エア社員
天川裕司
エア社員
タイトル:エア社員
イントロ〜
空気のような存在…
あなたはこの言葉を耳にした事があるでしょうか?
日常に生きて居れば
物理的にいろんな刺激がやってきて、
自分も肉体を持つ物体だからそれと衝突し、
そのたび傷ついたり悩んだり、
落ち込むこともあると思います。
またそれが理由で喜んだり将来に夢を見たり、
人の生活はまるで喜びと悲しみの
表裏一体のようにも見えてきますね。
ですが、人によってはその繰り返しが嫌になり、
生涯、安泰した空間を求める場合もあるようです。
今回はそんな人に訪れた、ある不思議なお話。
メインシナリオ〜
(会社の屋上)
「はぁ。向こうに行けば、ラクになれるのかなあ…」
俺の名前は軽井一生(かるい かずお)。
ここ商社で働く一介のサラリーマン。
でも俺はもう毎日の繰り返しが嫌になっちゃった。
上司に怒られ、同僚にも馬鹿にされ、
今では部下にまでさえ馬鹿にされ続ける。
仕事がちゃんとできないで、
別のことばかり考えてしまい、
人生いったい何のためにあるのか、
そんなことを連続して思うようになったから。
そんな連続の日々を送るうちに、
人と言うのは自ずと変わってしまうものなんだ。
そして俺はついにこの日、いや何となくながら、
会社の屋上に来てしまっていた。
新しいステップを…
人生の向こう側に自分の楽園の様なものを見て、
つい足をそちらへ…でも、
「ゔっ!こ、怖っ!や、や、やっぱりダメだ…!」
その気になってもいざその段になれば、
体は正直に引いてしまい、生きろ、
とする持って生まれた本能が叫ぶのだ。
「でもこのまま帰ったら…」
またこれまでの繰り返しで、
悩みの日々が待っている。
同なじ繰り返し…同なじ繰り返し…
「ク…クソ…!」
思い切ろうとしたその時、
「お待ちなさい!そんな事はおやめなさい」
と後ろから声がした。
「えっ?!」と振り返って見ると
見たこともない女の人が立って居る。
「おやめなさい。本当はそんな事したくないんでしょう?あなたの体が…いや心が悲鳴をあげて居ますよ?」
「あ…あんた、いったい誰…」
会社の人じゃなかった。
提携先から来た女性社員だったようで、
たまたま屋上に上がってきたところ
俺がここに居るのを見つけ、
俺がこんな事をしていたから慌てて留めたと言う。
でも慌ててるような素振りはなかったけど。
名前は増茂(ますも)マリさんと言い、
OLをする前はスピリチュアルヒーラーや
ライフコーチのような仕事もしていたと言う。
でもそれからだった。
この人との不思議な出会いを通して、
俺の人生は本当に変わったんだ。
(カクテルバー「Air Salvation」)
「僕、前からダメなんですよ。社会人になってからと言うもの、学生の時の意欲を失くしたようで、何に対しても目的が無く、やる気が全然湧いてこないんです」
「…いや、やる気が湧かないって言うか、世間にもう付いてけてないような、そんな感じで…。僕にとって仕事は毎日多すぎるし、難しくなるし、何より人間関係に疲れ果ててしまって…」
彼女はそんな愚痴のような悩みを
真剣に聞いてくれていた。
マリ「そうだったんですね。それは大変な毎日を」
マリ「…でも軽井さん。そんな事は誰にでもあるものですよ?あなただけじゃありません」
彼女はそれから丁寧に慰めてくれ、
アドバイスなんかしてくれていた。でも…
「そんなの分かってます!僕だって人知れず、これまで散々苦労してきたんですよ!」
「でも世間と自分は本当に合わないんです!ダメなんですよ!…ニーズも違えば喜怒哀楽の焦点も違うし!何やったって空回りだ。おまけに仕事もできなくなっちゃって…!」
また自分1人の愚痴が始まってしまった。
彼女はそれもただ静かに聞いてくれていた。
「…すみません。これ、愚痴です」
すると彼女はそんな俺の様子を見兼ねたのか。
パチンと指を鳴らしてカクテルを一杯オーダーし、
景気づけにとそれを俺に飲ませた後、
俺を連れて或る場所へ連れて行った。
それはけっこう郊外にある廃屋の様な場所。
「ちょ、ちょっとどこへ行くんですか!こんな所まで…」
建物に入って少し行くとドアがあり、
マリ「ここです。どうぞドアを開けてお入り下さい」
入ると…
「え??…うわぁ…」
