということで通した。ロランもそういうことで頷いた。実際使ってみたが、僕には不必要なほどで、蒸せるようである。ロランは指も血色よく、快適に過ごせている、という感じだったので、買い損ではない。

 正午を過ぎて、空を白雲が行き来しだした。移ろう部屋の明るさをよそに、思わず口走ったのだ。

「ロラン、君は、僕から何を学んだ? 僕はやはり、何もしてやれない。大した言も発していないだろう? 場所がほしいのなら、この家をやろう。そして僕は遠くへ去るよ」

「いえ、私は貴方が居るからここに通っているんですよ」

 彼女はキョトンとした。それはわざとらしかった。そして、首を傾け、いたずらに微笑んだ。

「私のために、部屋を温めてくれる。そんな粋な気遣いをされる方だと思っていなかったので――嬉しかったですよ」

 ああ、なんだ、バレていた。それを明らかな驚愕で顔に出してしまったのだから、バツが悪くなった。ぐちゃぐちゃに頭をかき回して、床に膝を折った。

「…ごめん」

 何も言えなくなって謝罪。ロランからはどう見えている? 惨めに思われているに違いない。どうしようもなくなって思わず狼狽しながら廊下へ出た。開いた後ろ戸に手をかけたとき、ロランの独り言よろしい声がコツンとあたった。

「…好きになっちゃった」

 振り向けず、俯いたまま訊いた。

「何が?」

「何って、まだ私のことが怖いですか? 貴方と居る時間が私にとっては一番長いのに、勿論――ね。だから、本当にどこか追いつけないような遠くへ去ったりしないでくださいよ。私――そんなつもりじゃなかったんだけどな。ユーキさんに依存しているのかもしれない。――この街に、いつまで居てくれたら、それで私は――たとえ私のほうが此処に当分来られなくなったとしても、戻ってきた暁には必ずまた会えますから。なので――遠くへだけは、行かないでください」

「ああ、はなからそんな足は持ち合わせていないから、遠くへなんて行かないよ」

 僕は少々躊躇した。書斎から廊下にかけて、時が止まったかのように、黙りこくったままで居た。それから空が思い出したように霧雨を降らせ、その音で我に返った。目線は未だ感じる。かえって振り向けなくなってしまった。だから、そのまま有無を云わず外へ出ていった。

 日暮れに帰宅したが、カーテンは閉められ、ロランも居なかった。――元々、彼女はこの部屋に入っていない、痕跡がなにも残っていないのだから、そう考えるしかなかった。




『彼女がいつまでも僕のもとに通い続けるなんて、そんなことは有り得ないと、すでに理解っていたはずだ』




 一ヶ月、待ってもロランは姿を見せない。

 早朝、目が覚めると激しい鼓動が襲い、息苦しくなる。また、生死についての議論を繰り返すようになった。頭蓋の内での議論なんてのは、後には虚無感が残るだけの時間の浪費である。わかっていても、それは精神の暴走なのだった。

 狭心が収まり、心の整理――彼女は待っても当分やって来ない――がついたのもあって、久方に玄関先へ出た。生物を殺すような冷気があたりに満ちている。そのくせ、空は青く広大で、日光は地上を照らしている。思わず強烈な不安がこみ上げた。四肢が力なく垂れているのが感じられた。向かいの家並みが、段々と僕から離れていくかのように見えた。喉元でつっかえる異物がある。それが次第に吐き気へと変異した。こみ上げるものを手の平で抑えつけながら、それでも街へ出ようと土さらしの庭に足をつけたとき、郵便受けが視界に飛び込んだ。というのも、我が家はあまりの手入れの無さからか、近所に廃屋とでも認識されているようで、チラシといった郵便物が投函されていることなど、この数年なかった。行政関係は直接インターフォンを押されるのが常である。だから、郵便受けに白い紙のようなものが入っているというのは、慣れない光景なのだ。中の物を手に取ると、長方形で模型の封筒だった。封された方を表に入っていたので、裏側を向けると『ユーキ先生に』とだけ記されてあった。字体からして――僕はよく執筆中の作品を覗き見ていたので――ロランがしたためたもので相違なかった。

 封を切って、丁寧に折られた便箋を抜き出し、開いた。内容は、いたってシンプルなものだった。




 拝啓 ユーキ先生――この呼び方にして欲しいとおっしゃっていたので、私も知らない本名は記しません。


 時候の挨拶を省かせていただきます。

 貴方に伝えるべきことがあります。大切なことだったのですが、言いそびれていたのと、そもそも面と向かって言い出せるか心配なので、いっそのこと手紙をしたためようと思い、こういう形に至りました。

 さて、その伝えなければならないことです。私は一年間、ドイツまで留学として赴き、滞在します。恐らく、この手紙が貴方の手に届く頃には、すでに私は祖国の土を踏んでいません。語学を学んできます。とはいえ、大した将来への展望を抱いているわけでは在りません。正当な理由をつけて、遠国を訪れたかったのです。ただ、それだけです。私が大学生であることも相まって、周囲は私に賛同してくれました。旅の中途でも、手紙を出します。書き続けている小説は旅先で完成させます。ですから、私が次の春、帰国したら読んでください。私はその日の貴方の顔を思い浮かべながら、旅立ちます。

 どうか、貴方はそこで私を待っていてください。私は貴方が好きになりました。そんな私のために、眠っていてもいいから、来年の春には、神妙な面持ちでいいから、出迎えてください。


