第1部15話 秘密基地




 本日も子供達との約束で夜の学校に来た俺たちだったが、遊んでいる間に雨が降ってきてしまった。

 

「あちゃー、こりゃ今日は外で遊ぶのは無理そうだな」

「嫌だ! まだ来たばっかりじゃん!」

タケマルが駄々をこねる。

「タケマル、わがまま言わないの!」

タケマルを諌める姿に、テンは本当にいいお姉ちゃんをやっていると思った。

「わたしもまだ帰りたくないですぅ……」

「もう……たまもまで……」


「ねぇ幸近! ケンちゃんのお店って今日はやってるわよね? あそこならこの子達を変な目で見るようなお客さんは居ないんじゃないかしら! だってケンちゃんの方がよっぽど変だもの!」

「そうだねクリスタちゃん! ケンちゃんより変な人見たことないもんねぇ!」

この失礼なクリスタとサーシャの言葉を受けて俺はケンちゃんに確認すると、常連しかいないから来てもいいと言ってくれた。


 店に入るとケンちゃんと常連さんは快く迎え入れてくれた。

「幸近兄さん、私こういうお店初めて来たんだけど……」

「気を張らずに、そのままの自然体でいいんだよ」

「そうよテン、ここに居る人はみんないい人だから……」

ソフィもこんな優しい顔をするのか……なんて思ってその顔を見つめていると「何よ?」と、俺に向けられた目はいつも通りの冷たい温度へと戻っていた。


「唯姉様! ジュース貰ったのです〜」

「たまもは本当に可愛いなぁこのこの!」

山形はたまものほっぺをぷにぷにしていた。

「どうだタケマル、ここが俺達の秘密基地なんだ!」

「オレだって研究所の中には秘密基地が沢山あるんだぜ」

「それは見てみたいな」

「じゃあ今度遊びに来てよ! なぁおじちゃんいいだろ?」

「ん? あぁ、かまわないよ」

この話から今週末に研究所を見学することになった。



 週末になり、俺達は電車に乗って研究所までやってきた。到着すると4人が出迎えてくれた。

「あれ、クリスタ姉どうしたの? なんで幸兄におんぶされてるんだ?」

「昨日遅くまでアニメを見ていたらしく電車の中で眠ってしまったんだ」

「夏鈴は来てないの?」

テンがサーシャに尋ねる。

「夏鈴ちゃんは部活があるんだってぇ」

そしてカレルが研究所の施設を案内してくれた。


「この研究所は大きく4つの建物で構成されていて、あの3つある大きいドーム状の建物は異能の検証施設となるんだ。一つひとつが野球のグラウンドくらいの大きさで、能力の測定や検証などに使われるため頑丈に作られている。普段はこの子達の寝室にしている。ドームはちょうど3つあるからね」

「お前ら1人であのでかい建物に住んでるのか?」

「へへっ! いいだろー!」

「おトイレに行くのも大変です〜」


「そして中心にあるこの10階建てのビルが、僕の研究棟さ」

研究所は中心に研究棟を構え、この研究棟を取り囲むように等間隔に3つのドーム状の建物が並んでいた。研究棟に入ると、エレベーターに乗り込むと10階まで上がっていく。

「そして最上階のこの部屋が、僕が主に仕事をしている研究室だよ」

紹介された部屋はとても散らかっていたが、子供達が走り回っている姿を見ると、原因が容易に想像できた。


 その後お昼を一緒に食べようという話になったのだが、

ちょうどその時ソフィのスマホに電話が鳴る。急遽学校からの呼び出しがあったとのことで、お昼ご飯はまたの機会にして全員で学校に戻る事にした。

「みんなもう帰っちゃうのかよ!」

「まだ一緒に遊びたいです〜」

「ごめんなさいね、今日の夜はまた一緒に遊べるから、それまで待っていてくれないかしら?」

ソフィが宥めると、子供達は納得してくれた。


 

 研究所を出てからの俺たちは、ケンちゃんの店で作戦会議を行なっていた。

「それでケンちゃん、率直に聞くがどうだった?」

「状況的に見て、カレルが一連の事件の犯人で間違いないわね」

「やっぱりか……」

「でも今のところ物的証拠は見つからず、状況証拠でしかないわ」

なぜケンちゃんがこんな事を言えるのかというと――。


 研究所見学に参加していたのは、いつもの5人のメンバーに加え、実はケンちゃんも同行していたのだ。だが、カレルだけはそれを知らない。

 なぜならカレル達と合流した瞬間から、クリスタがカレルに向けてケンちゃんを視認させない幻惑をかけていたからだ。

 幻惑をかけた後、近くに隠れていたケンちゃんが何事もなかったかのように俺たちに合流したのだ。だから子供達にはケンちゃんの姿がハッキリと見えていた。


 そして研究室に入った際に、ケンちゃんは研究所内にある研究資料を元に捜査をしてくれていた。

 ケンちゃんのラグラスは『情報処理ハイスペック』。目に入った情報を記憶し、その情報から最適な解を導き出せる能力だ。

(この能力はケンちゃんの意識とは関係なく発動してしまうため法に触れる心配はない)


 今回の行動をとった理由は、たまもから絵を受け取った際に、その腕にあった無数の注射痕が気になったからだ。それを皆に話して今回の作戦に協力して貰った。

「このままあの子達を殺人鬼の元に置いておけないわ」

クリスタが体を震わせ怒りを露わにする。

「だがカレル殿が捕まれば、あの子達はまた居場所を失い路頭に迷う事になるのだろうか……」

「そんな悠長なこと言ってられる場合じゃないわ!」

ソフィも気が立っている様子だ。

「幸ちゃん、これ以上この件に首を突っ込むのは危険だわ。この事を警察に話して、後の事は全て任せましょう」

「確かに俺たちに出来る事はここまでなのかな……」



――研究所内――


「今日も楽しかったなー!」

「みんなと夜も遊べるの楽しみです〜」

「2人共、あんまりはしゃぎ過ぎないでよ?」

「出来ました〜! おじちゃん見て下さい! 今日みんなが遊びに来た時の絵を描いてみたのです〜!」

「上手じゃないか――」

カレルがその絵を見ると、その絵には今日居なかったであろう筈のケンちゃんの姿が描かれていた。


(そうか……)

 

第1部15話 秘密基地 完


《登場人物紹介》

名前:金土かなつち タケマル

髪型:薄茶、ミディアム

瞳の色:濃い灰色

身長:150cm

体重:43kg

誕生日:10月9日(カレルと出会った日)

年齢:12歳

血液型:O型

好きな食べ物:うどん、ハチミツ

嫌いな食べ物:鯖

ラグラス:神通力ディバインパワー

少し先の光景を見る事が出来る

背中から生えている翼で飛行可能

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る