006 “推薦選抜”≠デスゲーム

――[データログ参照]ゲームクリア2年5ヶ月前――


 ダンジョン居住区20階層『水仙蓮華の欧街殿』。

 つい先日解放された安全居住階層セーフティ・セーブフロアにて、セージは新たな仲間と観光を楽しんでいた。


「おい、花飴だってよ花飴。リンゴ飴みたく花を丸ごと飴にしてるらしいぞ」


「ちょ、足早っ、盗賊シーフビルドなんだからもっと配慮したらどうスか〜。ほら、セージも文句言って――」


「うーん、回復アイテムとしては使いにくくないか? やっぱり回復はポーション、飢餓きがは焼肉が一番良い。ちなみに回復量は?」


「――うっわ、コッチも効率厨のゲーム脳だっスわ!」


「ハッ、セージ、! お前らも早く来い! 意外と食えるぞ、この花!」


 身軽な装備を身につけ速度と手数で押し切る高速盗賊ビルドの青年――カーリ。

 後方からバフやデバフの乗った矢を飛ばす支援弓士ビルドの少女――ラビ。

 ――そして、高火力の刀による一撃一殺をモットーとする浪漫ロマン侍ビルドのセージ。


 ダンジョン最前線ゆえにあまりプレイヤーの多くない街を、三人は楽しんでいた。


「甘っ、久しぶりに甘いモン食べたっスね」


「花弁一枚一枚に味があ――これ、継続回復リジェネなのか!」


「おい、食べている時くらい頭の中をからにしろゲームジャンキー。不味くなるだろ」


「そうだよセージクン。そんな四六時中頭を使って気を張ってたら、いざって時に使い物にならなくなるかもネ」


「そうっスよ。だいたいセージはいつも一人ソロで勝手に潜って――――って、なんでいるンスかクラマス」


 ベンチに横並びになり飴を食べていた三人の会話の輪に、自然と入り込んだその男――アルデバランクランマスター

 彼は同じ飴を買って食べながら、当然のように答える。


「エ、サボリだけど?」


「……はい?」


「おい、バカマス。今すぐ新しい拠点に帰れ」


「流石の俺もヤバいと思うぞ……黙って欲しかったからこの飴もっと買ってくれ」


 上からラビ、カーリ、セージの言葉である。

 常識人二人は「お前は飴が食べたいんじゃなくて継続回復手段が欲しいだけだろ」「セージ、お黙りっスシャラップ」と攻略狂いセージの意見を封殺した。


「でもさぁ、なんか僕だけやる事多いんだよねー。別に苦じゃないけどさ、飽きるよね、ウン」


「それは私たち一般メンバーと違って、クラマスがクランマスターだからっスよね」


「だからラビに人の心が足りてないとか言われんだ不審騎士」


「えぇ、二人ともひどいなぁ。僕、涙が出てきたよ……ところでセージクン、さっきから黙って手を動かしてどうしたんだい?」


 アルデバランの「それ、僕の見間違いじゃなければプレイヤーのシステムコンソールだと思うんだけど」という声を聞き、セージは手を止める。


「え、何ってそりゃ――――」


「――どこだアルッ!」


「アイツ、拠点の所有者だからって好き勝手にスキル使いやがったな!」


「ご丁寧に私達の拠点内移動権を時限式でロックした上でね!」


「あ? 今、セージから…………いたぞ!」


「――――残念ながら俺たちは善良なプレイヤーなんでね。そりゃ居場所の報告フレンドコールするよ」


 走って駆け寄ってくる怒れるクランメンバーの姿を見たアルデバランは、「真っ先に買収されようとした君が言うことじゃないよねぇ!?」と叫び、全力で逃走を開始した。


「ハッハッハッ、これでも僕はクランマスターッ! 王者はね、最強なんだよッ! ……ところで、カーリクン、ラビクン。その手にしてる盗賊のロープは何かな。見間違いじゃなければ僕の体に巻き付いているようだけど?」


