第1部3話 クリスタ
ソフィの部屋から出て校舎へ戻っていると、同じクラスの女子生徒に声をかけられた。
「あなたちょっと待ちなさい」
「えーと、君は確か……」
「クリスタ・フィールドよ」
「そうそれだ!」
「初めて会話する相手に"それ"とは失礼な男ね!」
クリスタはそう言うと、小柄な体を大きく見せるつもりなのか、花壇の上にヒョイっと乗っかると俺を見下した。
「あなた、なんでソフィの部屋から出てきたの? まさかあなた達、そういう関係なのかしら?」
「いや、俺たちは決してそのような関係では……」
「じゃあどういう関係だったら入校2日目で学校を抜け出して、家で逢引きなんてことになるのかしら?」
しまった。何も言い返せないし、うまい言い訳も思いつかない。
「それは、言えない……」
「だったら、クラスのみんなに今見たことを包み隠さず言いふらしてあげようかしら」
「それはソフィの為にも辞めて下さいお願いします」
クリスタは目を光らせて、尚も高圧的な態度で続ける。
「じゃあわたしに協力なさい」
「な、なにを協力すればいいんだ?」
「あいつの弱点を教えなさい」
「お前は学年主席のあいつに敵対心を抱いてるのか?」
「もちろんよ。ソフィとは高等部から同じなんだけど、いつも完璧で隙がなくて、一度も勝てたことがないの」
「それは流石としか言いようがないな」
「仲がいいなら1つくらいは弱点知ってるでしょ? もったいぶらないで教えなさいよ!」
「いやたとえ知っていたとしても、それをお前に教えて俺になんの得があるんだ?」
「じゃあ明日には校内新聞であなた達の淫らな関係が明かされる事になるから、そういうことで……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 本当に知らないんだ弱点なんて……」
「じゃあ私と同盟を組みなさい。あいつの弱点を見つけてくれば、さっき見たことは忘れてあげるわ」
そんなことがあり、なし崩し的に俺はこいつと同盟を結ぶことになった。
「お兄ちゃんなんか今日元気ないね? 学校でなんかあった?」
夕飯の際、夏鈴がそう尋ねてくるほど俺は肩を落としていたらしい。それもその筈、せっかく仲良くなれた友達を早速売るような事を強要されているのだ。
「なぁ夏鈴、お前男に同盟を組めって言ったことあるか?」
「何それ、言ったことないけど……てかそれ新手の告白なんじゃ……?」
「いや、それだけは絶対にないんだ……」
「良かった。お兄ちゃんについに彼女が出来るのかと思って心配しちゃったじゃん」
「そこは素直に喜んでくれよ」
「だってお兄ちゃんに彼女が出来たら、かりん1人でご飯食べること多くなりそうじゃん」
夏鈴は少し寂しそうな表情を浮かべた。
「バカ言え! たとえ俺に彼女ができようとお前と飯を食うことを疎かにする訳なかろう! もし出来ても彼女とここでお前の飯を食う!」
「それはちょっとかりんが気をつかうかも……」
「まぁまだ当分は無いだろうから安心してくれ!」
自分で言っていて悲しくなってきたのでこの話はやめた。
憂鬱だったが、すぐに明日はやってきた。授業があんまり耳に入らないじゃないかクリスタめ……。
「では今日は犯罪組織について学んでいくぞ。
まず皆も知っていると思うが、異能力者否定派の信者を多く抱える、この世界で最も巨大な異能犯罪組織『デニグレ』は、始まりの少女である『聖女』をその手にかけた集団だ。
100年近い歴史があり、その目的は能力者の根絶。平和な世界を取り戻すという思想のもと行動しているが、その手段を選ばない残忍なやり方は、人々の恐怖の対象となっている。違法な能力者狩りを正当化する危険な奴らだ。遭遇した際には十分注意して、現職の異能警察官の指示に従うように――では今日はここまでとする」
授業が終わると、すぐに腕を強引に掴まれて廊下まで連行された。
「で、何か分かったんでしょうね?」
「いや、まだ……」
「そう、あなたとはこれまでね――」
「ちょっと待ってくれ! そんなヒモ男に別れを告げるようなテンションで見放さないでくれ!」
