華族制度の残る日本に転生した。転生先が転生者の曾孫に転生したAI技術者
かねぴー
第1章 転生者が紡ぐ異世界
第1話 転生と転生者達による歴史改変
人生の終わりは突然だった。通勤途中の朝、見慣れた駅のホームで、一人の女子中学生がラッシュに押し出されふらつきながら線路に落ちるのを目撃した。その瞬間、俺の体は反射的に動いていた。線路に飛び降り、彼女をホームへと押し上げたその刹那、轟音と共に視界が光で満たされ――すべてが消えた。
「これでいい……彼女が助かったなら……」
最後にそう呟いた記憶を残して、俺の意識は途絶えた。
目を覚ますと、そこはどこまでも続く白い空間だった。天井も床も見えず、ただ無限に広がる白に包まれている。目覚めた直後の混乱の中で、ただ一つだけ確信があった――俺は死んだのだ、と。
「ここは……」
そんな俺の呟きに応えるように、柔らかな光と共に現れたのは、一人の中性的な存在。「管理者」と名乗るそれは、静かに語り始めた。
「〇〇さん、お疲れさまでした。あなたの行動は見事なものでした。」
管理者は、俺が救った女子中学生について話し始めた。彼女は本来、自力で線路から這い上がり、その後平凡な人生を送るはずだったという。しかし、俺が助けたことで彼女の人生は大きく変わり、壮大な未来へとつながることになったらしい。
「彼女はあなたに救われた経験をきっかけに一念発起し、覚醒します。そして、あなたが生前に構想していたAI技術を三世代分飛躍させるブレイクスルーを起こします。結果として、彼女は人類に計り知れない恩恵をもたらす存在となるでしょう。」
その話に驚きつつも、俺はどこか誇らしい気持ちを覚えた。そして、ふと管理者に問いかけた。
「それで、俺はこれからどうなるんだ?」
管理者は穏やかな笑みを浮かべながら答えた。
「あなたには、彼女を助けた事で多大なる徳を積みました。新たな人生を歩む権利があります。望む場所で、望む形で再び生きることができるのです。」
「俺が望む世界……元の世界には戻れますか?」
「残念ながらそれはできません。」
迷いながらも、俺は一つの答えにたどり着いた。
「できるだけ現代日本に近い世界で、もう一度AI技術者として挑戦したい。」
管理者は一瞬考え込み、静かに頷いた。
「承知しました。あなたを華族制度と財閥が残り、民主化された日本へ転生させます。その世界で、あなたは伯爵家の末子から子爵に叙された曾祖父を持つ家系の跡取りとなります。どうぞ、新たな人生をお楽しみください。」
その瞬間俺は再び闇に包まれた。
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次に目覚めたとき、俺は豪奢な天蓋付きベッドの上にいた。見渡す限り高級家具に囲まれ、壁には威厳ある肖像画が飾られている。その人物の顔は見覚えがないが、頭の中に流れ込んでくる記憶が、その人物が俺の曾祖父――上杉義弘であることを教えてくれた。
俺は上杉家の子爵家の長男として生を受け、上杉義之という名で育てられたらしい。
曾祖父は伯爵家の末子として生まれながら、自らの才覚で財閥を築き、その業績から日本への功績を認められて子爵に叙された。そして俺は、その血を引く跡取りとして、家族と財閥の未来を託される存在だった。学習院初等科1年生からやり直すのだ。
俺の曽祖父も、俺と同じ転生者だった。そして驚いたことに、彼が生きていたのは俺の前世とほぼ同じ時代。彼は、俺がひ孫としてこの世界に生まれてくることを知っており、俺が6歳の誕生日を迎えたときに渡されるよう、一枚のBlu-rayを残していた。
そのBlu-rayには、彼の生前の記憶、転生後に築いた偉業、さらにこの世界と前世の日本との違いが克明に記録されていた。特に華族制度など、俺が学校で習った程度の知識では到底理解しきれない部分が詳しく説明されており、未来を歩む上で非常に助かった。
この世界には中世以降に曽祖父以外にも、転生者と思われる人物たちが存在していた形跡がある。ただし、彼らは現代知識を広く導入するための技術力や地位を得られず、影響は局地的かつ限定的だったようだ。それでも、彼らが歴史に及ぼした変化は、近代以降いくつかの重要な転換点で明確に見られる。その最初の始まりが日露戦争だった。それ以後、転生者の影響と思われる事柄が飛躍的に増えてこの世界を形作っている。
日露戦争では樺太攻略作戦が、戦争計画の初期段階から明確に組み込まれており結果として、樺太全土が占領され、講和交渉における重要なカードとなった。この動きは、地政学や戦略の重要性を理解した転生者が提言した可能性が高い。
又、日露戦争後の講和条約に対する国民の不満は、史実と同様に日比谷焼き討ち事件として噴出したが、その後の展開は大きく異なっている。事件を厳しく非難する新聞記事が掲載され、以下のような事実が報道された:
1.日露戦争は「財政的に限界の中での紙一重の勝利」であった。
2.国家経済的これ以上の戦争継続は無理であった。
3.日本海海戦の勝利は、イギリスの妨害工作で疲弊したバルチック艦隊が相手だったことが大きい。
4.戦時国債を英米で購入してくれたことが戦争継続を可能にした背景である。