VIPルームの様な部屋が現れた。
そこには数人の男女が居り…
マリ「彼らはここの社員の方々です。どうぞ心の静養のため、ここでしばらく過ごしてみてはいかがでしょう?」
マリ「ここは居るだけで仕事になり、その分のお給料があなたの口座に振り込まれる形になります」
「…え?」
マリ「信じられないかもしれませんが、そう言う場所なんですよ。3ヶ月程ここに居らして、次のステップへ進むための静養場所にしてみてはどうでしょう?」
ここで彼女に対する2つ目の不思議に気づく。
彼女に言われると、例えそれが嘘でも信じてしまう。
それから俺はそこで過ごした。
(3ヶ月間)
「すごい。本当にここにただ居るだけで、これだけのお金をもらえるなんて…」
生活は潤い、何より俺の心が潤った。
体も楽で心も楽で、生まれてきてよかった…
人生こうでなくては…こんな事まで言わしめる
宝物のような空間がこの部屋、
オフィスに広がっていた。
しかし3ヶ月後。
(カクテルバー)
「お願いします!!3ヶ月なんてダメです!あそこに!あの場所に!ずっと居られるように何とか…してくれませんか!?」
やはり彼女が言った通り、
3ヶ月経てばあの空間オフィスに居る事は
もう出来なくなっていたようで、
何度あのドアを開けても向こうは変わらず廃屋。
あの現象を見る事はもう出来なくなっていた。
あの幸せの…本当にパラダイスの空間が
俺を取り巻く事はもう無くなっていたんだ。
俺のこの現実を救うあの空間が…
マリ「それは出来ません。言った通り、あなたの事を思えば自分の足で人生をちゃんと歩んで行くようにするため、あの場所はしばらくの心の静養区間、その空間にしておかなければならないんです」
「そんな…!」
マリ「あなたも心の中ではもう解ってる筈でしょう。そう言いながらあの場所は現実には無く、あなたの心の中に作り上げたパラダイスの空間だと言う事」
「……!」
マリ「それではいつまで経ってもあなたは自分の殻を打ち破れず、このまま内向的に埋没し、今の状況を自分で変える事はできません」
「だ、だからって!あんな場所を僕に見せておきながら…!」
マリ「ですからそれは…もう2度と言いません。あなたは解ってるんです」
それから押し問答が続いた。
俺はまた自暴自棄になり、
「もうイイです!俺やっぱりここで…!」
子供みたいに、
幼稚な覚悟を彼女に見せつけようとした。
ふう、とため息をつき、
彼女はまた俺に向き合ってくれた。
マリ「わかりました。そこまで心が硬く、どうしても現実に戻りたくないと言うなら、あなたにそれ用の場所を紹介しましょう」
そう言って彼女が左手を俺の前に上げ、
パチンと指を鳴らした瞬間、
俺の意識は飛んでしまった。
(会社内)
上司「なんだ、また軽井のヤツは来とらんのか?」
同僚「ははw夜逃げでもしたんじゃないすかぁ?」
部下「あははwありそうありそうw」
そんなヤツらの会話を、
俺は会社の天井付近から見下ろして居る。
「へっw好き勝手言ってらぁ。俺ぁもうお前達と違って、働かなくてもやってけるんだよ♪」
(会社を外から見上げながら)
マリ「こんな一流企業に勤めて居ても、人の心と言うのは見えないものよね」
マリ「一生(かずお)はああやってオフィスの天井付近からずっと彼らを見下ろして居る。空気になって」
マリ「ただああして居るだけで、1日働いた分の給料は一生(かすお)の口座にちゃんと振り込まれるように私がしといてあげた。感謝してもらわなきゃね」
マリ「一生(かずお)は空気になって彼らにその空気を提供し、その提供した空気のぶんお金をもらうって言うような、まるでそんな図式が出来上がってるみたいね」
マリ「会社に入れば空気、会社から又1歩出ればいつもの一生(かずお)に戻れる。こんな生活、もしかすると結構多くの人が願ってたりして」
マリ「『空気のような存在』…なんて人はよく言うけど、こんな形なら、なかなか贔屓にされる存在になるのかも…」
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=wERIaHZH_2U&t=1s
エア社員 天川裕司 @tenkawayuji
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