霊感少女と最強幽霊さん

@NEET0Tk

第1話

 やぁ初めまして、僕ユウ・レイ。


 所謂幽霊ってやつだ。


 僕の特徴を挙げるとすればなんか透けてて浮いてて可愛いってことくらいだ。


 まぁ僕鏡に映らないから自分の顔が分からないんだけどね。


 でも間違いなく僕は可愛いという確信があるのだ。


 さて、ここで僕のルーチンワークを紹介しようと思う。


 まず朝起きてから、僕は近所周りを始める。


「やぁ、今日も元気に叫んでるね。お、もう直ぐで取り憑けそうじゃないか。頑張れ」


 仲の良い幽霊達に挨拶しながら、数時間はこうして歩く。


 そしてお昼からは流れるプールへ訪れる。


「はー、やっぱり雲の中って最高」


 流れる雲から見下ろす街はやけにちっぽけに見えるものだ。


 そして水泳を終えた後はまた近所巡り。


 いやー全く、我ながら暇人のような生活だー。


「早く成仏したいな」


 これは僕の考察なのだが、幽霊となる為にはある条件があるのだ。


 それは死ぬ直前に大きな未練を抱えること。


 そして、幽霊達は基本的に未練を解消する為に行動し続ける。


 死んだ家族が心配で暫く一緒にいたりする幽霊もいれば、自分を死に至らしめた相手に復讐しようとする者もいる。


 となれば当然僕にも未練がある……のだが


「たはは、幽霊なのに記憶喪失ってどういうことだろうね」


 そう、僕は自身の未練を分かっていない。


 だから自分がどうすれば満足するのかが分かっていないのだ。


 その上、大抵幽霊とは話が通じない。


 そもそも幽霊には存在の強さというものがある。


 僕くらいになるとこうして考えたり出来るのだが、殆どは自身の未練解消以外を保つ力がないのだ。


 だからハッキリ言うと、僕は結構孤独だったりする。


 人間には見られないし、幽霊達も話が通じない。


 だから独り言も増えるし、時々意地悪をすることもある。


「あーあ。どうせなら誰か僕を討伐でもしてくれたらな」


 そんな淡い期待を胸に、なんとなく気になった場所へ訪れる。


 そこは学校だった。


 不思議と幽霊が集まるここ。


 何か厄ネタでもあるのだろうかという好奇心だった。


 一通り回ったが普通の学校だった。


 何の変哲もない、一般的な学校だ。


「期待して損したな」


 肩を落とした僕だったが、とある人物を見つけた。


「ん?彼、大分障気に当てられてるね」


 障気とは幽霊達から溢れる感情のようなものだ。


 幽霊の未練と人間の感情が絡み合うことで、その感情が暴走する事がよくある。


 幽霊もまた自身の感情に近しい人間を好み、近くに寄ろうとする。


 そして、幽霊というのは決まって負の感情に溢れているのばかりである。


「まぁ僕には関係のない話だけど」


 でも面白そうだ。


 そんな好奇心から僕は彼の後を追うことにした。


 ◇◆◇◆


 私は多分、虐められているんだと思う。


「おい!!聞いてんのか!!」


 その原因も明らかだった。


 私は昔から多重人格と呼ばれるものだった。


 普段は誰にも迷惑をかけないように生きていても、突然別の感情が入ってきて好き放題してしまう。


 あの日は本当に運が悪かった。


 今目の前にいる翔太君、彼はなんだか私に好意的だった。


 それが気に食わなかった翔太君の彼女が私に警告をしてきた。


「これ以上仲良くするな」


 って。


「お前みたいな女は誰も幸せにしない」


 って。


 その瞬間、私の意識は無くなった。


 次に意識が戻った時、私は彼女に酷いことをしたみたいだった。


 それから、彼は私に対して前とは真反対の態度を取るようになった。


 周りもまたそれに同調するようになった。


 自業自得、正にその通りだろう。


 彼女の言っていることは正しかったのだ。


 私に生きている価値はない。


 私なんて


「お前なんて、死んだ方がマシだ」

「そうだそうだ!!」


 そして今日もまた彼は楽しそうに暴力を振るうのだろう。


「安心しろ。顔は殴らないでおいてやる」

「バレるとまずいからね、うんうん」


 ただ今日の彼はいつもと少し違った。


「なぁ、もう殴られるのは嫌だろ?」


 なんというか、ピンク色のオーラのようなものが出ている。


 私はその色の正体をなんとなく知っていた。


「ならさ。機嫌とりくらい出来るよな?な!?」

「でっきるーかな?」


 私は昔から他の人には見えない何かが見えていた。


