毒の紳士と死の祝祭

頼爾

第1話

「先生、エメはやり遂げました。あの女をとびきり美しく殺しました」


 小高い丘の上。墓とも呼べない石の前で私は跪いた。

 追手がもうすぐ来るだろう。息も上がってあちこち擦りむいている。

 でも、大丈夫だ。さっき私は先生に最後に貰った毒を飲んだ。だから、私はやっと先生のところに行ける。


「もう、いいですよね。私、とっても頑張りましたよね」


 神ではなく先生に祈るように、私は両手を合わせた後で石に抱き着く。

 やっと終わった、長かった。


 これは王太子妃を殺害した犯人の物語。そしてある少女の復讐の物語。




「さて、エメ。まだかな?」


 全身が痺れて動くことができず床に倒れている私の前で、先生はイスに座って優雅に紅茶を飲んでいる。


「もうすぐ十分が経つ。早く毒を分析して正しい解毒剤を飲みたまえ」


 紅茶を飲む仕草の一つでさえ色気が漂う目の前の男。

 ウィリアム・ライデッカー。


 私を殺しかけ、気まぐれに拾い新しい名を与え、弟子にして、そして今日は痺れ薬を盛った男。私は彼を「先生」と呼ぶ。


「そんなんじゃ復讐なんて夢のまた夢だ。ほら、王太子妃を殺したいんだろう? 頑張りたまえ」


 どこまでも優雅。そして突き抜けるように残酷に先生は笑った。私は歯を食いしばりながら痺れている手を必死に動かして一つの瓶を手に取った。

 悔しい過去を思い出しながら。

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