最高のパパ
ミッシェル
第1話 落ちぶれた天才
やぁ、俺の名前は
30代の売れっ子脚本家だ。
このお話の主人公。
20代の頃に書いた作品が大ヒットし、俺は時の人となった。
その頃付き合っていた女性と結婚して、可愛い男の子にも恵まれた。
最高の人生…… に見えるだろ?
だがそう簡単には行かなかった。
そこからは転落のしっぱなし。
何をやっても上手くいかない。
書いても書いてもボツになるし、妻とはケンカしてばかりで最悪。
ほとんどは俺の八つ当たりってやつさ。
当然妻は離婚届を置いて出て行ってしまった。
3年も耐えただけ凄いもんさ。
息子にだけは会いたくて交渉して、1ヶ月に1回だけ会わせて貰える。
その日が毎月待ち遠しいくらいさ。
息子は会うたび大きくなっていて、可愛いって言ったらありゃしない。
毎日一緒に居たいくらいだ。
いつも眠くなるまで遊ぶから、俺がおんぶして元妻の家に送り届ける。
最高のパパをしているのさ!
「 やぁ! 今日も沢山遊んできたよ。 」
大きな玄関を開けるのは元妻。
俺とは同い年の飯田……
旧姓に戻り今はパートをしながら生活している。
最高に美人だと思わないかい?
髪はロングで目はお星さまみたいにキラキラしている。
少し気は強いけどお釣りが来るぐらいに最高の女性さ。
「 お疲れさま、また眠っちゃってる。 」
家に入り息子をベッドに運んだ。
可愛く満足そうに眠っている。
まだ小学1年生だ。
「 岳は相変わらず元気だね。
今日は遊園地で2人で暴れまくり。
ママには言えないような食べ物を食べまくって、カロリーモンスターの仲間入り。
沢山走り回ったからね。
良く眠っているよ。 」
俺の最高の息子だ。
「 それは良かったわ。
今日は本当にありがとう、また来月にね。 」
「 はぁーーいっ! それじゃあ。 」
俺はスキップして家を出て行った。
この生活は生活で悪くないと思っている。
毎日雫と岳と暮らしたいけど、今はその時ではない。
俺のかつての功績で買ったこの大きな家…… 。
慰謝料として妻に渡した。
傷つけてきたから当然さ。
それに岳にはすくすくと育って欲しい。
俺は満足だった。
そんな駿を2階の窓から見ている雫。
「 はぁ…… また言えなかったな。
いつかは言わないといけないんだけど。 」
何か気まずい気持ちでいた。
雫のスマホに一件のメールが。
男の名前だった…… 。
( そんな事なんか知らない俺は、元妻との復縁の為にと外でタブレットを片手に河川敷にいた。
草の上で川を見ながら横になる。
最高の時間の過ごし方だ。 )
いつも冬でも執筆する為にそこで書いている。
少し肌寒い春…… 。
桜が咲き始める季節だった。
「 おぉーーいっ! 暇なら遊ぼうぜ。 」
ちびっこ達が野球グローブ片手に話をかけてくる。
「 暇だって? よしてくれよ。
どうみたって仕事中じゃないか。
売れっ子作家の邪魔はやめてくれるかな? 」
「 何が売れっ子だよ!!
そんなの10年以上も前だろ?
みんなおじさんの事なんか忘れてるよ。 」
「 なんだとーーっ!! 」
手を上げて威嚇すると勢い良く逃げていく。
「 ママが言ってたもん!
おじさんは翼の折れた鳥だってさ。
もう混ぜてやんないよーー 。 」
その子供達の言動で良く遊んでいて慣れているのが良く分かる。
「 翼の折れた鳥か…… 。
飛べない豚の方が良いなぁ。 」
気を取り直してまた横になり書き始める。
「 またこんなとこに居た。
自分の家があるでしょ?
家で書いたらどうなんですか? 」
( この眼鏡をかけた男は俺のマネージャー。
俺みたいなのにもちゃんとマネージャーがいる。
俺のかつてのマネージャーは、出世して今では社長になった。
俺のおかげのようなもんかな?
そんな社長は俺の事を眼鏡に任せている。
まだ20代のペーペーに。 )
「 うるさいな、マネージャーならにいい加減に覚えたらどうなんだい?
