第50話 precious time1
ルーカーの拠点に到着しガレージに車を駐車させる。
そのガレージには当然いつものミニバンは停められておらず、既に帰っていることが確認できた。
その為建物も人の気配がなく明かりも一切ついていなかった。
それに加えここの周りはど田舎で住人の光が全くなく不気味と言えるほどであった。
そんな拠点にラックとジェシーが入っていく。
「ここがボス達の新たな拠点ですか」
「ああ、そうだ。というか見たことがなかったのか?サリー達が用意してくれたから、てっきり確認してるのかと思ってたよ」
「いえ、拠点に関しては私は何も知らなかったので実は初めてです」
「そっか。それじゃあ改めてここが俺等の拠点だ。ようこそ」
「はい、おじゃまします」
そう言って二人は玄関から入り中の電気をつける。
ただそれだけだが妙に生活感が表れ、二人は少し温もりを感じた。
特に玄関を開けて、そこから見えるリビングへ続く廊下がジェシーには憧れがあった。
ましてや隣にいる人と一緒となると、その感情は増すであろう。
「ごく普通のマンションですね」
「ああ、変に目立つのも良くなくてな。田舎にある住処って感じだろ」
「そうですね」
なんて他愛もない会話を挟みながらリビングへ向かう。
そこには当然大きな機械が設置され非日常的な景色が広がっていた。
それで一気に現実に引き戻される。
しかし二人きりの状況には正直まだ浮かれていたようだった。
なのでジェシーには非日常的なちょっとした変な状況も気にしなかった。
「それで、どうして私を・・・?」
何かを期待する声。
ジェシーは甘えるようにラックに問いかける。
それをラックはキッチンでコーヒーを淹れながら何も考えず答える。
「ああ、コンピュータの調子が悪いみたいで、悪いけど見てくれないか?俺詳しくないし」
「・・・ですよね〜」
「ん?」
「いえ、何でも。わかりました。それなら直ぐですよ」
「そうか、助かる。コーヒーはブラックでいいか?」
「はい、ありがとうございます。・・・それと一つ良いですか?」
「ん、どうした?」
ジェシーは気恥ずかしそうに身体をモジモジと揺らしながら尋ねる。
それを見て可笑しそうにラックは聞く。
どうしたんだよと言わんばかりに眉を上げて。
「その、ボスは・・・いえ、ノートパソコンとかってありませんか?作業で使いたくて。実は持ってくるのを忘れてしまったんですよ」
「ああ、そうだったのか。ならお安い御用だよ。ちょっと待っててくれ、部屋に取りに行ってくる。とりあえずコーヒーでも飲んでソファで寛いでてくれ」
「はい、お願いします」
そう言ってラックはジェシーにコーヒーを手渡す。
ジェシーはコーヒーを貰いソファに深く腰掛け深く溜息をこぼす。
ラックは階段を登りノートパソコンを探しに向かった。
静かなリビングで寂しそうにひっそりとコーヒーを啜る。
この温もりが唯一癒してくれる。
緊張する空気感から。
「・・・美味しい・・・」
両手でマグカップを持ちしっかりと味わいながらゆっくり寛ぐ。
言えそうで言えなかった言葉を考えながら・・・。
そうこう考えている内にラックがノートパソコンを持ちながら階段から降りてくる。
「あったぞ。それと適当にティーシャツとズボンを持ってきたから着替えたらどうだ?。ずっとそのドレスじゃあ動き難いだろ。着替えはメンズ用、俺のだけどサイズとかは大丈夫だと思う」
「えっ!?ボスのですか・・・?」
その言葉に食らいつくように繰り返し尋ねる。
まるで電撃に撃たれたように。
「ああ、でも殆ど使ってないしちゃんと洗ってるから綺麗だと思う。ま、嫌なら別のでも・・・」
「いえ、そちらを使わさせてもらいます!」
「そ、そうか。なら少しブカブカだけどほらよ。上で着替えてこいよ」
「はい、ありがとうございます」
マグカップをテーブルに置いて綺麗に畳まれた衣服を預かる。
衣服はシンプルな白Tシャツとジーンズだが、彼女からすれば特別に見えた。
大事そうに持って階段へ向かう。
その足は軽やかで楽しそうだった。
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