第9話 cleaner1

サリーコーポレーションのオフィスビルにラックは到着して駐車し荷物を運び出す。

受付を済ませラックは真っ直ぐ荷物を持ってサリーのいる部屋へ向かった。

まだ時間的に一般の会社員が多く仕事をしている中、配達の格好でもない男が何かの箱を運びながらオフィスを通り過ぎているのを違和感に思っている人もいる。

その一方で構成員も混ざっている為、違和感なく素通りする社員もいた。

そうしてサリーの部屋へ。

「失礼しま〜す。サリーいるか?」

「ってもう入ってるじゃない」

堂々と扉を開いてサリーの顔を見ながら言っているラックに対してサリーは呆れながらツッコんだ。

ラックはそれを聞き流しながらいつものソファへ。

サリーもそれに合わせて手にタブレット端末を手に向かう。

「ほら、これが例の物。早速持ってきてやったぜ」

「あら早いわね。ということはそっちは結構良い感じなのかしら?」

「ん〜いや、そうとも限らないな。仕事自体は問題ないと思う。そっちが準備してくれた分、結構簡単に済みそうだし、真面目な奴が多いから」

「あら、それは良かったじゃない。なのに良い感じじゃないの?」

「ああ、真面目な奴が多いからこそ俺達を警戒している感じだな。ある程度は打ち解けてると思うが、やっぱり信頼されてない部分が大きい。特に一人からわな」

「まあそれは当然と言えば当然ね。むしろ始めから上手くいくなんてあり得ないもの。ましてや私達のような輩相手にはね」

「そうだな。だから今後も親睦を深められるよう頑張るよ」

「ええ頑張りなさい。にしても仕事は上手く言ったって言ってるけど、ちゃんと報酬や勤務時間とかは話してるの?」

「あ、忘れてた・・・」

とラックは目を見開いて思い出す。

それにサリーは肩を竦める。

「貴方ね。雇用するに当たってそこが一番重要な所よ。特にお金に関しては信頼関係を築く橋になるんだから」

「分かってるけど、お前が変なメール送るから忘れてたんだよ」

「・・・それは悪い事をしたわね。でも今後は気をつけるのよ。慣れてないこととは言え、慎重に行動しないと足元を掬われるから」

「わかったよ。ちゃんと考えるさ。んでとりあえずこっちの話は良いから、そっちの仕事は?」

とラックは声色を変えて主題に切り替える。

それに気が付きサリーも意識を集中させる。

タブレットを用いて情報を確認する。

「ええ、そうだったわね。それじゃあこっちも早速仕事を提供するけど、最初にターゲットに絞ったのは、貴方にも渡したファイルの一ページ目に書いている〈アーノルド・ガス〉よ」

「アーノルドか・・・確か書いてるのが正しかったら、アイツはこの近くに住んでたっけ?」

アーノルド・ガスは彼等と同じでプロテクターとして働いていた一人で、現在は身を引いて家庭を築いている。

既に子供もいて、アーノルドの年齢はラックの少し上であり、お互い兄弟のように親しんでいた仲であった。

「ええそうよ。ここから西に数十キロの距離にある住宅街ウエストストリートに住んでるわ。そんな近くにいるのは敢えてなのか、情報を売ったことにこちらが気づかれてないと思っているのか・・・でも最近入った情報では国外へ移住する計画を立ててるらしいの。だからその前に掃除してもらおうと思ってね」

「なるほどね。確かに国外にいけば面倒だから、その前にやる理由と」

「・・・ただアーノルドにも家族がいる」

「わかってるよ。ターゲットはあくまでアーノルドだけ、ご家族は狙わんよ」

「・・・そうね。それがわかってるのなら大丈夫よ」

「? んで細かな情報は?」

「そうだった。このタブレットを見て」

サリーはラックにタブレットを手渡す。

それを受け取り画面を見る。

そこには住んでいるマンションの間取りや住人情報、敵の組織図が書いてあった。

しかしそこに書いていた組織図は組織と言えるものではなかった。

「ここに書いてる組織図ってのはどういうことだ?」

「そのままの意味よ」

「これじゃあ組織じゃない。相手はアーノルドの部下が一人だけってことなのか?」

「そういうことよ。正直私も驚いたわ。私兵団の十人やそこらは用意してるのかと思ったけどそうじゃなかった。そこに住む住人も周りの人達も暫く調査してみたけど、何も得られるものがなかった。完全に潜伏してるとかじゃなく、本当にただの一般人だったのよ」

「・・・そうなのか。ならその人達も巻き込めない理由だな」

「そういうこと。でも百パーセント白って理由じゃないから、警戒はしてもらうけど、少なくとも敵は一人だけで後はターゲットよ」

「・・・随分と手薄だが、これは余裕があるとか舐めてるって理由じゃあないだろ?」

「そう読み取って貰って良いと思うわ。確かにアーノルドも凄腕で簡単には行かないでしょうけど、ラック達が来ることは気づいていると思うから、ただじゃあ済まないということは分かってると思うわ。それに既に引退した身で腕も鈍ってるならはっきり言って正面から戦えば貴方の方が有利なはず」

「それでもこの戦力だけってことは、その一人が相当やるってことか?」

「そういうことね。ただその凄腕を仮にエーとするけど、エーがどのくらい強いのか、今まで何をしていたのか経歴や情報が一切ないの」

「情報がない?そこまで凄腕なら多少は名が通ってそうだけな」

「そのはずなんだけどね。エーが男性であることは分かってるんだけど、それ以外の詳細は無くどういう人物か分かってないわ」

「・・・そうか。つまりは最大級に警戒しろって言うことだな」

「それは当然よ。更に貴方のことは当然割れてるでしょうから、異能の事も聞かされてると思うわ」

「だろうな。ま、でもそれに関しては些細なことだ。重要なのは相手の実力だけど、これに関してはもうやるしかないってことね。オーケー、それじゃあ早速今日やれば良いんだろ。夜にでも仕掛けるかな」

とラックは立ち上がり扉へ向かった。

気持ちが先走っているようにも見えるが、せっかちな性格だからでもある。

「ちょっと待ちなさい」

「ん、何だよ」

サリーはラックを引き止める。

それに反応してその場で振り返り話を聞く。

「武器は車に既に積んでるからいつも通りそれを使いなさい。それと今回の件は貴方達には基本的に単独で動いてもらうつもりだから」

「単独ってことはジェシー達は居ないのか?」

「そうね。サポーターは居ないけど、一応処理係として構成員は派遣するわ。彼等はいつも通りの仕事と思ってるから問題無いわ」

「それは良いけど、どうしてジェシー達がいない?」

「サポーターは貴方達の事をよく知ってるでしょ。だからこそ、もしものことがあったら情報が漏れるかもしれない。その危険性を少しでも下げる為よ」

「なるほどな。ま、一人で任務は久し振りだけど問題はない。オーケー、理解したよ。話はそれだけか?」

「後はそうね。報告で戻ってくると思うからそこでちゃんと話すけど、もう一つの仕事の報酬は一先ず大体1000ドルだから。戻って来るまでに準備してるから、今は仕事に集中するのよ」

「そうか、わかった。助かるよ」

ラックは嬉しそうに部屋を出る。

これから任務にも関わらず、緊張感がなかった。

だがこれはいつも通りの彼の姿。

だからサリーも心配すること無くその背中を見届ける。

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