水戸黄門異聞 子龍妖怪退治
閑古路倫
第1話 織姫塚 その壱
➖ 初めに ➖
この物語は、後に水戸光圀と呼ばれる御人の、少年期を舞台にした。言い伝えを元に勝手気ままに作ったフィクションの物語りです。
歴史上、光国(この当時の諱)少年が、水戸にいらした事実は無く。大抵の場合、藩主の家族は江戸にお住まいになられていたようです。
あり得ないお話しを、書きますので、正しい歴史は傍に置いて、別の世界のお話として楽しんで頂ければ幸いです。
< 登場人物 >
子龍(徳川光国)
: 本編の主人公、後の水戸藩二代藩主、隠居後、黄門
和田平助
: 光国の従者にして、居合術の天才
弥智(織姫)
: 織姫塚で、出会う本編のヒロイン
朝比奈夢道
: 平助の師匠、田宮流居合術の達人水戸藩指南役
小野角衛門
: 光国の傅役
佐藤図書介
: 水戸藩士、小姓組頭、平助の上司
その日、御小姓組、和田平助は師匠で有る朝比奈夢道に呼び出しを受け、城内三の丸近くの剣術道場へと足を運んだ。
「いずれ、佐藤様よりお話があるだろうが、お主に伝えておく事が有る」
「何で、御座いましょう?」
「子龍様の事だ、江戸の藩邸より、此方にお
「
「その方は、知らぬか、然も有りなん」「剣一筋ゆえ、他のことに目が向かぬのも、仕方なきことか」「浪人で有れば、それで足りよう、然し、我らは主持ちの武士で有る、剣一筋が悪いとは言えん、言えんのだが、其れでは足りぬ」
「まっことに、面目なきことにて、恥入りまする」
「良い良い、それが故の免許皆伝であろう」「“変化神の如し”、十五の歳で、我を凌ぎ、二年の内に、水野流を納めたと聞く」
「はっ、まだまだに熟達の域に届かぬ身なれば、今暫く、猶予も欲しかったのですが」
「君命と有れば是非もなきこと」
「はい、不詳、平助に否や、は御座いません」
「そこで、子龍様が事よ、あのお方は若年なれど、暗愚には遠いお方だ、ただ、異常なほどの
「誠に御座りますか」
「うむ、小さき社の、床下で寝ていた非人を一人」
「左様で御座いますか、其れ故の御下向で御座りましょうか?」
「無論それも一つ、其れよりは、夜歩きの多き事、供も連れずに邸を抜けられる」「誠、神仙の如き身の熟しだそうな」
「神仙とは、大仰な事で御座りまするな」
「其の方も、“変化神の如し”では無いか?」
「それは、お師匠の仰られたこと」
「なれば、間違いのないことだ、ふっふっ.....」
「お人の悪い」「して、子龍様の御下向と、某に何の関わりが御座いますのですか?」
「すまん、つい、話が逸れたな、子龍様、御若年にも関わらず、その、な、
「はいっ?
「ふぅむ、間違い無い、遊廓じゃ」
「したり、岡場所なれば、この、水府にも御座りましょう」
「そこでは無い、御兄弟様方から離すことが、肝要よ」「御兄弟、仲が御宜しいのは重畳なれど、のう!」「先程来の話の通り子龍様は、若殿は、我等が秤に乗らぬほどのお方よ、そこで、お前よ、天下の和田平助なれば、と。、な!」
「某に、その様な大役、務まりましょうや、もう少し世慣れた御人の方が良くは無いですか?」
「お主程の朴念仁...いや、生真面目な男ゆえ、務まるのよ」
「相、解り申した、不束ながらに務めさせてもらいます」
ほぼ同時刻、水戸街道を府中の宿(石岡)から水府(水戸)へと向かう騎馬が二騎。明六つに、府中を発ったから、凡そ、九つには水府の城へと着く事になる。もう既に、四つは過ぎ間もなく九つとなろう時刻。壮年の武士が連れの若武者へと声を掛ける。
「若様、お疲れでは御座いませんか?」
声の方に顔を向ける若武者は、旅姿で薄く埃を纏いながらも、その着衣も腰に下げた大小の拵えも立派な物で、確かな身分を感じさせた。眠たげに細めた目で、供の者を見遣りながら。
「ふん、大事無い、爺は、早、お疲れ候か?」
「何の、江戸を離れて、たった二日で御座りますれば、ましてや、五年が振りの我が家と有れば、疲れ様、筈もなきこと」
若武者より一回りほど小柄な壮年の武士、小野角衛門は答えた。
「ふん、この様な鄙た処が、我の産まれし里だと思えば、何とも気の塞ぐものじゃ」「そう言えば、
「すけべい、ですか?寡聞にして聞き及びませぬなぁ」「その様な者が、御家中に居りましたとは」
「ぷっ、ふっふっふ、すまぬ、冗談が過ぎた、和田平助よ、知らぬか?」
「はっ、御伽衆の和田道也が倅に御座いますな、父親の方は知り置きまする」
「ふむ、左様か、山野辺家老が、我に付けると言ったらしい、どの様な者で有る やら?」
「成る程、御家老様が、其れでは間違いの無い者で御座りましょう」
「ふむ、さして、気の利いたる者では、無さそうじゃの」
二騎は、なだらかな丘陵を常足の騎馬を急かすこと無く、吉田神社社領に沿って騎馬を進めた。やがて林道を抜け丘の上から眼下に広がる千波沼を見下ろした。その先の高台にその城はあった。二の丸櫓と三の丸櫓が有り天守が無い、代わりに二の丸に、五層の櫓が建っている。水戸城であった。
朝比奈夢道と話した翌日、城に出士した平助は、上司で有る御小姓組頭、
上役で有る、図書介に引連れられて、小書院に通されると下座に座り居住まいを正した。暫しの後、小姓の呼び掛けで平伏し若殿の着座するを待った。
「両名の者、大義で有る!苦しゅう無い、面を上げよ」
やや、高目の涼やかな声音に顔を上げると、そこには、やや細身で有りながらも、数え十五とは思えぬ立派な体躯の若者が座していた。眠たげに細めた目で見下してくる面構えは、成る程に“聞気“を思わせる。但し、鼻筋の通った整った面差しは、気品と知性を感じさせて、只の我儘な御曹司では無さそうだと、平助は安堵した。
「其方が、
「若様!御戯れは、、お控え願います」図書介が嗜めるに。
「ふん、初手から冗談は通じぬか?済まなんだ」
「いえいえ、聞き慣れておりますれば、侮って頂ければ兵法に適います」平助が応えると。
「ほぅ、ぬしゃ、俺を敵と呼ばわるか?」
これには慌てて平助。
「滅相も御座いません」と、平伏する。
これを見て、子龍が、腰に挿した扇子を引き抜き、投げつけた。
平助は、投げつけられた扇子を平伏のまま右手で受けて見せた。
一瞬、子龍は目を瞠り、声を掛ける。
「平助!褒美じゃ取らせようぞ、明日からは此処に来い」「両名とも、大義であった」
立ち去る子龍の口の端が僅か吊り上がって見えた。
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