クジラの国で会いましょう

海空

選択の日

 この国の法律では、成人と認められる15の歳にある選択を迫られる。このまま人として生きるか、クジラとして自由に生きるか。

 そして2年前、私の兄はクジラを選択し姿を消したのだ。


「美夜、今日例の日でしょ? どっちに決めたの?」


 朝の忙しい時間帯に幼馴染みのマヒルが隣のクラスまでやってきた。


「そんなくだらないことで来なくても、先生すぐに来るよ」


「くだらなくなんて無い! 一生のことだし、この後お呼びがかかるんだよね? 選択次第では美夜と一生会えないんだよ、そんなの嫌じゃん」


「あたしが『クジラ』を選べばね」


 マヒルの顔が緩んだ。やっぱり心配してたんだ。


「良かった……じゃあ人として生きるってことだよね?」


 その問いに笑って答え、同時に校長室への呼び出しがかかった。


「じゃ、行ってくるね。あ、これもういらないからマヒル捨てといて」


 兄からもらったクジラのキーフォルダー、私にはもう必要ない。



『俺クジラになる!そして大空を自由に飛びまわるんだ!』


 兄はよくそう言っていた。

 クジラになった人がどうなったのか全くわからない。残された家族も懐かしむことも悲しむこともない、初めから存在が無かったかのように日常が続いていく。



『美夜、泣かないで。クジラになることは怖いことじゃないって証明するから。クジラになったら必ず会いに来る。だから信じて待っててよ!』


 そう言ってたくせに、空を泳ぐクジラも、幽霊になった姿も、この2年私の前には何も現れなかった。


「────嘘つき」




 そっちが来ないなら私から会いに行く。







 

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