005 “天津高天原高校”のすゝめ

――[データログ参照]ゲームクリア2年5ヶ月前――


 ダンジョン最前線19階層『皇者必衰の猿延原野』。

 階層奥地の闘争平野――ボス部屋で取り巻き達を引き連れ、灰色の巨大な猩々オランウータン、“逃皇猩々フロアボス”が暴れ回っていた。

 部屋にいるのは無数のモンスターと、ソレらに立ち向かう二十人弱のプレイヤー達。

 過半数のプレイヤーが取り巻きの雑魚猿達を相手する間に、残りの主戦力がボス討伐を目指す作戦。


 ――巨大な全身鎧を身につけた騎士ナイトが、両刃の大剣でボスの肉体を両断せんと斬りかかる。


 ――身軽さを重視した革装備の盗賊シーフが、被弾を恐れずに毒のナイフを突き刺す。


 ――攻撃全振りの大剣騎士とは対照的に、防御を意識した重戦士ウォーリアが、人一人分ならその身をすっぽりと覆い隠せる程の大盾でボスの攻撃を防ぎきる。


 大剣が、ナイフが、弓矢が、棍棒が、大盾が、多種多様な武器が“逃皇猩々フロアボス”の命を取らんと襲いかかる。


 ボスはプレイヤー達の蓮撃乱打を受け止めながら、絶えず考えていた。

 

 ――取り巻きは役立たず。

 ――左腕は断ち切られ。

 ――勝ち筋は見えない。


 結論。


「ヴゥォォオオオオアアアア――ッ!」


 取り囲んでいたプレイヤー達を、取り巻きモンスター達を、全てを振り払っての


 それが数多の強者から逃げ続け、漁夫の利的に同族達のボスの座を手にした“逃皇猩々”の持つ生存戦略フレーバーテキスト


「はぁあ?」


「うキャッ!?」


「フロアボスが逃げんのってありなンスか!?」


「ちょ、クラマス〜ッ!」


 ボスの予想外の行動に、プレイヤーも取り巻きモンスターも驚き困惑をあらにする。

 取り巻きモンスターは自身のボスの情けなさすぎる逃走に。

 プレイヤー達は初めての見たフロアボスの行動パターンに。


 討伐されかけていたボスだが、それでも“逃皇猩々”はフロアボス。

 一度逃げに徹されれば、種族的な肉体性能ステータス差によりプレイヤーは追いつけない。


 ここで逃げられればボス戦の為に集めた物資の全てが無駄となり、“初回撃破報酬”も逃す事になる現状を理解した彼等はまず、指示をあおいだ。


 場の視線を一身に集めるのは彼等のトップ――〈比翼の連星最前線攻略クラン〉設立者である大剣騎士アルデバラン


 彼は状況を全て把握し、あらかじめ知っていたかのように声を上げた。


「大丈夫。全て想定内サ。何も問題はない――そうだろう?」


 ボス部屋エリアであるしようとしていた“逃皇猩々”の視界が、急にガクンと低くなった。


「――セージクン」


「――――――ああ、無問題だ」


 銀閃が舞い踊る。


 ボスが違和感に振り返ってみれば、右足あしがない事に気づいた。

 ――遅れてやってきた痛みに、悲鳴をあげようとしたらのどを斬られた。

 ――――頭が真っ白になり、咄嗟とっさそらを見上げたら、眼前に映し出されるのは地面そこに伏せる“逃皇猩々じぶん”の首無し死体からだが――――――――


《【フロアー19『皇者必衰の猿延原野』】が【CN:比翼の連星】により解放されました》


《戦闘参加者に【フロアボス初回撃破報酬】を付与しました》


 カチリと、黒い着流しをまとったサムライプレイヤー――セージが太刀を収める。


「フロアボス討伐完了。切り捨て御免……ってな」


 倒したボスの上でカッコつけた彼に、仲間クランメンバーが駆け寄る。


「よっしゃ、ようやったセージ!」


「良いとこだけ持ってかれたっスね……」


「なんだ切り捨て御免って、カッコつけやがって厨二病がハハハ!」


 仲間に揶揄からかわれ、気恥ずかしそうにしているセージのもとにクランマスター、アルデバランがやってきて肩を叩く。


「ウンウン、ナイス一閃。やっぱり僕の見る目スカウトに間違いはなかったネ! ほら見ろ、僕は性格悪いけど才を見抜く目は良いのサ!」

 

 フロアボス討伐を祝い、彼等は笑い合う。

 ――ボスが倒れて尚消える事のない、取り巻きの雑魚モンスターの相手をし続けている、残りのプレイヤークランメンバー達の怒りカミナリが落ちるまで五……四……三……二……一…………

