お前もダンジョンマイスターにならないか?

国見 紀行

序章 この手記を読む者たちへ

 あなたは迷宮―― すなわちダンジョンをご存知だろうか。


 時には洞窟、時には塔。


 それぞれには主が存在し、主の強さによってダンジョンの複雑さや住み着くモンスターの質が決まる。

 その最たるものが『魔王城』であろう。

 そんなダンジョン、実は生きているという話は聞いたことはないだろうか。


 子供の頃によく潜ったダンジョンに再チャレンジしたら道が増えて複雑になったとか、あるいはモンスターが弱くなったり、ひどい時には全く湧かなくなったなど。


 それらはダンジョンの主がどうなっているか、が密接に関わっている。

 彼らが成長すればダンジョンも成長し、彼らが倒れればまたダンジョンも弱まってしまう。


 そして時折、ダンジョンは子供を作るのだ。


 ダンジョンにも性別があるのは周知の事実ではあるが、繁殖の行程を説明できるものは少ない。


 昔から提唱されているのは「洞窟合併説」である。

 これは、近い地域に縄張りを持つ二つの洞窟型ダンジョンが成長して合併した際、大きな洞窟一つといくつかの小さな洞窟に分かれることである。

 実際世界中にいくつかの実例が報告されており、また現在も進行中の繁殖行為を行っているダンジョンも存在する。


 現在も専門の研究機関において観察中である。


 だが、稀に異種交配が行われることがある。かつてこの例が目撃され、各機関が一斉に調査に向かったダンジョンは『城』である。

 魔王城でもあれば、ただの城であった場合もある。いずれも塔と洞窟が繁殖行為を行って生まれたダンジョンであることから、我々は双方がみだりに交配することがないように注視すべきと提言している。


 人の手では、ダンジョンが生まれることを抑制することなどできないのだから。


 それでもなおダンジョンは人知れず交配し、着々とその活動範囲を増やしている。

 もしも彼らが子孫を増やす事に介入することができるならば、我々は共存できるかもしれない。そんな思いを込めてこの手記を書き綴った次第である。


 この手記が誰かの手に渡り、奇特にも読み進めようと思う者がいるならば、またそんな彼らが私と同じ思いを持っているのならば、書き記した内容が活動の一助になれば幸いである。




 ――錬窟れんくつ家、アンカー・グラモンド

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