「捕まっとけ駄マスター」


「休憩はコレで終わりっスね!」


「――よくやった三人!」


「ぶっちゃけ少し遊びに行くくらいなら許したのに……」


「流石にデスゲーム内で密室に閉じ込めるのはアウトだね。処す? 処すか」


「てか、鎧まとったままでよく逃げれましたね」


「……実は昨日、この階層入ってすぐにカメレオンみたいなモンスターを見つけて――――」


「ギルティ……ちなみにドロップの効果は?」


「斬首と火炙り、どっちが良いですか? あと、効果とドロップと出現位置教えろください」


「なんだソレ、俺も知りたい」


「セージ、まて」


「え、私もビルド的に知りたいンスけど」


「……ゲーム脳しかいないのかよデスゲーマー共め!」


 本日、〈比翼の連星〉最前線拠点にてクランマスターの情報隠匿裁判開始中!

 傍聴ぼうちょう自由、新情報もあるポロリかもよ!

 



――[No.27『非日常の日常の一幕』]――

――[データログアウト]――




 

*――*――*――


 ミレイの推薦により、天津高天原高校への入学の意思を固めた一ヶ月後。

 俺は都内某所にて、同い年の中学生達と共に集められていた。


 思い返すのはミレイとの会話。


『此処なら私のつてで推薦できるよ』

『あと、推薦でも入試は受けてもらうからね』


 そう、あの時の俺は「進学先決まったぜやったー」としか考えていなかったが、推薦されただけで国内でも最高峰の学校に入れるのだろうか?


 ――答えは否。


「では、定刻になったのでこれより、『天津高天原高等学校』の推薦選抜入試を開始する」


「推薦……そりゃまぁ入試あるよなぁ……」


 椅子の並べられた広い会場、そこに座る学生達は、俺も含めて全員が前方に立った黒スーツの老人に注目していた。


「ここにいる者はみな、本校が認めた推薦権を持つ人間により推薦された特別な価値を持つ学生だ。故に、学力や成績といった前時代的尺度で測れるような、ありきたりな価値でふるいに掛ける気は一切ない」


 ……ふむ?

 それはつまり、学力や成績はいらないという事ではないだろうか。

 推薦といえば学力テストに面接、成績やら小論文やら色々と思い付くが、流石国内最高峰、それら全てを切り捨てるとは。


「この学園は『異能』を最重視している。推薦合格者に求めるのは世代トップクラスの力……どれだけ学力が高かろうが、成績が良かろうが、実力が無ければ価値も無い」


『天津高天原高等学校』の概要を説明しながら、彼は俺たちに求めるモノを語っていく。

 

「ところで、諸君は異能科学についてどれだけ理解しているかな? 異能は“迷宮ダンジョン”や“怪物種モンスター”を討ち倒す救世の力という世間の声もあるが、“迷宮”や“怪物種”から手に入れた未知の素材を分析、活用し武具や新技術、発明をする人類の叡智えいちの力でもある」


 ――よく知っている。

 “迷宮”攻略に重きをおく武闘派異能者もいれば、伊水キョウヤのように科学者としての道を目指す異能者もいるのだ。

 異能というモノは良い意味でも悪い意味でもなんでもアリ。

 結局は『その力で何を目指すのか』が大切なのだ……と、ミレイが俺に教えてくれた。


「異能者の中には武力ではなく知力を求める者も少なくない。特に異能革命の最中に提唱された『世界七大異能発明課題』――通称“七大課題”の達成などが例として挙げられる。百年経って達成されたのは未だに三つのみであるが、突如現れた“異能ファンタジー”で科学を上塗りするのではなく、科学に異能という一分野を体系として組み込めた象徴であろう」


 ――そうして、時代が変わっても長い校長の話と同じくらい語った老人は、本題に入る。

 

「――さて、前置きが長くなってすまない。今回の推薦選抜は自らが作り出したモノに限り持ち込み自由、どのような進路を目指す者でも勝ち抜く事が可能となっている。この要項がある時点で察しているかもしれないが、諸君らは今から我々が用意した人造迷宮“異聞迷宮クノッソス”に入って、戦ってもらう」


 ――タタカイ……戦い、闘い?