 

 


――[No.25『遙かなる亡者達の談笑』]――

――[データログアウト]――


 




*――*――*


天津アマツ高天原タカマガハラ高等学校』


 それは約百年前、“異能”に“怪物種モンスター”、“迷宮ダンジョン”が広く認知されるようになった異能革命の年。

 その際、日本領海内で発見された“迷宮ダンジョン”を囲うように造られた海上人工都市――通称“異能研究島”にある、毎年千人近い生徒が入学するマンモス学校。


 多くのダンジョンが発見されては攻略されていく中、未だ全容不明で百年間未攻略を貫いている国内最難関迷宮。

 そこを囲うように造られた人工島の研究区画は、異能科学の最先端を突っ走っており、学園区画では生徒達が日夜切磋琢磨せっさたくましている。


「――そんな立地だから島にある全施設の設備はこの国……どころか世界最高峰といっても過言ではない。生徒も皆んな成績が良い、頭が良いってだけでなく、各々がオンリーワンを持ってるんだよね」


「んじゃ、俺ムリじゃねーか」


 ミレイの説明を聞いた俺の第一声がコレだ。


「分かるか? 俺は頭も成績と足りないから悩んでいるんだ。そこに『頭と成績が良いだけじゃなくてオンリーワン』が必要……振り出しに戻ったなマヌケ」


 ――別に、オンリーワンがあったら大丈夫なんじゃなくて『頭と成績は大前提だけど、そこにプラスアルファよろ』ってことだろ?

 どうやら、さしもの天才科学者サマも疲れているらしい。

 でなきゃ、『頭と成績が足りないからオンリーワンで勝負したいけど、オンリーワンで勝負できる学校は頭と成績が大前提』……服が無いから服を買いに行きたいけど、買いに行くための服がないみたいな発言をするわけがない。


「うん、今の流れからここであわれみの視線を向けてくるあたり、君がオンリーワンな人間であることは疑うまでもないね!」


 喧嘩売ってるのだろうか。


「でもさぁ、私は君よりもずぅっと頭が良いんだ――全部無問題、安心してよ。大丈夫、君は合格できる」


 彼女は唇の両端を上げながら、手を差し出してくる。

 部屋の明かりが彼女の美貌を照らし、心の中で『やっぱ、言動を無視したら綺麗なんだよなぁ』と俺は呟いた。

 ――そして数瞬の後、正気に戻る。


「……いや、口約束じゃなくて策を教えてくれよ。口当たりのいいことばっかで詐欺師か? 壺でも買わされるの?」


「君、雰囲気に流されがちなとこあるから気をつけた方が良いよ。美人局つつもたせとかさ」


「余計なお世話だ残念美人」


「おやおや、『美人』って認めてくれるの〜?」


「? 嘘を吐いても仕方ないだろ」


 認めるのはしゃくだがコイツの顔は良い。

 ニヤニヤと尋ねてきたミレイは俺の言葉に顔を固まらせ、後ろを向いて天井を仰ぎ見た。


「……うーん、調子が狂うなぁ全くもう」


 そう小声で呟いた後、彼女はわざとらしくコホンとして、脱線していた話を戻す。


「……さて、なんだっけ? あぁ――結婚式の話だったよね」


「何もあってねーよ。進路の話はどうしたスカポンタン」


「進路……? 私の夫でしょ、あ、な、た……?」


「ヤバい、本気で壊れたぞこの婚期ピンチアラサー


「今結婚してくれるなら三食おやつ昼寝新作ゲーム付きだよ」


「……ヤバいな、とても魅力的だ」


 さすが天才科学者……俺のツボを良く分かっている。


「…………まあ、冗談はコレくらいにして、本気で話を戻そうか」


「ホントに冗談か?」


「……ぅう……迫る三十……周りからの結婚報告……」


「コレが研究に没頭した乙女の末路か……末恐ろしいな。――それで、進路の話なんだが」


「あぁね、進路進路……なんだっけ、そう、高天原はね、頭と成績とかよりも重視している評価項目があるんだ」


 若き天才科学者の闇を見た気もするが、話は戻る。


「安心してね、君はこの学校に入る為の絶対条件を既に達成しているから」


『入学絶対条件』

 生憎、そんな特別なモノを手にしている記憶はな――最難関“迷宮”、“異能”研究島……まさか――――


「その顔は気付いたかな? 入学絶対条件、異能を保持している事!」


 彼女は俺に渡したパンフレットとは別のモノを取り出し、パラパラとページをめくって見せてくる。


「ここの本質は異能育成学園。異能を研究し、ダンジョンで振るい、成長し、価値ある人間を育てる――ソレがこの学校の基本理念だ」


 異能。

 デスゲームが始まる前、俺は異能という“非日常ファンタジー”の代名詞を持っていなかった。

 デスゲーム後の検査で発覚したオレだけの異能。

 