この報道により、国民の不満は冷静な理解へと変わり、樺太の獲得が講和条約の成果として評価されるようになった。
日露戦争の講和条約後、反対も大きかったが満州鉄道(満鉄)の経営が日本とアメリカの共同経営となった。この決定は、日米関係の改善に大きく寄与した。アメリカ国内で高まっていた黄禍論が、満鉄共同経営によって徐々に沈静化。
日米の経済的結びつきが強化され、国際社会での日本の地位向上に繋がった。
第一次世界大戦では、日本の行動にも転生者の影響が見られる。特に、欧州戦線における遣欧艦隊の派遣は、史実とは異なる歴史改変の一つだ。
日本は、金剛級戦艦4隻をイギリスの要請に応じて派遣した。
ジュトランド海戦に参加した金剛級は、2隻が沈没、2隻が中破という大損害を被りながらも、イギリス艦隊を支援し戦術的に勝利に持ち込んだ。戦略的にもドイツ艦隊を母港に逼塞させ大勝利だった。
この結果、イギリス国内での対日世論が劇的に好転し、戦後の日本の国際的地位向上に繋がった。
戦後、ドイツ艦隊のZ指令(自沈命令)が阻止され、拿捕された艦隊がベルサイユ条約により賠償金の一部として各国に配分された。
これはドイツの戦時賠償金額を僅かながら下げることになる。
日本は、金剛級戦艦の損失を補填する形で、ドイツの弩級戦艦2隻と巡洋戦艦2隻を取得し、これにより、日本海軍の戦力は補強され、戦後もその影響力を維持することができた。
転生者たちの影響は日露戦争や第一次世界大戦だけにとどまらず、その後の国際社会や地域情勢にも深く影響を与えた。特に、ロシア革命、樺太でのイスラエル建国、満州国の成立、そして日本の資源供給の安定化における転生者の知識が大きな役割を果たしている。
ロシア革命の混乱の中で、ロマノフ王家は辛くもシベリアへの脱出に成功した。アメリカと日本の協力によるシベリア出兵が、この成功を支える重要な要素だった。
シベリア一帯に成立したシベリア-ロシア帝国は、アメリカと日本の支援を受けて安定を保った。
この地域では、アメリカと日本の資本による地下資源の開発が進められ、豊富な資源が経済の基盤となりシベリア-ロシア帝国は、旧ロシア帝国の要としての役割を果たしつつ、極東地域の安定に寄与した。
樺太では、日本への大規模な産業施設への資本投下と引き換えに日本とアメリカの主導でユダヤ人国家イスラエルが建国された。この動きは、ユダヤ人問題の一つの解決策となり、国際社会でも高く評価された。
多くのユダヤ人が樺太に移民し、豊かな文化と経済活動を展開。
樺太の豊富な資源、特にオハ油田がイスラエル経済の基盤となり、同時に日本とアメリカにとっても重要なエネルギー供給地となった。
日本とアメリカの協力体制が強化され、極東における新たな地政学的バランスが生まれた。
清朝の崩壊後、日本とアメリカの協力により満州国が建国された。
アメリカ資本が大規模に流入し、日本資本とともに満州国の経済を支える事になる。満州の必要とする膨大な軽工業品の生産地は付近には日本しかなく膨大な輸出は日本の外貨獲得に貢献した。
満州国には多くの日本人とアメリカ人が移民し、多文化的な社会を形成し、豊富な資源と経済基盤が整備された満州国は、極東地域の安定と発展に大きく寄与した。
第二次世界大戦では、ドイツ国内でのクーデターが戦争の早期終結に繋がった。
独ソ戦は旧ポーランド国境を停戦ラインとして休戦。ポーランドは緩衝国として独立し、
ドイツ国内では政治勢力の大変動が起こり、多党制が復活した。
これにより、戦後のヨーロッパは冷戦のような極端な対立を避け、安定した秩序を維持する形となった。
第二次世界大戦後、日本では戦後改革が進行。
明治憲法が改正され、民主主義が導入された。
一方で、華族制度と財閥は維持され、伝統と近代化のバランスを取る形となり
この変革により、日本は国際社会において一層強い存在感を示すこととなった。
戦後10年を経て、核融合技術が大きく進化した。
大国が保有する融合弾はそれぞれ10発前後に留まり、実戦投入はされていない。
その一方で、核融合炉の技術は飛躍的に進歩し、エネルギー革命をもたらしている。
転生者たちの影響により、日本は重要な資源供給地を複数確保した。これにより、過度な中東依存を避け、安定した経済基盤を築いている。
満州の大慶油田(これは曽祖父が関わった)、樺太のオハ油田、そしてシベリアの地下資源から安定した供給を受けている。
日本は、これらの資源を活用し、国内産業とエネルギー供給を強化。
資源の多角化が進み、エネルギー政策の柔軟性が確保された。
ロシア革命後のシベリア、樺太のイスラエル、満州国の成立、そして資源供給の安定化――これらはすべて転生者たちの知識と行動による影響が色濃く反映された結果だ。それらの足跡が築いた基盤の上に、現在の日本と国際社会が成り立っている。
「この基盤をどう活かし、どんな未来を築くか。それが、俺たち次世代に課された使命だ。」
曽祖父や他の転生者たちの努力に敬意を払いながら、俺はこの世界で新たな挑戦を始める覚悟を決めた。転生者の築いた歴史の延長線上に、俺自身の物語を加えるために。
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