第3話 あなたは誰ですか
「まぁ命を助けてもらったのは確かだし、通報する気はないが。」
「本当…?」
「あぁ。」
「じゃあ、お願いもしていい?」
「お願い?なんのことだ?」
「え、さっき車に乗せる時、俺にできることならなんでもするって言ってたよね?」
…言った気もする。
「なんなら録音してるけど。」
「マジでか。」
「ほんとほんと。聞かせてあげよう。」
と、得意げに彼女は音声レコーダーらしきものを取り出して再生する。
『りっくん、どうしたの?こんなところで。』
『いや、面倒なナンパに立ち会ってしまってな。どうしようかと悩んでいたところだ。』
『もー、そんなの警察一択じゃんか。今電話するから。』
『あ゛、警察?分かった、俺が悪かった、だから警察は』
『もしもし、すいません今女の子がガラの悪い男に絡まれてましてー。場所は禍茉駅の近くです。』
『チッ』
『あ、今コンビニの方に逃げていきました!』
そう言って男が走り去るような足音が聞こえる。
記憶が曖昧で不安だったが、ちゃんと話を合わせてかつ、クラスメイトも救えていたようだ。
『ほんと助かった。俺一人だとどうなってたか』
『全然気にしなくていいよ!別にお礼とか!お礼とか!求めてやったわけじゃないから!』
『そうか?いや、流石に申し訳ないから…何か…俺ができることなら…』
『えっほんとに!?じゃあ…ってりっくん?りっくん!?』
「言わせてないか?」
「えーどこがー?」
こいつ、メンタルが強いのか弱いのか…。
「…わかった。それで何が望みだ?正直俺にそこまでのことは、」
できない、と言おうとしたところでそのお願いとやらが飛んできた。
「監禁させて?」
「は?」
「間違えた、軟禁させて?」
「いやほぼ変わっていないが」
「え、監禁と軟禁ってだいぶ違うよ?監禁だとりっくんを部屋に閉じ込めて一人で何もできないようにしなきゃいけなくなっちゃう…」
なるほど。確かにだいぶ違うし、俺の精神的にも軟禁の方が楽そうだ。説明する時の顔にうっすらと浮かんだ笑みが怖いが。
「いや俺がツッコミたかったのはそこじゃ」
「お願いします。」
再度食い気味にお願いされる。
ここまで言うとなると何か理由あってのもなのだろう。
「ちょっと待ってくれ。」
「流石に…ダメ?」
そう言って彼女は首を傾げながら、悲しそうな表情をする。このあざとさは計算されているのかどうなのか。
そんなことはさておき、どうやら理解されていないらしい。
「だから、少し待て。」
「え?」
「今から俺の関係者に、監禁、いや軟禁だったか? ができるように話をつけてくる。」
「いや、何言ってるの?言い出した私が言うのもなんだけど、普通できないと思うよ?」
そこは冷静なのかよ。
「俺自身ができる限りのことはすると言ったのだから、最大限努力はする。もし断られた場合は、申し訳ないが別のお願いにしてもらうことになってしまうが。」
「え、あ、」
「期間はどのくらいだ?」
「1ヶ月くらいですかね…?」
スマホのカレンダーで確認すると、ちょうど夏休み期間内だった。
「なら問題ないな。もしそれ以上を望むのであれば、早めに言ってくれ。」
「はい…」
「衣食はどうすればいい?服は持ってきた方がいいか?食事は自分で作ればいいのか?」
「服はもう揃えてるから…食事は私が用意するし費用も私が」
服の件は一旦無視する。
「いや、そこは折半にしよう」
「わかりました…」
「じゃあ聞いてくる。おそらく三時間程度で終わる筈だ。その後連絡…あぁ、連絡先を教えてくれ。」
「電話番号なら知ってるよ?」
これは想定内。
「いちいち電話も面倒だろう。reinでいいか?」
「いいの!?」
軟禁しようとしている奴がどこで喜んでるんだ…
「連絡はこれでよしと。申し訳ないが、家まで送ってくれるか?」
「もちろん!その後はどんぐり公園で待ってるね!」
「あぁ。」
と答えてからふと思った。どうしてこいつはその呼称を知っている?
「どうしたの?行くよ?」
「すまない、考え事をしていた。」
まぁ、いいか。
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