第26話 海斗は見逃さない
「おみくじ、どうだった?」
センチメンタルな会話に浸った後。
俺と凪はお守りを見てから、蓮と咲希と合流した。
「わたし大吉!」
咲希がVサインと共におみくじを見せてくる。
その隣で、蓮がなんとも微妙な顔をしていた。
「どうかしたんですか?」
「……俺、凶だった」
「お前逆に持ってんなー」
そういやこいつ、クリスマスの時のゲームといい割と貧乏くじ引くタイプだったっけ。
「そういえば、蓮君ってそういうの引きやすい人ですもんね」
「結んで引き直しすればよかったのに」
「そうしようと思ったんだけど。咲希がさ」
「そんなことしなくても、悪いならわたしと一緒に良くしていこうってね」
なるほど、そういうことか。
咲希らしい考え方だ。
「2人も引いてきたら? もしかしたら俺より酷いかも知れないよ?」
「自分よりも下を作ろうとするな。凶より下ってもう大凶しかねえだろうが」
「まあ、せっかくですし引くのは全然構いませんけど」
どうですか、と凪が俺を見てくる。
「んじゃ、引いてくるか」
「それじゃあ、わたしたちは適当に境内の屋台を見てるから」
「なら、ほれ」
俺は財布から千円札を1枚取り出して、咲希に手渡す。
「これで2人で何か食えよ」
「いいの?」
「元々咲希に奢るって話だったからな」
ひらりと手を振って、俺はおみくじ販売所がある方に歩き出す。
その際、凪の歩きにくさに気を付けつつ、なるべく人の少ない所を選んで歩くようにする。
そのまま歩を進めていると、おみくじ販売所の前におしるこなどの温かい飲み物を売っている所を発見した。
「寄ってくか」
「そうですね」
意見が一致したので、俺たちはそれぞれおしるこを買って一口飲む。
寒さのせいか、温かい飲み物の甘さが余計に際立って感じた。
「美味しいです」
凪も、温かい甘味に頰を緩めていた。
運良く、近くのベンチが空いていたので、俺たちは2人揃って腰を下ろす。
そのまま、なんとなく2人で無言のまま行き交う人を眺めながら、おしるこを啜る。
寒さも、おしるこの温かさも、甘さも、全てがどことなく心地の良い空気感を形作っていた。
「あと1週間で冬休みが終わるって、早いですよね」
「まあなぁ。夏休みくらい長くてもいいのに」
「それだとほとんど学校に行かずに進級することになっちゃいますね」
「ふむ。悪くないな」
そもそも3学期だって短いんだし。
「私は3学期が長くてもいいくらいですよ」
「その心は?」
「だって、2年になったら親しい人たちとクラスが別になってしまうかも知れないじゃないですか」
どこか寂しそうな声音に、凪を見る。
その横顔は、声と同様に寂しそうだった。
俺は頭をかく。
「……別にクラスが離れたって交友が無くなるわけじゃないだろ。寂しくなったら、蓮のとこでも咲希のとこでも、俺のとこでも来ればいい」
「それは分かってるんですけど……文化祭や修学旅行のイベントは仲の良い友人と過ごしたいじゃないですか」
「……まあ、そりゃそうか」
別の友達がいないわけじゃないが、いつものメンツの方が楽しいだろうしな。
また無言になって、おしるこを啜ると、紙コップが空になってしまった。
「そろそろ行きましょうか」
凪もちょうど空になったみたいで、ベンチから立ち上がろうとする。
それを俺は、凪の手を掴んで静止した。
「えっと……? 海斗君? どうしたんですか?」
訝しげに眉を顰める凪。
その顔を俺はジッと見つめ、そっと息を吐いた。
「お前、足痛いんだろ」
「……っ」
凪が目を見開く。
もうその顔が答えを言っているようなものだ。
そのまま腕を掴んで、ジッと見つめていると、凪が困ったように笑う。
「いつから気付いていたんですか?」
「蓮たちと合流する時くらいから」
「……最初からじゃないですか」
「確証は持てなかったんだけどな」
なんとなく引っかかるものがあって、カマをかける意味で聞いてみたら図星だったというわけだ。
「……すみません」
「凪が謝ることじゃない。草履とか履き慣れてないだろうし、仕方ねえよ」
申し訳無さそうな顔に、肩を竦めて応じる。
「とりあえずもう少しゆっくりして行こうぜ。まだ疲れ取れてないからありがたいし」
「……ありがとうございます」
「ん」
弱々しい笑みに、俺は軽く応じながら、スマホを取り出した。
「とりあえず、蓮たちに連絡だな。その足でこれ以上歩かせるわけにはいかねえし」
「こ、このくらいなら平気です。耐えられない程じゃないですから」
「痛みを我慢するのがそもそも間違ってるんだっての。いいから連絡するからな」
凪の返答を待たず、俺は蓮に電話をかけて、事情を説明し終える。
「これで良し。でも帰りどうすっかな……背負われるのは抵抗あるよな?」
「海斗君になら平気ですけど……その、最近少し太ってしまったので……」
「お前が太ってるなら女子全員太ってる判定になるだろ」
まあ、それはともかくやっぱり男に背負われるのは抵抗があるだろう。
「仕方ない。保護者召喚して迎えに来てもらうか」
「そ、それは……」
「他にいい案があるなら聞くぞ」
「……」
どうやら無いと考えて良さそうだ。
俺が自分の親に連絡を入れようとしていると、
「ま、待ってください。そのくらいの連絡は自分でしますから」
スマホを取り出した凪が、自分の親に電話をかけて、事情を説明し終えた。
「迎えに来てくれるそうです」
「良かったのか? お前んちで」
「私のケガで迎えに来てもらうのに、人様の親御さんにまで迷惑をかけられませんから」
まあ、こいつはこういう奴だよな。
というか俺でもそうするし。
「言っとくけどマジで気にする必要無いからな。早く帰れるってことはお前が作ったおせちを早く食えるってことだし、寒いしありがたいくらいだ」
反論は聞く気はないと言わんばかりに捲し立てると、凪は呆気に取られたようにぽかんとしてから、
「では、そういうことにさせてもらいます。ありがとうございます」
凪は小さく微笑んだ。
それから、俺たちは合流してきた蓮と咲希に先に帰る旨を伝え、迎えに来た沙奈さんの車に乗って、一足先に神社を後にしたのだった。
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