あんげる ~大切なものに会いたい、もう一度~

@a59kik

第1話

 「おい!来たで!」

 学校からの帰り道、ランドセルを背負ったまま、森之介は顔をしかめた。

 マジかよ、…ったく。

 ばらばらばらっと、同じクラスの男の子たち4人ほど現れて彼を囲んだ。

 今時、流行んないよ、こんなイジメ。

 とは、思ってみても、いじめようとしている相手には理解できないらしい。

 「お前、トーキョーに住んどったんじゃろ?」

ミヨシに越してきて2日目に、早速いじめられるとは。父さんを恨みたくなってみる。

 「トーキョー弁、喋ってみぃや」

 まるで、子供のようだな。

 自分も、まだまだ子供なのだが、小学校も3年生となれば、当人たちはいっぱしの大人気分なのだ。

「なんとか、言えぇや!」

 そのまま、無視して通り過ぎようとすると、赤い野球帽をかぶった一人が、森之介の腕を掴んだ。

 「聞こえとるんじゃろうが!」

 「放せよ」

 ぼそりと抵抗してみる。喧嘩したくはない。父さんと約束した。

「るせー!」

 だが、そのまま突き飛ばされアスファルトの上にしりもちをつく。

 …。

 黙って、起き上がろうとすると、また突き飛ばされる。

 …っく。

 それまで合わせないようにしていた目を上げる。赤い野球帽と目が合う。

 「…な、なんだよ!」

 森之介の鋭い眼光に赤の野球帽は一瞬ひるむ。そのすきに森之介は立ち上がった。

 「…ン野郎!」

 それが気にいらないらしく、赤の野球帽は森之介に掴み掛かった。

 「やれやれっ!」

 あっという間に、他の3人も飛びかかってくる。2発あごを殴られ、3発どこかを殴りかえしたところで、女の人の声が降ってきた。

 「あんたら、なにしよるん!やめんさいっ!」

 その声と同時に、身体の上にのっかっていた体重が軽くなる。

「やべぇ!逃げろ!」

 森之介を殴っていたひとりの声がさらにして、いきなり彼を殴っていた腕がなくなる。

 その代わりに「大丈夫?」と女の人の声がした。

 それまで、閉じていたと意識していなかった目を開けると、紺色の制服を着た女の人が森之介を覗き込んでいた。

 「…あ。婦警さんだ」

 間の抜けた受け答えをしたもんだと、あとで苦々しく思い出すのだが、そのとき森之介はそう言っていた。

紺色の警察官の制服を着た婦警は、クスッと笑い、森之介少年を立たせた。

 「大丈夫みたいじゃね?」

 「…。」

 「いじめられとるん?」

 その問いに森之介はニッと笑って答えた。

 「転校生の宿命です」

 そして、婦警の腕から抜け出して、ダッと駆け出した。

 別に悪いことをしたわけではないけれど、じいちゃんに連絡されでもしたら面倒だもん。ばあちゃんも心配するし。

 9歳なりに、気をつかっている。

 その勢いのまま、じいちゃん家まで駆ける。

 「ただいま!」

 玄関先で、芝犬のドンが「わんわんわん!」と出迎える。

「おかえり」

 ばあちゃんの声が庭からする。姿をみられないように、森之介は2階に駆け上がった。

 勉強机の上で、旧式のパソコンの隣におかれた写真の父さんが笑っていた。

 「父さん…」

森之介は、ランドセルからディスクを出すと、涙ぐむ。

「森ちゃん」階下でばあちゃんが呼ぶ声がする。「おやつがあるよ」

 ぐしゅっと鼻をすすると、森之介は元気よく答えた。「は~い!すぐ降りま~す!」

泣いたりするもんか!

部屋の窓から夕日を浴びて真っ赤になった馬洗川が見えた。

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