第1部14話 カレルと孤児



「まずは子供達の縄を解いてやってくれるかい?」

「サーシャ、解いてやってくれ」

サーシャは『影縛り』を解除した。

「ありがとう、君たち自己紹介をしなさい」


 カレルがそう言うと、ツノの生えた着物の少女が口を開く。

「私は『金土テン』です。14歳で、能力は『オーガ』。体の一部を大きくしたり、なんでも……異能すら食べる事が出来ます」


 次に袈裟を纏った黒い翼の生えた少年が話し出す。

「オレは『金土タケマル』。12歳でラグラスは『神通力ディバインパワー』。少し未来の光景を見る事が出来て、この背中の翼で空も飛べるんだぜ!」


 そして最後に巫女装束の狐の耳と尻尾を持つ少女。

「わたしは『金土たまも』なのです〜。11歳で能力は『妖狐フェアリーフォックス』といって、何にでも変身できる炎を生み出す事ができるのです〜」


「みんなカレルさんと同じ苗字ってことは、あんたの子供なのか?」

「いや、この子達は全員孤児でね。僕が拾った時に苗字が無かったから、僕のをあげたんだ」

「なんで夜の学校に?」

「君たちは先天異能を持って生まれた異形の子供が、世の中でどういう扱いを受けるか知っているかい?」

「あまりいい話は聞かないな……」

「そう。これだけ異能力者に溢れた世界でも、未だに異形の姿で生まれた子供達を差別する風習を拭えないのが、今のこの国の現状なんだ」


「そんな……」

クリスタが悲しそうな表情を浮かべる。

「彼らはそれぞれ親に捨てられ、どこにも行き場がない。だから内緒で僕の研究所に匿っているのさ」

「あんたの能力なら可能か……」

「せめてこの子達が大人になって、自分の足で歩けるようになるまでは面倒をみたいと思っているんだ」

「あなた見かけによらずいい人じゃないの!」

クリスタが無意識に失礼なことを言う。


「ははは、この子達は学校というものを知らない……。だから夜の、僕の母校であるこの異能警察学校で外の世界を教えて、ついでに遊び場にしていたという訳さ」

「じゃああたしも、その遊びに参加してもいいかな?」

サーシャが笑顔で尋ねる。

「いいわね! わたしも参加するわ! ねぇみんなも!」

クリスタがそれに続いた。

「そうだな、ここなら俺達の訓練にもなるかもしれない」


「え! 兄ちゃん達、オレらと遊んでくれるの?」

タケマルが輝いた笑顔で尋ねる。

「わたしもみんなと遊びたいです〜!」

「たまもとタケマルがそう言うなら……」

少し照れた様子でテンも続いた。

 俺達は訓練も兼ねて、翌日から深夜の学校に集まり子供達と遊ぶようになった。


 

 そんな日々が続いたある朝、ニュースで先天異能を持つ人間が連続で殺されるという事件が報道された。その被害者の殺害方法が一致しており、全て毒殺である事から同一犯とされていた。

 その報道に気になる点があり、それは被害者全員に小さな注射痕が2つあったこと、そして抵抗した様子が一切見られなかったことだ。


 その日の帰りにケンちゃんの店に行って、カレルと子供達の話をした。

「カレルは優秀な研究者で大きな研究所の所長を任せられている男なんだけど、5年前に実の娘を失ってから怪しげな研究をしているという黒い噂もあるの」

「怪しげな研究?」

「死者の蘇生にも似た研究と聞いた事があるわ」

「本当にケンちゃんの情報網はすごいな。でも悪い人じゃないと思う。子供達もすごく幸せそうなんだ」

「それならいいんだけど……」


 数日後、村上先生から発表があった。

「先日から発生している異能力者連続殺人事件の犯人の手がかりが掴めないばかりか、未だに犯行が続いている。上層部はこの事態を重く受け止め、特例措置を下す事を決定した。

 本日より異能警察学校学生諸君も防衛措置として、一時的に外部での異能の使用と武器の所持を認める事となった。これは極めて異例の出来事だ。皆も自分の命を守り抜く事を最優先にしてくれ」


 そんな状況でも子供達にせがまれて、夜の学校での遊びは継続していた。俺はカレルに事件が落ち着くまで、しばらくは控えた方が良いのではと伝えてみたのだが、「僕が1人で守るよりも君たちと一緒の方が安全だろう」と返され、それもそうかと納得した。


 今日はサッカーをして遊んでいたが、疲れてきたので先に休んでいた山形と交代してフィールドを出る。休憩中にカレルから、子供達の過去を聞かされた。

 

「テンは今では2人のお姉さんとしてよくやってくれているが、彼女は預けられた施設でも虐められていたんだそうだ。挙句の果てにはその施設が何者かに放火され、唯一生き残ったあの子を犯人だと言う人間もいて、昔は人を信じる事が出来なくなっていた――。

 タケマルにしたって、あの子の親は彼を見せ物小屋に売ったんだよ。そこで酷い仕打ちを受けていたのを、僕が見つけて連れ出したんだ――。

 たまもはおっとりしているが、彼女は親に捨てられてから能力を使い人を騙しながら、1人で生きてきた……」

「酷い話だな……」

「みんな悲しい過去を持つが、今はこんなに楽しそうに笑っている。彼らと仲良くしてくれてありがとう幸近君」

 


 俺は休憩を終えてフィールドに戻った。

「幸兄! ボールそっちにいったぞ!」

タケマルが声を上げる。

「おう! テン受けとれー!」

俺はサッカーボールをテンにパスした。テンはそのパスを受け取る事が出来ずに、ボールは遠くに転がってしまう。

「幸近兄さん! ボール速すぎるのよ!」

「悪い、ちょっと速すぎたか……」

「ちぇっ、せっかくのチャンスだったのに幸兄のノーコン!! ま、すぐ転んじゃうクリスタ姉よりはマシだけど……」

「ちょっとタケマル! 聞き捨てならないわね!」


 その日の別れ際にたまもが声をかけて来た。

「幸近兄様! これあげます〜」

たまもは俺の似顔絵をプレゼントしてくれたのだが、それを受け取ると、俺はある不信感を覚えたのだった。


第1部14話 カレルと孤児 完


《登場人物紹介》

名前:金土かなつち テン

髪型:白髪ロングのストレート

瞳の色:金に近い茶色

身長:157cm

体重:44kg

誕生日:2月2日(カレルと出会った日)

年齢:14歳

血液型:O型

好きな食べ物:ぶどう、タケノコ

嫌いな食べ物:イワシ、豆

ラグラス:オーガ

体の一部を巨大化できる

どんなものでも食べて消化できる(異能すらも食べて無効化する)


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