「なら少しは役に立ちなさいよポンコツ」
「おいお前少し言い過ぎじゃないか? 確かに俺は無能力だが、ポンコツ呼ばわりされるほどじゃな……」
言葉を最後まで言いきる前に、目の前がゆらゆらと揺れ始める。そしてさっきまで目の前に居たはずのクリスタが、テレビなどでよく見る白い着物に身を包む髪の長い幽霊と呼ばれるバケモノに変身した。
「う、うわあぁぁあああ!!」
俺は大嫌いなホラーに遭遇した事で、とても情けない声を上げて腰を抜かしてしまった。
――すると次の瞬間、その幽霊はクリスタの姿に戻っていた。
「え? なんだったんだ、今の……」
「これがわたしのラグラス、『
「あれが幻影なのか? まるで本物だったじゃないか」
「そう……私は1対1の近接戦闘なら誰にも負けない自信があるわ。でもこの能力には欠陥が多いの」
クリスタは自分の能力の詳細を話し出した。
「まず、惑わす対象は1度に1人だけで効果範囲は対象者から約3メートルほど。しかも私は相手を惑わす間、その相手と視覚を共有しているような感覚だから、その場所からほとんど動けないの。本当に不便な能力だわ」
「でもお前の能力は後天異能だから、深層心理でお前が望んだ能力だったんじゃないのか?」
「違うわよ。わたしはこんな能力望んでない……。わたしの背、小さいでしょ? 昔からそれで同級生に「チビ」って馬鹿にされていたの。それを見返したいと思ってたら、こんな能力になってた……」
「ハハハハハハ」
俺は思わず声を上げて笑ってしまった。
「何笑ってんのよこのポンコツ!」
「悪い悪い、お前の能力はお前に似て天邪鬼だったんだな」
「あんたそれ以上言ったらホントに殴るわよ? とにかく今日の放課後までにソフィの弱点を探りなさい。いいわね?」
「努力はするよ――」
そして俺はその足でソフィの元へと向かった。
「なぁソフィ、お前苦手なものってあるか?」
「いきなり何よ。好きなものを聞くならまだしも、苦手なものを聞いてくるなんてどういう神経しているの?」
「頼む、のっぴきならない事情があるんだ……」
俺は両手を合わせる。
ソフィはジトっとした目で片肘をつきながら答える。
「何があったのかは知らないけど、私に迷惑はかけないでよね? ……食べ物なら、生姜とドライフルーツが嫌いだわ」
「その他には? お化けが怖いとか注射が怖いとか」
「あなたじゃないのだからその程度なんともないわ」
そして更に鋭くなった目で睨むように続けた。
「あと……強いて言うなら……あなたかしら……」
「おい、それは素直に傷つくんだが……」
「冗談よ。あなたには少なからず感謝しているから、ドライフルーツよりはマシ……」
「限りなく嫌いよりなことと、お前の反応がドライだよ! 真夏のアスファルト並にカッピカピでトゲトゲしいぞ!」
「じゃあ川にでも浸かってくるといいわ、水分補給もできるし、しばらく流されていれば良い具合に角が取れるんじゃないかしら」
「角をとった方がいいのはお前の方だと思うのは俺だけか? なぁソフィ、これは君の為でもある事なんだ……」
「だってあなた、昨日あんな事があったばかりなのに、昨日の今日でもう新しい子を捕まえて仲良くやっているみたいじゃない……」
「そんな人聞きの悪いこと……って、え? それもしかして嫉妬? ねぇそれって嫉妬!?」
「うるさいわよ、気安く話しかけないで」
「すみませんでした――」
「今日はもう話したくないわ」
「……」
終わった……。俺の学校生活、いや人生が終わった――。
第1部3話 クリスタ 完
《登場人物紹介》
名前:クリスタ・フィールド
髪型:銀髪ショート
瞳の色:ブラウン
身長:152cm
体重:42kg
誕生日:5月28日
年齢:18歳
血液型:B型
好きな食べ物:燻製料理、トナカイのソテー
嫌いな食べ物:サルミアッキ
ラグラス:
対象1人に幻を見せるがその間自分は動けない
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