 道端や空に時々浮かぶ色、そしてそれらはいつも何かを呟いていること。


 そして時々、人にも似たような色が付いているのが見える。


 そして、色の付いた人の殆どは


「あぁ、ずっと我慢してたんだ」


 犯罪者についていた。


「あ、あの!!」

「待ってなんて言うんじゃないんだろうな」

「だろうな」


 だがそんな事実よりも、私が気になって気になって仕方がないもの。


 それは


「あ、貴方誰ですか」

「は?」

「わぉ」


 翔太君の顔に青筋が出来る。


「冗談……だよな?」

「あっはっは!!き、君ぃ!!まさか虐めてる相手から誰かも認識されてなかったのかい!!滑稽、滑稽過ぎるよ!!」

「しょ、翔太君じゃなくて」


 私は隣のソレへと指を刺す。


「あ、貴方です」

「……おい、冗談」

「だよね」


 翔太君の顔は今度は少し青ざめる。


「嘘、嘘嘘。まさか……見えてる?」

「は、はい」

「というか聞こえてる!!ぼ、僕の声が聞こえてる!!」

「おい、さっきから誰と喋ってるんだ」


 私は今まで何度も色を見てきた。


 だけど、ここまで明確に言葉を喋る存在は初めてだった。


 それに


「白い」


 一度も見た事がない色。


 真っ白、混じり気の一つもない白がそこにはいた。


「ビビらそうとしてるのか!?あぁ!?ふざけてるといつもみたいに」

「君は少し黙れ」

「え?」


 その瞬間彼は白目を剥いて倒れた。


 今まで色が人に干渉することはあっても、直接の被害を齎したことはなかった。


 アレは他とは違う。


 もっと危険な何かだ。


「落ち着け、落ち着け僕、まだ慌てる時間じゃない」

「あの」

「ちょ、ちょっと待って!!!いざ話しかけられるとどう話すか迷っちゃうタイプなんだ」

「そ、そうなんですね」


 白が何か考えている間に、私は気絶した翔太君の元へ行く。


「あ」


 既にピンク色は無くなっていた。


 それどころか


「前よりも」

「あぁ、彼ね。面白いよね、いっぱい取り憑かれてたよ」

「取り憑く?」

「そう。幽霊が集まれば当然そんな人も現れるさ」

「ゆ、幽霊?」


 どうやら私が今まで見ていた色とは幽霊のことを指していたらしい。


「じゃ、じゃあ私は二重人格ではなく」

「そうそう。君、相当霊感があるよね。霊感があるってことはその分、霊の影響も受けやすいんだ」


 そっか、あの時の出来事は私が悪いわけじゃないんだ。


「まぁ君がその行為に及んだ時点で少なからずそういう感情は抱いていたってことだけど」

「ど、どうしてそんな事言うんですか!!」


 せっかく「あ、私って生きていいんだ」って思えたところなのに!!


「いやいや違うんだ!!そういう意味じゃない。ただ人間ならそういう感情を持って当たり前だって言いたいんだ」

「当たり前」

「そう。それこそが、人間を人間たらしめるって僕は思うんだ」


 私が私たらしめる。


「貴方みたいに良く喋る幽霊は初めて見ました」


 それから私は色々と話した。


 過去に起きたこと、それについて悩んでいたこと。


 すると白は「うんうん、それは幽霊さんが悪いよ」と言った。


「人なんて大抵目的もなく生きてるものだ。生きる価値がない人間なんていないよ。少なくとも、僕は君が生きてくれると嬉しい」


 どうやら幽霊の名前はユウ・レイと言うらしい。


「幽霊じゃダメなんです?」

「まさか君は人に対して『よっ!!人間!!』って言うのかい?それに、これはれっきとした僕の名前だ」


 とユウ・レイさんは言った。


「レイと呼んでくれたまえ」


 そんなわけで私はレイさんと呼ぶことにした。


「あ、私の名前は名雲渡って言います」


 慌てて私も自己紹介をする。


 レイさんは


「良い名前だね」


 と忖度のない様子で言った。


 レイさんは今まで人と喋ることが無かったらしい。


 だからこうして喋ることが出来る私に感動しているそうだ。


「良かったらさ、これからもこうして話してくれないかい?」


 レイさんは恥ずかしそうに、されど真剣な趣きで尋ねた。


 私は少し迷った。


 レイさんは喋る限りは無害そうだが、なんとなく私の勘が言っている。


 今すぐ逃げろと。


 でも


「勿論です」


 正直言うと、私は結構スカッとしたのだ。


「私、レイさんとお友達になりたいです」


 泡を吹いて倒れている翔太君を見ながら、私は笑うのだった。

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