 複雑ではある。この異能は“あの日々3年間”を嫌でも思い出させる能力で、まるで伊水キョウヤアイツの手のひらの上のようだから。


「それとも、異能は嫌いかい『悪夢のヒーロー』?」


「“二つ名ソレ”で呼ぶな。別に嫌ってたらお前に頼んでまでダンジョンでモンスターと戦ってないだろ」


 デスゲームを想起させる事と、異能を使わない事は別の問題だ。


「せっかく手に入れた“非日常ファンタジー”、自分の意思で封じられるほど大人じゃないんだよ俺は」


「それは上々じょうじょう。それにさ、私がここをオススメするのは、なにも推薦出来るからってだけじゃない――ここは、“異能研究”の国内トップなんだよ。なら、彼女の復活に関する手がかりが見つかるかもしれない」


「イブの……?」


「そ。だから、私は君を天津高天原高校に推薦しようと思ってる。選ぶのは君次第さ、中卒無職か高校進学か、ね」


 なるほど、イブという存在に異能が関わっているのなら、異能研究島への訪問は意義があるのかもしれない。

 

 そして、進学先。オレの成績だと、入れる高校がない。

 悩んでた所にミレイからの蜘蛛の糸だ。

 進路も決まるし、イブの回復にもなるかもしれない。

 ――なら、掴まない訳がない。

 というか、無職or進学で無職を選ぶヤツがいるわけないだろ。


「ミレイ、俺をその高校に推薦してくれ」


「よしきた! じゃこの紙に色々名前とか書いといてね。保護者関係は私が書いとくから」


どこから取り出したのか、紙の束をどんどんオレに手渡してくる。


「これもね。これとそれも。あ、あれもいるんだった」


 いや本当にどれだけ渡してくるんだ、この女。


「あと、推薦でも入試は受けてもらうからね〜」


 こうして、オレの特殊育成高等学校への進学が決まったのだった――





*――*――*


 キーボードの音が、カチカチと部屋に響いている。

 セイジが帰った部屋で、ミレイは一人、モニターと向かい合っていた。


「いやぁ、世間を騒がせたフルダイブVRゲームの攻略者『悪夢のヒーロー』が高天原行きか〜。色々準備しなきゃだね。楽しみだわ〜」


『悪夢のヒーロー』とは、デスゲームをクリアした存在につけられたあだ名――つまり、茜谷セイジの二つ名。

 どこから漏れたのか、彼のプレイヤーネームPNと彼がソロで攻略した事がSNS上で出回り、『悪夢の三日』と合わせて『悪夢のヒーロー』なんて名前ができていた。


 ミレイは「中二病はもう卒業したんだ。リアルで一年前、体感だと四年前に、な」と言いながら、頬を赤く染めて恥ずかしがっていた彼を思い出す。

 自分視点では『本当に卒業してるのかな?』という感じだが、そこはあまり指摘しないのが大人の余裕というヤツだろう。


 ――そして、ふと、机の上の空のコップ、その側に置かれたパンフレットを見た。


 自分の手元にある物とは別の、セイジに渡したはずのパンフレットには『異能研究島、特殊育成高等学校のすゝめ』と書かれている。


「あちゃー。セージ君、持って帰るの忘れちゃったのかな〜?」


 なんとなくパンフレットを手に取り、パラパラとめくる。


 めくっていると、最後のページに書かれた言葉が目に止まった。


「まあ、セイジ君なら大丈夫でしょ。キョウヤのバカの忘形見がどこまでいけるか、見届けてやりますか」


 パンフレットを閉じ、再びモニターと向かい合う。


 ――その最後のページにはこう書かれていた。


『異能育成に重きを置いた世界最高峰の環境を提供

 

 “異聞迷宮クノッソス”を用いた安全な学習設備に、実際の“迷宮ダンジョン”での実戦訓練

 

 卒業後は各業界で即戦力としての活躍が見込まれます

 

 価値を示し、夢を目指せ

 来れ、特殊育成高等学校』


 学校の簡単な説明、その下に小さく記載されている一文


『尚、卒業到達率は毎年平均三割程度

 多種多様な学友との厳しい競争の果てで、己の価値を見出しましょう』

 

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