俺のルーティーンってのがあるんだ。
邪魔しないで貰えるかな? 」
そう言うとまたタブレットで文字を打つ。
「 落ちぶれたもんですよね…… 。
巨匠とまで言われたお人が、今では子供にすらバカにされてしまうんですから。 」
新人マネージャーにもバカにされてしまう。
直ぐに飲み終わったペットボトルをぶつける。
「 うるさいんだよ。 」
「 あぁパワハラだぁ。
これは社長報告しなくてわ。
それでは失礼致します。 」
と言って帰って行った。
「 何しに来たんだよ。
あんなんでパワハラになるなら、この日本もおしまいだねぇ。
怖い怖い…… 。 」
( バカにされるのは慣れている。
周りの大人や子供までメディアの言いなりだ。
あの人は今!? にすら名前が上がらない。
たまに酔っぱらった所を、週刊誌の小銭稼ぎくらいに記事にされる。
散々な人生だよ…… 。 )
タブレットで執筆していて疲れると眠る。
日が暮れると帰る。
これが日課になっていた。
( 稼ぎはあるのかって?
可愛い岳の養育費もある。
いつまでも夢を見ていてはいけない。
映画になるような大作ばかりではなく、クソみたいな小説や漫画の実写の脚本も出掛けている。
これはこれで金になる。
その脚本には絶対オリジナル設定を入れない。
それが俺のポリシーだ。 )
最近は人の原作にオリジナリティを入れてしまい、炎上したり批判される時代。
駿は自分がされたら嫌な事はしない。
それがマナーであり、プロの拘りである。
だから俳優を目立たせる為に、脚本を書いて欲しい会社には滅法嫌われている。
「 ただいまぁ…… って誰も居ないよな。 」
( 1LDKの狭い部屋…… 。
情けない部屋だがそれでいい。
直ぐに返り咲くのに部屋には拘らない。
俺は巨匠なのだから…… 。 )
隙間風も入り、夜は寒くて震えてしまう。
恥ずかしくて元妻には内緒にしている。
当然息子にも。
「 ん…… もしもし。 」
急な電話で居酒屋に呼び出される。
そこに待っていたのは事務所の社長で、かつてのマネージャーだった。
「 おいっ早く座れって。 」
( コイツは俺のおこぼれで成り上がった男。
45くらい? だったかな? 忘れた。
偉そうに高いスーツ着て来て、若い子にモテたくて仕方がない…… 最低な男だ。 )
渋々と座る。
「 ドンペリ一本。 」
「 バカ言うなよ、お前には焼酎で充分。 」
( 俺には安い酒は合わない。
仕方なく飲んでいるが、いずれはドンペリのドンペリ割りのようなふざけた酒を飲む。 )
でも美味しそうに飲むのが駿。
1時間も飲むとあっという間に酔ってしまう。
「 おみゃーーおっ!! まだのむじょおーー! 」
簡単に酔って呂律も回らない。
そんな駿を宥めては水を薦める。
「 駿飲み過ぎ…… でもないけどそろそろおしまいにしろよ。
かみさんにと復縁したいのは分かる。
でも無理なもんは無理なんだぞ? 」
「 いやぁーー どうでしょうねぇい?
俺はいまはダメでしゅよ。
だからと言ってですね、このままでは終わりませんからね?
雫と…… 岳を…… 取り戻すん…… ぐあぁ。 」
酔っ払って寝てしまう。
瀧はゆっくりと自分のコートをかける。
そこに眼鏡マネージャー、
「 社長! またここに来てたんですか?
この人担当辞めさせて下さいよ。
もっと良い脚本家や作家さんの担当になりたいんです。
僕にはこんな人の担当…… 耐えられません。 」
怒りながら駿を睨み付ける。
社長は笑って話を聞いている。
「 そう騒ぎ立てるんじゃないぞ。
短気は損気って知らないか?
運が逃げていくぞ。 」
秀逸には耐えられなかった。
何故社長がこんなにも駿を推すのかが。
「 この人の作品は凄かったです。
それは認めますよ? だからって…… 。
ただの1発屋だっただけですよ。
そんな人ゴロゴロ居ますからね。 」
秀逸が文句を言っていると、駿の鞄からタブレットを取り出す。
「 これ見てみろよ。 」
渡されたタブレットを見る。
フォルダを見ると凄い量の作品と、アイディアが書き記されていた。
その量に愕然とする。
「 コイツは偶然ヒットしただけの、凡人作家かも知れない…… 。
ただな? 100回書いてもヒットしないかもしれない。
でも駿って言う男は1000回でも1万回でも書いてしまう。
そんな男なんだよ…… 。 」
社長のお気に入りな理由が良く分かった気がした。
秀逸も納得してしまう。
「 コイツは絶対に諦めない。
俺は天才だと信じている。
そう思えるのは駿が初めてでな。 」
秀逸もこの努力を笑う事は出来なかった。
「 分かりました…… もう少しやってみます。
今日この人からパワハラされました。 」
「 はいはい、キミも飲みなさい。 」
( これは俺の物語…… 。
妻と息子を取り戻す為に足掻く男の作品だ。 )
最高のパパ ミッシェル @monk3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。 最高のパパの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます