踏み台悪役貴族に転生したので、最強になって壁になってやる!〜しっかり乗り越えて貰うぞ!……おや?原作主人公の様子が……?〜
カンさん
序章 原作前
第1話 「な、何で踏み台のヒュースがあんなに強くなってんだよ!?」
約1000年前に【天地分断戦争】と呼ばれる大きな歴史のうねりがあった世界【アラントテレシア】。
大陸東部に栄える【オスティア王国】の王都【アーロンド】には1000年前の勇者を冠した【クラウディウス魔法騎士育成学園】が存在している。
身分問わず通う事が可能なこの学園では現在、新規入社候補生の入学試験が行われていた。
その試験官であり、この学園の教師であるロバートは今年は豊作だと胸を躍らせていた。
「――まさか、今期の聖剣使い全員がこの学園に揃うとはな」
「はい。2年前に風と地の聖剣使いがこの学園に入学した時も大騒ぎでしたが、今年はそれ以上になりそうですね」
「ああ」
ロバートは同僚と共にとある場所を見る。そこには鮮やかな紅の髪を持つ長身の美少女と、反対に背が低くおどおどしている青色の髪の少女が居た。
彼女たちが聖剣使いであり、他の受験生も彼女たちを注目していた。
「そしてあちらには現代の英雄の双剣使い」
「名前は……明らかに偽名だが、平民だしな」
視線を移すと色素が抜け落ちた様に白い髪をした少女が、二つの剣を腰に差して佇んでいる。
ただものではない雰囲気を醸し出しており、近くにいる受験生たちは緊張していて見ているこちらが気の毒になるほどだ。
「そしてアレが勇者の末裔か」
「見た目はパッとしないが、今の所全ての試験を最高点でクリアしている。血は争えないか」
黒髪の普通の少年を見るロバートたちの目に平民だからと侮りは無かった。
聖剣使いや現代の英雄と呼ばれる少女たちと同じくらいに、彼もまた注目されている。先ほど行われた魔法試験では教師であるロバートたちが唸る程に洗練された魔法を使用していた。このまま行けば彼が首席で合格するだろう、と思えるほどの。
他にも中央騎士団や有名な冒険者を親に持った、才ある貴族や平民など粒揃いだ。
――だが、ロバートたちが今年は豊作だと思った最大の原因は彼らではない。
「――次! ヒュース・カルタルト!」
「……」
呼ばれたのは名門貴族の子息だった。あまりにも有名なその名前に周囲は騒つく。
しかし彼らが注目したのはその名ではなく、その少年自身に目を……心を奪われていた。
背中まで伸びた輝く銀色の長髪。青と赤のオッドアイに、神が作ったと言えば誰もが納得する美貌。身体つきも鍛え抜かれており、いわゆる細マッチョである。
彼の事を良く知らない異性は魅了されて頬を赤く染め、同性は嫉妬に顔を歪める。
反対に、彼の事を知っている者の反応は顕著だった。
聖剣使いの二人は緊張した面持ちで、現代の英雄は観察する様に凝視し、勇者の末裔は信じられない物を見たと目を見開く。
しかしヒュース・カルタルトは周囲の反応に何ら興味を示さず、試験官に促されるままに所定の位置に着いた。
眼前には、今回の魔法試験で散々使われた対魔法クリスタルが浮かんでいる。これを的にどれだけダメージを与えられるかを測る試験だ。
今は透明なクリスタルだが、受けた魔法の威力によって変色する。白、青、緑、黄、赤、紫、黒と段階分けされ、黒が上限となっている。今の所、この黒に達したのは二人の聖剣使いと現代の英雄、そして勇者の末裔のみだ。
「準備は良いかヒュース・カルタルト!」
「――ああ」
「っ!」
彼が声を発しただけで、試験官はクラッと意識が飛ばされそうになった。
声に乗せられた色気に、ではない。そこに宿る魔力があまりにも濃厚で、近くにいては充てられてしまうだけだ。
試験官は慌ててその場を離れた。まるで、これまでに評価していた場所にいては巻き込まれると本能が囁いているかのように。
「……」
魔法を使用すると、術者の足元に魔法陣が浮かび上がる。魔法の属性によって色が変化し、輝きの強さはそのまま威力を表す。
そしてそのまま詠唱を唱え、術名を叫べばこの世界に魔法は具現化する。
無詠唱でも魔法は使用できるが、省略している分効果は半減してしまう。
つまり、この試験で詠唱無しに魔法を行使する者は居なかった――この時までは。
――ゴッ!!
「――全員、退避!!!」
ヒュースの足元に漆黒の魔法陣が描かれ、黒い光がこの国全体を照らした瞬間ロバートはその場に居た全員に逃げる様に叫んだ。意味がないと分かりながらも。
「皆、防御魔法を発動させろ! 直ぐにだ! ――パワード・バリア!!」
「アース・ウォール!!」
「アイシクル・ゲージ!!」
「フレイム・シールド!!」
緊急時に備えて持っていた魔力ポーションを使用し、無詠唱で詠唱級に強化しながら防御魔法を使用する教師陣。
そのただならぬ気配に受験生たちは悲鳴を上げて散り散りに逃げていく。中には生存を諦めてその場に立ち尽くす者も居た。
「きゃあああああ!?」
「なんだよあれ!?」
「おかあさぁああああん!」
「ああ、おれ今日死ぬんだ……」
そして受験生の中でも実力者だと判断された者たちは先ほどの観察者の顔から一転して、人生最大の修羅場に遭遇した時か、それ以上の危機感を持って全力で対処する。
「イフリート! 力を貸せ!」
「ウンディーネ、お願い!」
聖剣二つの力が、まるでヒュースを捕らえる様に彼の周囲に結界を張る。
「ちっ」
現代の英雄は黒と白の双剣を素早く抜き、一瞬で駆け抜けてヒュースの半径5mの地面に紋様を刻む。そして魔法陣を直接地面に描き込み終えた後、双剣を突き刺して全力で魔力を流し込み力場を形成する。
「ディバイン・アーマー!」
そして勇者の末裔は全身に聖なる光を纏い、ありとあらゆる魔法を無効化する鎧を着込む。
動ける者が全力かつ最速で、最大限命を救う動きを見せる中――ヒュースは魔法を無詠唱で解き放った。
「――カオス・エンド」
瞬間――音が消えた。
教師陣の防御魔法はまるで崩れ落ちる砂の城の様に消え去り、聖剣使いの結界は濡れた紙の様に破れ去り、英雄の反転術式はその意味を成さず、勇者の秘奥義は効果だけを消されてただの光と化した。
遅れて――轟音。
「――」
悲鳴すら掻き消すその音は、国を超えて隣接する敵国にも届いた。
この時の音が原因で、敵国は推し進めていた侵略準備を取り止めて一ヶ月間警戒態勢となる。
「……あれ?」
音が止むと、学園の外で徐々に騒々しくなる。音に驚いた一般人の混乱と敵襲かと衛兵が出動したのだろう。だが、それだけだ。
あれだけの轟音が鳴り響いたのに、試験会場に居た者たちには何の影響も無かった。それどころか、会場自体変化が無かった。あれだけの音が響けば消滅してもおかしくないのに。
「試験官。この場合はどうなる?」
「へあ……?」
地面に座り込んで呆然としている試験官は、ヒュースの言葉に目をパチクリと瞬きする。
ヒュースはクイッと顎でクリスタルが在った場所を示す。
そこには、底が見えない程に深い大穴が出来上がり、そしてクリスタルだったであろう欠片が周囲に散らばっていた。
色は当然黒だった。すなわち――。
「あ、あのクリスタルを破壊したのか!?」
あり得ない、とは言えなかった。何故なら、それだけのプレッシャーをあの魔法から感じ取ったからだ。
だからこそこの場に居る者たちは死力を尽くして抵抗、守護、逃亡をしようとした。
「ロ、ロバート先生。あれは一体……」
「……分からんが、あの色から察するに四属性全てを合成した複合魔法だろう。そして光の強さから、国一つを容易く滅ぼせる威力はあるだろうな」
「絶対壊れないクリスタルも形無しですね……」
ヒュースの事を知っているからか、今現在無事である事にホッとしつつ脱力した。
まだ選抜試験は前半にも関わらず、この疲労感。豊作という言葉すら陳腐に思えて来たとロバートは苦笑した。
「こ、こわかったぁ」
「よしよし。……しかし、噂通りにデタラメだな」
聖剣使い二人は戦慄し、
「――まさか」
それまで無表情だった英雄は心躍らせ、
「あり得ない……」
勇者はこれからの未来に絶望する。
「……」
そして、今回の騒動の渦中であるヒュース・カルタルトは――。
(よっしゃああああ! 第一段階成功!
内心狂喜乱舞していた。周囲に叩き付けた恐怖や評価に全く気付かずに。
ここで改めて彼を紹介しよう。
ヒュース・カルタルト。オスティア王国の西部を治めるカルタルト家の子息――とは、彼が有する数多の肩書きの一つに過ぎない。
【
そして――【覇王】。
しかし、その正体は。
(踏み台として終わらねーぞ。クフフフフフ! ふひひひひひひ! 絶対に主人公に気持ちよく倒されて「お前もまた友だった……」って言って貰うんだ!)
この世界に転生した厄介オタクである。
(待っていろよ! 主人公!)
ギンッと勇者の末裔を強く見据えた
「ヒッ」
(あれぇ?)
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