かくれんぼ
蘇芳
第1話
―――――真夜中、街は淑やかに朝を待つ。
いつものキラキラと輝き人が行き交う街、どことなく街からズレているなと違和感を覚えた。
「はやくきて」
そんな連絡を横目に目的地を目指す。しばらく歩きビル街の一角の廃ビルの前でふと足を止めた。上を見上げると屋上に揺れる影がひとつ。
非常階段を上り屋上まで行くと髪を風になびかせながら遠くを見つめる彼女がいた。
遅いよ
ごめん
こちらを見ない彼女と言葉を交わす。
ふいにこちらを向いて手を差し出す彼女。その手に誘われるように近づき手を取る僕。
どこかから聞こえてくるメロディにあわせ、近づき離れつつゆらゆらと踊った。
気づけばポツポツと雨が降りはじめていた。
屋上の端に座り街を眺めると、キラキラとネオンが輝いていた。
行こっか
どこにつくかな
一緒だといいな
互いの言葉に頷き、立ち上がる。
聞こえるメロディに合わせ、呼吸を整えていく。
鐘が鳴る。それを合図に僕と彼女は屋上から飛び降りた。視界が反転し、景色が流れていく。遠くで電車が走っていった。
(これで…もう終わりなんだ…)
ドサッ…
どこかから響くサイレンの音が近づいてくる。
全身が酷く痛い感覚も鈍い。真っ赤に染まる視界の端で動かない彼女を見た。
―――――やはり自分たちが飛び降りたあと救急車がやってきたらしい。しかし彼女は即死。僕だけ生き残ってしまった。置いてかれてしまった僕は骨折だけで目立った後遺症などもなくしばらくして退院し、また元の生活に戻って行った。
あの日あったことなど気にせず世界は僕を置いて進んでいく。時折、彼女の影がちらついては追いかけて、見つからずもういないことを実感する。それ以外は仕事をしては家に帰り寝る。そんなただ淡々とした生活を強いるような彩りのない世界。彼女との逃避行に失敗した僕の生活は彼女の影を追い、終わらないかくれんぼをしているようだった。
―――――真夜中の隨に、巡る夜、眩い光。
仕事終わりふらふらと夜の街を漂っていた僕。気づけばあの廃ビルの前にいた。
見上げればあのときの彼女のような、揺れる影が見えた気がした。
遠くに聞こえてくるサイレンやメロディが僕を幻を見ているようなそんな心地にさせてゆく。
その幻に導かれるように非常階段を上っていった。
屋上には誰もいない。
おいでよ
いるはずのない彼女の声が聞こえた。
屋上から見る景色は変わらない。キラキラと輝く街。あのときもこんな夜だった。
(どこで間違えたんだろうか…)
今となってはもうわからない。鐘の音が聞こえた。せめて彼女を見つけられるといいな。そんなことを考えながら終わらない彼女とのかくれんぼを終わらせるために僕は屋上から飛び降りた。
かくれんぼ 蘇芳 @momoryo
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