1.描き出す風景

 リセルシュはこの町の片隅で花を売っている。

その仕事の片手間に、昔、誰かから教えてもらった絵を描いたりしていた。

彼の絵は、彼の店で主人公を際立たせるための装飾物でしかなかった。

額に収まり壁に掛けられたり、小さな額に入れられ、テーブルの上に無造作に置かれているだけのものだった。


 花で言えば造花のようなもので、それは花にも見えるが、近くによれば作り物がすぐに露見するような代物だ。

誰にも評価されずにそこにあるという事さえ忘れられ、単なる風景の中の部品でしかなかった。


母親のアニィベルはいつも言う。


「この子の才能をわからない奴は素人さ。あたしはいつだってこの子の絵の理解者なのさ」


そんな母の言葉に嫌な気も起こさず、それが事実なのだと彼は信じ続けていた。


アニィベルは言う。


「あんたの絵はどれも素敵よ。この一枚を除いてね」


美的感覚に乏しいアニィベルに、リセルシュの絵の価値など分かるはずもない。

だが、あの一点の絵画だけはどうにも好きになれなかったらしく、そんな彼女にも感覚として避けられる"絵"だった。


 母親の偏った愛情に不満を漏らす事なく暮らしていたリセルシュは、花を摘み、それを売りたまに絵を描く。

そんな生活を永遠に繰り返していける。ずっとこのまま母と二人で生きていけると信じていた。


 幼馴染のサーラは彼が絵を趣味にしていることなど知らない。


「ねえリセルシュ、この絵は不思議な絵よね」


「ああ、でも母さんはそれの事を気に入らないから棄てろ棄てろとうるさいんだよ。でも君はこれを好きだったりするのかい」


「ううん。好きか嫌いかと訊かれれば、どちらかというと嫌いよ。でも、美しいものの隣に美しいものがあったって花は引き立たないわ。そんな風に思っただけよ」


リセルシュは笑いながら「そうか、嫌いか」と言った。


「これは僕の夢の中に出てきた風景を思い出して描いたんだ。だから実際の風景じゃないんだ」


「そう、夢なのね。あなたはきっと悪夢でもみたのよ」


 リセルシュはサーラから眼を逸らして思った。

あんなに鮮明で美しい夢なんて今までみたことは無かった。

あの美しい風景を彼女に否定された気がしたからだ。



『あの景色に会いたい』


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