第6話 隠し財産
『今なら邪魔者はいません!!このまま一気にいきましょう!!』
『分かってる!!』
頭に浮かんだ屋敷の図面を頼りにマオは奴隷商人の部屋に辿り着くと、いつもはいるはずの見張りの傭兵の姿はなかった。窓から中庭の様子を伺うと、先ほど保管庫から大量の酒を持ち出した男が仲間と共に本当に酒盛りを始めていた。
「おら、飲め飲め!!今日は俺の奢りだ!!」
「ぎゃはははっ!!何が奢りだ、あのケチ主人からパクってきただけだろ!!」
「どうだっていいだろ!!あいつが起きる前に全部飲み干しちまえ!!」
仮にも雇われている身でありながら傭兵達は職務中に酒を飲み始め、どれだけ屋敷の主人の人望がないのか思い知らされる光景だった。だが、マオにとっては都合がいい展開であり、護衛がいないうちに屋敷の主人の部屋の前に立つ。
(この中にあいつが……!!)
自分を奴隷として散々痛めつけた相手がいると考えるだけでマオは我を忘れそうになるが、ここで焦ってへまをやらかせば全てが台無しとなる。マオはアイリスに言われた通りに持参した道具を置いて扉の鍵を開けようとしたが、燭台の先端が折れていることに気が付く。
(しまった!?さっき焦って鍵を開けたせいか!?)
保管庫の鍵を開けようとした時、マオは傭兵の怒鳴り声に驚いて燭台を落としてしまったらしい。そのせいで燭台の先端が折れてしまい、これでは鍵を開くことができなかった。
『ど、どうすれば……』
『大丈夫ですよ。鍵が掛かっているのなら相手から開けてもらえばいいんですから』
燭台が使えなくなった以上は鍵をこじ開けることはできないが、マオはアイリスの言葉を聞いて納得し、強めに扉を叩いた。最初の内は何の反応もなかったが、繰り返し扉を叩くと苛立った男の声が響く。
「ええい、何の騒ぎだ!!こんな時間に起こしおって!!」
「っ……!!」
扉をしつこく叩いただけで部屋の中から主人の声が響き、それを聞いたマオはアイリスに言われた通りに地下牢から持ち出した手枷と毛布を取り出す。こんな物を持ち込んでどうするつもりかと思ったが、奴隷商人の声を聞いた途端に用途を理解した。
奴隷商人が扉を開ける前にマオは毛布で手枷と燭台を包むと、相手が扉を開いた瞬間に毛布を全力で振りかざす。毛布に包まれた手枷と燭台が錘となって奴隷商人の頭上に激突し、相手は頭から血を流しながら倒れこむ。
「ぐああっ!?」
「ふうっ、ふうっ……この野郎!!」
「や、止め……うぐぅっ!?」
倒れた相手にも容赦せずにマオは何度も毛布を叩きつけ、背中を踏みつけて決して逃がさない。この男のせいで自分を含めて奴隷がどれだけ苦しんだか考えるだけで怒りが抑えきれない。
『お前等は一生儂の奴隷だ!!』
『使えない奴め、飯は抜きだ!!』
『さっさと動け!!またお仕置きを受けたいのか!?』
奴隷時代のマオは常日頃から商人に痛めつけられ、仕事を失敗する度に拷問まがいの罰を受けた。今までの恨みを晴らすために何度も毛布を振り下ろすが、アイリスがそれを止めた。
『落ち着いて下さい!!もう気絶していますよ!!』
『はっ!?』
アイリスに言われてマオは男を見下ろすと、全身が痣だらけの状態で気絶していた。自分がしたことにマオは冷や汗をかき、もしもアイリスが止めていなければ殺していたかもしれない。
『こ、ここまでするつもりは……』
『しっかりしてください!!今は反省も後悔も後回しです!!早く証拠を回収してください!!』
『そ、そうだった!!』
マオが危険を冒してまで奴隷商人の部屋に訪れたのは、他の奴隷を救うのに必要になる奴隷商人の犯罪の証拠を掴むためだった。アイリスの指示通りに部屋の机を確認すると、そこには帳簿が保管されていた。
『やりましたね!!その帳簿を街の警備兵の元に持ち込めば不正が暴けます!!そうすればマオさんも奴隷ではなくなりますよ!!』
『これさえあれば……』
遂に証拠を見つけ出したマオはなくさないように毛布を引きちぎって自分の身体に括り付けると、後は傭兵が酒盛りしている間に脱走するだけだった。だが、逃げ出そうとした時にアイリスが注意した。
『おっと、逃げる前に金庫の中身も持っていきませんか?』
『金庫?いや、流石に泥棒は……』
『ここまでやっておいて今更ですよ。それにこの屋敷の主人が財産の半分まで使い果たして手に入れた代物が保管されていますよ』
『は、半分も!?』
マオを奴隷にした男は街の人間の中でも一、二を誇る資産家であり、その男が財産の半分を使い果たしてまで入手した代物と聞いて興味を抱かざるを得ない。状況的にはさっさと逃げた方がいいのだろうが、金庫の中身を手に入れる機会は二度と訪れることはないと考えると足を止めてしまう。
『……か、鍵の場所は?』
『ふふふ、やはり気になりますよね。鍵は机の引き出しの奥に入ってますからすぐに見つかりますよ』
誘惑に負けてマオは逃げる前に金庫の中身を確認するため、鍵を取り出すと緊張した面持ちで金庫の前に立つ。いったいどんな価値のある代物が入っているのかと期待しながら金庫を開くと、中に入っていた物を見てマオは驚愕した。
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