第4話 交渉
ということで交渉のダイジェストだ。
まずは家族。
両親は普段海外勤めなので中3の妹だけが家にいる状況である。
普段は叔父叔母に面倒を見てもらっている。
余談だが、本当に家まで車で送ってもらった。俺のストーカーが話の通じるやつでよかったと思う。家を特定したのちに盗みに入るような輩もいることだし。まぁやっていることは変わらず犯罪なわけだが。
車から降りて家に入り、リビングで課題をしている妹に声をかける。
「おかえり〜。」
「ただいま。」
妹は現在中学生であるが、正直高校生と言われても違和感のないくらいしっかりとした印象を受ける。見目にも気を配っており、元の素材と相まって兄ながらモテるだろうな、と思ってしまう。俺とは異なり人付き合いが良く、何かと優秀なので一人で家に残しても大丈夫だろう。
「ちょっといいか?」
「どうしたの?お兄ちゃん。」
「突然だが、今から一ヶ月ほど恩人の家で世話になってくる。その間家事はできないので、家をよろしく頼む。」
彼女のことをどう説明しようか悩んだが、短くまとめて恩人とした。事実ではあるし何よりちゃんと伝えるのも面倒くさい。
「はーい。って一ヶ月!?ちょっと、お兄ちゃん!?」
「じゃあ。」
妹が何か言っているのを聞き流しながら家を出ていく。
これで妹は良し。
次がバイト先。
と言うことで普段勤めている喫茶店へと向かう。
いつも出勤する時に通っている道だが、これから一ヶ月はここを通ることもなくなるのか。普通に生きていたらなかなか得られない体験だな。
店は家からかなり近く、歩いて5分もかからない程度だ。
今日は店の定休日なため、店長が住む2階まで外付けの階段で上がり、インターホンを鳴らす。
「いらっしゃい、りつくん。どうしたの?急に尋ねてきて。」
「急にお邪魔してすみません。少し相談がありまして。」
ーーー
「ということがありまして、大変申し訳ないのですが、今から一ヶ月間、明後日以降の勤務ができなくなってしまいました。」
「あらまぁ、そうなの。休むこと自体は問題ないのだけれど、それよりも律君自身は大丈夫なの?」
物腰が柔らかく落ち着いていて、綺麗に歳をとったような印象を受けるこの方は、バイト先の店長であり、俺の叔母でもある。
おばあちゃん、というよりかはおばあさま、と呼びたくなるような風貌と立ち振る舞いは、俺が将来こうなりたいと思う目標となっている。
この喫茶店には、バイトがしたい、と両親に相談した時に、叔母が経営しているここだったらいいよと、いう形で特段面接等もなく決まった。
高校に入学してからここで働いているのだが、普段からシフトのわがままを聞いてくれたりなど、本当に店長には頭があがらない。
それ以外にも海外にいる親の代わりに俺と妹の面倒を見てくれたり、俺に信頼をおいてくれたりなどお世話になっている人物である。
「大丈夫です。あの人は私に危害を加えるようなことはしないでしょうし、万が一があればしっかり抵抗させていただきます。」
「わかりました。お父さんたちには私から伝えておきますね。」
「ありがとうございます。」
これでバイト先は終了。ついでに両親の分も消化できたな。
あとは友人に遊べない旨を伝えるメッセージを送って、交渉終了だ。
先に紬さんに連絡を…
いや、どうせなら結果は会ってからのお楽しみにしてやろう。あの人に散々振り回されたのだから、このくらいの意趣返しは許されるだろう。
そんなことを考えながら、彼女にメッセージを飛ばし、どんぐり公園へ向かう。
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