第25話 投擲魔法
――訓練を開始してから一週間後、マオは魔法を長時間持続させることができるようになった。最初の内は一瞬でも集中力が途切れると魔法が解除されたが、慣れてくるとアイリスと雑談を行いながらも魔法を維持できるようになった。
「へえ~俺の前に転生した人はそんなことしてたんだ」
『本当に変わった人でしたよ。でも、自分の力を悪事には利用したことは一度もありませんでした』
アイリスはマオの前に転生した人間の話をしてくれ、中々に興味深い内容だった。彼等はマオと同様に転生しただけで特殊な能力は授かっていないが、それでもアイリスと交信を行って様々な問題を解決してきたらしい。
雑談の最中もマオの手元には火球が維持されており、最初の頃と違っていつまでも魔法を保てるようになった。初めて自転車に乗った人間はバランスを保つのに苦労するだろうが、慣れていけば自然と乗りこなせるようになるのと同じく魔法も慣れてしまえば身体の負担は減る。
『一時間経ちましたね。もう持続力の訓練は十分でしょう』
「え、もうそんなに経ったの?話が楽しくて忘れてたよ」
『それはいい傾向ですね。ですが、次の訓練はもっと厳しいですよ』
師であるバクに課せられた課題の二つ目は「動作性」であり、魔法を操作する修行に移行する。マオは手始めに自分の手元に浮かんでいる火球を動かそうと気合を込めて掌を突き出す。
「はあっ!!」
『……飛んでいきませんね』
気合を込めて掌を突き出してみたが、魔法は手元に浮かんだまま離れようとしない。少し恥ずかしく思いながらもマオは火球を離れさせようとするが、中々上手くいかなかった。
「あ、あれ?この、行け!!行けってばっ!!」
『落ち着いてください。がむしゃらにやっても無駄ですよ』
「ううっ、どうして上手くいかないんだろう……」
魔法を前に飛ばそうと踏ん張るが中々上手くいかず、仕方ないのでマオはアイリスの助言を聞こうと思った時、エルフの女戦士のリンダとの戦闘を思い出す。
「待てよ、あの時は確か……」
リンダの魔法を受けるためにマオは初めて「
「熱く……ない?」
火球に直に触れてもマオの手が火傷する様子はなく、やはり自分の魔力で作り出した魔法は人体に影響を与えないらしい。火球を握りしめた状態でマオはある事を思いつき、少し離れた場所にある柱に目掛けて火球を振りかざす。
「おりゃっ!!」
『ちょっと!?』
いきなり柱に目掛けて火球を投擲したマオにアイリスは驚きの声を上げるが、火球はマオの手元に離れて柱に当たると、衝突した瞬間に爆発して柱が崩れ落ちる。その瞬間に老朽化していた建物が限界を迎えたのか徐々に崩れ始めていく。
『何やってるんですか!!この建物は柱一本でも壊れたら崩壊するほど老朽化が進んでるんですよ!!このままだと生き埋めになりますよ!?』
「ええっ!?それを先に言ってよ!!」
『まさかこんなことを仕出かすなんて思いもしませんでしたよ!!ほら、早く逃げてください!!』
建物が崩壊する前にマオは脱出しなければならず、彼は急いで近くの窓から逃げ出そうとした。既に天井は崩壊しかかれっており、一刻の猶予も争う。
(どうせ壊れるなら!!)
建物が完全に崩れ落ちる前にマオは手元に火球を作り出すと、窓に目掛けて投擲を行う。柱を壊した時のように火球は衝撃を受けた瞬間に破裂して窓を吹き飛ばした。外へ繋がる穴ができた瞬間にマオは飛び込み、その直後に天井が崩れて大量の瓦礫が降り注いだ――
――折角の修行場所を自らの魔法で崩壊させたマオは自宅に戻ると、アイリスからの指示で床に正座させられる。彼女は魔法の危険性を延々と説き、今後は迂闊に使用は控えるように注意した。
『いいですか!!魔法は無暗に使ってはいけないんです!!今度からは無謀な真似は止めてください!!』
「ご、ごめんなさい……」
『罰として次の修行場所は自分で探して下さい!!私は一切手助けしませんから!!』
教会を崩壊させたためにマオは人目のない場所をまた探さねばならず、本気で怒ったアイリスはしばらくの間は交信を控えるようにした。自分一人で新たな修行場所を探さねばならないことにマオはため息を吐き出す。
「まさかあんな威力があるとは思わなかったな……でも、火球を離れさせるには成功したぞ」
火球その物を操作するのではなく、自分の力で投げつける方法を知ったマオはある事を思いつく。それは肉体強化を使用すれば魔法をさらに遠くに投げ飛ばせるのではないかと考えた。
「ちょっと試してみようかな……」
昼間の明るい時間帯に魔法を使うのは目立つため、マオは夜になるまで身体を休めることにした――
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