【3】 障がいと生活①

【北川】 それでは、早速ですが、まず、はじめに、林先⽣のご病気について、簡単にご説明していただけますか?


【林】 承知しました。僕の病気は「双極性障害」という病気で、別名「躁うつ病」と呼ばれています。気分の激しい波を伴う病気で、気分の異常に⾼い「躁状態」と異常に低い「うつ状態」を繰り返します。


【北川】 なるほど。いわゆる「ハイテンションと「ローテンション」が病的になったものと考えてよろしいですか?


【林】 そうですね。気分の波はもちろん、普通の⼈にもあるのですが、それが病的なまでに激しくなって、⽣活に⽀障が出るレベルにまでなったときに、「双極性障害」と⾔われるようになります。


【北川】 なるほど。「躁」や「うつ」といった症状は、起こるときの前兆のようなものはありますか?


【林】 残念ながら、そういった症状は、いつ起こるかわからないものだ、というのが正直なところです。ですので、基本的には、予防というものができないのです。


【北川】 なるほど。でも、いつ起こるかわからないとなると、怖くないですか? 安⼼して⽣活ができないような気がするのですが。


【林】 そうですね、確かに怖いですが、それを気にしていたら当然、⽇常⽣活において、何もできなくなってしまいますので、普段は病気のことは忘れるようにしていますね。


【北川】 そうですか。そういった症状に対して、効果的な薬って、まだ発明されていないんですか?


【林】 そうですね、今のところ、確かな特効薬のようなものは⾒つかっていないのが現状です。


【北川】 そうしますと、林先⽣は今、服薬はされておられないのですか? 特効薬がないのなら、服薬しても意味がないような気がするのですが。それとも何か、それに代わる治療法があるのですか?


【林】 いえ、服薬はしてますよ。「躁」と「うつ」の波を軽減してくれる薬で、「気分安定化薬」と呼ばれています。でも、もちろん、気分の波をゼロにしてくれるわけではありませんので、服薬していても症状は起こるわけですね。

 それから、服薬に代わる治療法ということですが、それはありますね。そのひとつとして、「作業療法」が挙げられます。


【北川】 「作業療法」ですか。最近、よく⽿にするようになった⾔葉ですね。取り⼊れている病院も多いと聞きます。具体的には、どういった治療法なのですか?

【林】 作業療法とは、脳トレ・筋トレ・⼿芸・⽂章の筆写など、⽂字通り作業を通して、治療効果を得るものでしてね。脳の認知機能を活性化させることが目的です。


【北川】 なるほど。それで、林先⽣もそういう治療を受けて来られたのですね?


【林】 もちろん、病院でそういう治療は受けてきましたが、僕にとっての最強の作業療法は「労働」でした。

 作家になるだいぶ前は、居酒屋で働いていたのですが、そこでの就労体験は、僕の症状の発⽣頻度(ひんど)をかなり下げてくれました。

 居酒屋の仕事は、常時、動き回っていろいろな作業をしますので、まさに「作業療法そのもの」と⾔えるのです。

 その時の経験のおかげで、僕は、現在ではそれほどしょっちゅうは、症状に悩まされずに済んでいるのですね。


【北川】 なるほど。林先⽣にとっては、働くことこそが最強の治療薬だったわけですね。

 続いてお訊きしますが、症状が出てしんどくなった時に、ご⾃分で⾏っておられる対処法はありますか?


【林】 そうですね、僕は、しんどくなったときには、まず、気持ちを整理したり、気分転換をすることから始めますね。

 その⼿段としては、メモ帳アプリに、考えていることをなんでも書き出して整理したり、元気の出る⾳楽を聴いたり、あるいは⼤好きなスイーツやラーメンを⾷べたりすることもあります。

 でも、そんな余裕もなく、あまりにしんどい場合には薬に頼ることもありますね。


【北川】 なるほど。薬には、どういう頼り⽅をするのですか?


【林】 僕は、頓服薬(とんぷくやく)を常に持ち歩いていますので、あまりにしんどい時は、それを飲みます。飲むことにより、完全回復が図れるというものでもないのですが、応急処置的な⼿段としては有効なことが多いのです。


【北川】 なるほど。頓服薬は1種類ですか? 林先⽣のご病気には、「躁」と「うつ」の症状がおありとのことですので、最低2種類必要かと思いまして…。


【林】 その通りです。1種類ではなく複数持ち歩いています。「躁の時⽤」と「うつの時⽤」の2つに加えて、「神経性頭痛」のための漢⽅薬も持􁻵 ています。⼀⽇中、作家活動をして、夜遅くなると、激しい頭痛に襲われることがあるからです。


【北川】 そうですか。ほかに、医学的なアプローチで試みていることはありますか?


【林】 そうですね、あとは臨時の通院ですね。通常の通院は、僕の場合、だいたい2週間に1回なんですが、あまりにもしんどくて、次の通院まで⾝が持たなさそうというときには、臨時で診察を受けます。

 臨時で受診した場合には、ドクターは薬の処⽅を変更してくださることが多いのですが、話を聞いていただくだけで終わることもあります。でも、それだけでも安⼼につながり、その後、回復していくことが多いですね。


【北川】 なるほど。わかりました。




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