 “異聞迷宮クノッソス”は知っている。確か、ミレイの研究所にあるコボルトばかりの迷宮ダンジョンがソレだ。

 大変便利な代物だが、造るのが難しく、によって質が変わるし、中のモンスターを倒しても何も得られないモノ……らしい。


「驚いた者もいるかもしれない。七大課題“異聞迷宮クノッソス”……つまりは人工の迷宮、迷宮最下層に生成されるコアを用いて造られる異界だ。その最大の特徴は『迷宮内の法則ルール』改変。限度はあるが単一のモンスターのみを産み出す事も、広大な土地として活用する事も可能となる。今回は『迷宮内で死亡した場合の強制脱出』が適用される。

 ――端的に言えば、死んでも地上でよみがえる」


 会場がざわめいた。

 俺も驚いている。

 今、彼はなんと言ったか、『死んでも蘇る』……だと?


「この不死の“異聞迷宮クノッソス”は我が異能研究島の最上位発明品であり、異能が決して武力だけではないと世界に証明する代表品。あくまでも迷宮侵入時の状態に戻るだけだが、その効果は保証しよう」

 


 ――その後、学生達の驚愕を置いて入試の説明は進んだ。



《――天津高天原高等学校【推薦選抜セレクション】簡易概要説明一部抜粋――》


1 本試験は受験生の能力を測るものであり、受験生は試験中あらゆる異能、所有物の行使が許可される


2 試験会場ダンジョンは5×5=25のエリアに区分けされており、受験生は迷宮侵入後そのどこかのエリアにスポーンする


3 試験開始時、各エリア間の侵入離脱共に制限は無いが、とある条件を達成すると該当エリアは完全封鎖され、そのエリアでの侵入離脱が不可能となる


4 エリア封鎖条件は該当エリアの残存者数が1名になる事であり、その仕様上、隣り合うエリアが封鎖された場合、エリア間移動は不可能となる


5 全25エリアがエリア封鎖条件達成――つまり、各エリアの残存者が1人になった時点で試験を終了とし、最後に残った25名を推薦試験の合格者とする



 


「――要は、最後の一人になるまで負けなければ良いんだな?」


 現在、試験会場に移動中。

 俺は先ほど聞いた説明を振り返っていた。

『バトルロワイヤル』に近い……というのが俺の感想である。


「ミレイが勧めたんだから、学力テストなんかじゃないとは思ってたけども、中学生に異能やら持ち込み物やら、なんでも使って相手ライバルをぶっ飛ばさせるって――さすがにバイオレンスすぎだろ」


 ――会場に着いた。


「では、これより推薦選抜を開始する! 諸君らの健闘を祈っている!」


 ――視界が白く染まる。


「なぁ、死んだら不合格オワリ――それって、デスゲームと同じだよな?」


 実は身構えていたのだ。

 世界最先端のマンモス進学校、その推薦入試。

 そんな場違いな場所で俺に何が出来るのか。


 ――視界に色が戻る。

 俺のスポーン位置は緑一色の森林エリア。

 ミレイの所とは規模からして違う空間――コレがあと24もある。


「ハハッ……目指すはノーデス、完封勝利」


 笑みが溢れる。

 

 ――伊水キョウヤアルデバランから渡された異能。

 ――最愛イブから預けられた願い。


 分かっている。この力を使うことがアイツの思惑通りだという事も。

 理解している。この試験を乗り越えれば彼女の復活に一歩前進できるという事も。


 ――それでも今、俺の胸に湧いてくるのは“非日常ファンタジー”への渇望あこがれのみ。


「(乗ってやる、アル。悪いな、イブ。これは、寄り道――俺が俺であるために必要な“遠回り”ッ!)」


 ――何より、その方が楽しいに違いない。


「さて、敵は俺と同じ受験生。鬼が出るか蛇が出るか――」


 ――ま、どっちも倒した事があるんだけども。


 小さく、小さく、されど力強く“その言葉”を世界に告げる。


「『異能LINK解放START』」


 刹那、世界が色付いてゆく。

 ――森独特の清々しい香り。

 ――澄んでいて美味しい空気。

 ――久方ぶりの自分が生きているという実感。


 異能者歴、約半年。

 いつもはセーブして使っているソレ。

『EDEN・LINK・ONLIN』攻略から半年以上経ってようやく、俺はセージの“異能”を全解放した――



 

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