ep.2 Ron 《ロン》

- 翌日 -


 昨日エリックと約束をしたこともあって、お祭りが楽しみのあまり、今日はいつもよりも早く目が覚めた。


 魔術師も非魔術師も一緒になって楽しむそのお祭りは、年に一度の楽しみでもある。エリックとの待ち合わせは、お祭り会場にもなっている、町の広場。

 僕は白い半袖シャツと紺色のハーフパンツという服装に、箒のキーホルダーのついたいつもの鞄を持って出かける。それから、魔法のベールを身に着けて。


 

 僕の名前はロン。

 フランス・パリにある、魔術師専門の小学校に通う2年生。


 僕は生まれながらに回復魔法が使えた。それも、ものすごーく膨大な魔力を纏っていたらしい。これは特殊なケースなんだって。


 でもね、みんな僕のことを名前で呼んでくれない。

 肌も髪も真っ白で、祈るように《回復魔法》を使う僕のことを、みんな《天使ちゃん》とか《マリア様》って呼ぶんだ。僕を名前で呼んでくれるのはエリックや、仲の良い友達だけ。あとは先生とか。僕は名前で呼んで欲しいんだけどな……《天使ちゃん》より《ロン》の方が呼びやすいと思わない?



 この回復魔法は基本的に《細胞の再生・修復・補填》によって成り立っている。だから細胞レベルの知識が必要なんだ。細胞の破壊が起きている部分をきちんと見定めて、治す。

 だけどこの魔法はとても危険でね、魔力を込めすぎると忽ち細胞は耐えきれずに内側から破壊される《細胞破砕》が起きてしまう。


 僕が持つ魔力量はとんでもなく多いから、余計に危険なんだって。だから僕は胸にあるローマ数字と十字架を象ったようなで、魔力を制限されている。

 青白く光る刻印は少し不思議な感じで、 『tout guérir』……つまり、『すべてを癒す魔法』を使う時は発動するんだけど、水や火、風みたいな基本的な魔法を使う時は何も感じないから、特殊魔法だけが制限されているのかもしれない。

 ……わかんないけどね。



 医療については医師のリアム先生に教えて貰っている。先生も、魔術師。人の解剖や病気や怪我について、先生は凄く丁寧に教えてくれるんだ。先生はどんな病気や怪我も治せる、凄い先生なんだよ。

 将来の夢はリアム先生みたいなお医者さんになることなんだ。



 そんなわけで、僕は人体の解剖やちょっとした病気や怪我には詳しい。理科室にある人体模型だって怖くないよ。

 それよりよっぽど《共同魔法研究所》の方が怖いかな……僕はこの『toutすべてを guérir癒す魔法』を使いこなせるようになるために、ここの室長監督の下、本当に怪我をした人を治験と言う形で治させてもらっている。

 万が一何かあった時はリアム先生のいる総合病院へ搬送されることになっているけど、失敗は絶対にしたくない。


 鉄のような血の匂いにも、もう慣れた。


 どんなに酷い怪我だって、どんなに難しい病気だって………僕が治すんだ。最初は涙が出てくることもあったけど、もう、大丈夫……たぶん。



 だけど「治せない」と諦めなければならない時もある。

 この『toutすべてを guérir癒す魔法』は、僕がきちんと知っているものじゃないと治せない。



 解剖はきちんと理解出来ているか、込める魔力が適正かどうか、その治療法で治せるのか……これを誤ると簡単に《細胞破砕》が起きてしまう。

 物凄く緻密なコントロールを要するし、細胞ひとつひとつの強度や脆弱性を的確に診断しなくてはならない。



 難しくて、複雑で、挫けそうになる時もある。



 ……だけど。



 がんばらなくちゃ。

 将来、リアム先生みたいになんでも治せるお医者さんになりたいから!

 だから僕はお守り代わりに、先生にもらった医学書をいつも鞄に入れている。



 ……



 広場へ向かうにつれ、だんだんとお祭りの賑やかな雰囲気が色濃くなってくる。町全体が飾り付けられ、陽気な音楽も流れていて、雰囲気だけでも既に楽しい。

 そんな雰囲気から、この魔法のベールは僕を隠している。僕はこの町でもだから、町へ出るときはこのベールを使いなさいってリアム先生がくれたものだ。



 ……だけど事件は唐突に起きる。



 そのお祭り会場の一角で、暴動が起きたんだ。

 魔術師と非魔術師の、対立。



 この時僕はまだ、エリックと合流できていなかった。

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