                                       敬具


追伸

貴方に、一緒にドイツへ行こうと、直接言い出せなかったのはお許しください。貴方が自ら語ったように、貴方には旅は不似合いなように思えます。――なんてのは言い訳かもしれません。私も先生のことが未だ怖いのです。つい、悪い方ばかりに考えて、妄想で人を決めつけたりしてしまいます。他人を傷つけるような癖を、旅中にどうにかしてきます。ですから、今回の勝手な逃亡は、お許しください。


                                        ロラン




 一連を目に通し終えて、手紙は自然と草むらに落ちた。するりと、手の内を逃げ出したのだ。

 一面のパズルが完成した、そんな感覚があった。――彼女は、愛想なんて半端なものではない、僕を受け入れてくれていたのだ。彼女は僕に、自分を変えてくれ、と言った。彼女はほとんど自力で、無理やりそれを実現していたのではなかろうか? つまり、一切、何も気がつけず、鈍感な僕は、彼女に対して何もかも至らなかったということだ。――年単位の、グラウンドを一周していた。もう、早春の、桜木が庭に見え隠れしている。一年前、今では名も忘れた知人に連れられ、某先生と面会し、人間失格であるとでも告げられた。――この一年、僕の病はロランに対して発症し続けていた。彼女の繊細な心情を汲み取ることがなく、僕の伝えたいことも素直に正しく伝わらない。僕は何の不便もなかった。問題はロランの方だ。彼女は僕みたいになるのか? 小説は実のところ、作者の心象投影である。だから、彼女が僕の作品を模倣し続けたならば、彼女は僕になる。そして、例えば運命的に出会った大切な人を、傷つけてしまったという自責に駆られる日が来るのだろうか? ――僕の病的な人生のせいで、彼女を、彼女こそ、ぼくのようにするわけにはいかない。たとえ、それがロランの意に背いてでも、僕は家を捨て、病を捨て、職を捨て、街を捨て、後ろめたさ――過ぎた記憶の中に張り付く写真――を捨て、彼女から遠ざからなくてはならない。

 ――希望はある。そうだ、治療を受けよう。机の引き出しにしまっておいた、書類を見返すのだ。治療を終えて、煩雑な自己議論をリフレッシュして、普遍的な人間として、彼女と2人で居ればいい。そうすれば、何もかも許せると思う。

 日の当たる机で、ロラン宛の手紙を、原稿用紙に書いた。不足の事態を恐れた、事務的なものである。それを束ねると、他の幾らかの小物と共に紙袋にまとめた。

 僕は――僕は――。




『街郊外の田園を憶えていた。車で連れられた際は随分と車窓からの景色が移り変わっていたので、徒労は計り知れないものになるであろう、といった具合だった。けれども車はないし、公共交通機関を使うだけの余裕もない。だから、構わず歩いた。緑が荒れ狂う家が、どんどん、淡くなる。さらば、そんなはずないのに、さらば、口走った。僕は、田園を目指して歩いた。太陽の傾きも一瞥して、歩いた』




 なあ、ロラン、すまないが僕には生きられない。この先で、間もなく身を滅ぼすだろう。

 ああ、根も葉もない勘だ。

 でも、僕には来年の春、息をする自分をイメージできないのだ。

 ――遺書くらいは送るさ。それが僕らの再会である。君の書く小説のエンディングにでもしてくれ。




 手稿のメモ書き。

 最期に寄ったのは、日下大学である。

 大学正門の門衛とは、在学中に何かと交流があり、顔見知りである。初老の男なのだが、代わっていなければ、頼みたいことがあった。

 彼はいつもどおりといった具合で、事務室内で眠っていた。

 呼び鈴がついていたので、カラカラと鳴らすと、彼はその皺ついた目蓋を押し上げた。

「お久しぶりです。唐突かもしれませんが、頼みたいことがあって来ました」

「う、うーん、〝ユーキ〟くんか。頼み事かい」

「この大学の文学部に在籍している学生で、この春から一年間語学勉強のためにドイツに留学している人がいるはずです。女性です。僕の名前――ユーキという名を持ち出せば分かるでしょう。その人に、この荷物を渡してほしいのです」

 彼は話の中途になってようやく本筋を理解したようで、慌ててメモをとりだした。

「えーっと、文学部で、女性だね。ドイツに語学勉強で留学中。その人の名前を教えてくれたら楽なんだがね」

「彼女の名前は――本名は知らないんですけど、僕はロランと呼んでいました。本人なら、ロランですか、と訊けば頷くでしょう」

 彼はメモの内容をはじめから復唱して聴かせた。

「これで合っているかい?」

「ええ、大丈夫です」

「ところで、荷物というのは?」

 僕は彼に、窓口を開いて紙袋を渡した。軽いものだ。

「先ほど、荷物を彼女に渡してほしい、とお願いしましたが、一つ条件があります。それは、僕が彼女の帰国前にこの大学に再来したら、この紙袋ごと荷物を返却する、ということです。頼めますか」

「わかりましたよ。そんな条件なら、この荷物をわしがあんた以外に渡すことはなさそうだね」

「さあ、それは、どうでしょうかね。帰ってこられるのを、僕も切望しているんですけども」

 門衛は怪訝そうに首を傾げたものの、以上だと伝えると、また眠りはじめた。

 僕は踵を返して大学をあとにした。  ―続く―

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ダブルシンク 萩津茜 @h_akane255391

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