ちっちゃい神さん
真留女
第1話 千春 ちっちゃいおっさんに遭遇す
小谷千春は二階の教室の窓から昼休みにサッカーしている男子たちを眺めている。ボールにくっついて全体が右往左往する、ラグビーみたいな草サッカーだから、
まともなサッカー部員は参加していない。
おっ、卓也がボールを取ってドリブルしてる。
群がってくる連中をうまくよけて蹴った! 空振りだぁ!
千春がクスツと笑うと、両側から弘美と梨香が挟んできた。
「あれれ千春さんは、まあだ関口卓也くん推しなの?」
「べつにそういう訳じゃ…… 」
「やめとけやめとけ、ありゃまだ中坊だよ。いっつも男子ばっかでじゃれてて
色気なさすぎ。それとも千春は年下の男の子育てたいタイプ?」
「だから、関口は年下じゃねぇし、いきって失敗してたから笑っただけだし」
「だったらいいけどさ、卓也って鉄平とつるみすぎじゃん。私はあの二人BLも
ありかなって思ってるんだ」
ドキンと小春の心臓が鳴った。
「へえ~ そんな事本当にあるんか?」
と言った声が、耳がおかしいのか喉がおかしいのか自分の声に聞こえない。
冗談じゃない、桜高入学式の日から私は卓也一択なんだ。そりゃあ、
見た目も普通、成績も普通、スポーツもあれだもの 分かってる
だけどビビビッと来たんだからしかたないでしょ
みんなが どこがいいのとあんまり馬鹿にして笑うから
一応 おりた事にはしてるけど、あんなゴリラみたいな柔道部の小倉鉄平が
恋仇なんて それはな……
「あっ、それはないない」
そうよね、梨香ちゃん神!
「私の知ってる女子高の子に 中学の時鉄平が告って振られたって聞いたもん」
バカだねえ、身の程しらずだねえ。
「その時さ『ちょっとだけでいいからこいつの話を聞いてやって下さい』って
ペコペコしながら言いに行ったのが、卓也」
「両方バカじゃん」
弘美が言った。確かに。
でもそんな友達思いで ちょっと軽いところも好きっちゃ好きなんだよなあ。
桜高生は電車通学が多いけれど、千春は自転車通学だ。
皆と一緒に商店街を抜けて駅まで行き、そこから帰る事も出来るが、川沿いの土手を真っすぐ行く方が家からはずっと近い。
もちろん、暗くなった時なんかは駅まわりルートで帰るけど 今日は土手コース
途中に吹奏楽部やアイドル志望の子たちが その下でトランペット吹いてたり、
爆音かけて踊ってたりする電車の陸橋があるのだが…
よし、今日は誰もいない。 ストレス発散できるぞぉ~
千春は自転車を止め、大きくて重い背中のカバンに押されるようにどんどんスピードをあげ、転びそうになりながら土手を川辺まで駆け降りて 陸橋の下に飛び込む。
電車の近づく音がする。カバンを放り投げて構える。頭上を通る轟音。
「あんぽんた~ん! にぶすぎだろ~ 卓也のばかぁ~」まだまだ電車の音はしてる。まだまだ叫びたいネタはある。だが…
「ん?」 誰かが一緒にあんぽんたんと言ったような…
あたりを見回すが人はいない。というか、土手を歩いている人がボカシがかかったようにはっきり見えない。目をこらす、瞬きをする。違う、あっちにボカシが入ってんじゃなく千春がボカシに囲まれてる。なんだこれ? ゾーンに入ったんかあたし。
「あほっ… 」
えっ? 下を見ると、噂には聞いた事のある〝ちっちゃいおっさん〟がザックの傍で踊ってる。いや、怒ってる。
捕まえてやろうとしゃがみながら手を伸ばす、しっかり掴んだと思ったが手の中はからだった。
「アホか、無礼もん」
いつの間にかおっさんは、千春のバックに腰かけてた。立って20センチ、座って15センチくらい……
「足短っ!」思わず口に出したらまた「無礼もん!」と叫びながらポッと赤くなった。なんか、かわいい。
「あんただれ?」 と聞いたら今度は怒りで真っ赤になった。
「わしは神さんじゃ」
「カビさん?」
「か・み・さ・ん! どこまで無礼な小娘なんや」
「だって、おっさん訛ってるし、発音悪いし、あっ蓄膿でしょ 」
と言いながら観察する。髪はボサボサ髭ぼ~ぼ~、そういやキリストってこんな
ヘアスタイルだったような気もするけど、でもあの人はパンツいっちょだったよな、おっさんは一応白い服着てる、けどきったないし不細工だしカッコ悪いし
「それはお前の心がきったなくて不細工でカッコ悪いからじゃ」
ゲッ、心読んでる?
「神さんに姿形などあってないのじゃ」
「あるの? ないの? どっちよ」
「だ~か~ら~ 最後まで聞かんかい。人が山が神だと思えば神は山の形、岩が神だと思えば岩の形になる。わしがお前にきったなくて不細工で、ちょっとカッコ悪く見えてるのなら、それはお前の心がそうだからじゃっつうとんねん!」
「〝ちょっと〟じゃなく〝ちゃんと〟カッコ悪いけどね。じゃあじゃあ、私が卓くんを想像したらおっさんがちっちゃい卓也になるってこと」
「アホか! わしの姿はお前の妄想ではなく心映えの鏡だと言っとるんや。あったま悪いなあ」
「私が頭良かろうが悪かろうが、あんたに迷惑かけてないでしょうが!」
と言いながら バッグの下から何か突き出ている物があるのに気が付いた。
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