第8話 映画館へ

「……あいつら、緊張し過ぎじゃね?」


 俺たちから少し距離を取って、前を歩く蓮と咲希。

 

 どうしてこのような形を取っているのかと言うと、今日はこうして皆で遊ぶという形になっているとはいえ、本来の目的はあの2人のデートだから。


 なので、俺たちは映画を見る時や飯を食う時など、必ず全員が集まらないといけない時を除いて、蓮と先と距離を置くことにしたのだ。


 まあ、その結果は見ているこっちがハラハラしてしまうものだったわけだけども。


「もしかしてお昼を食べる時もあんな感じなんですかね?」

「いや、さすがにそんなことはないだろ。教室から仲良さそうに出て行くのをいつも見てるし」


 だとしたら、原因は。


「……多分、デートっていう単語を意識し過ぎてる感じじゃね?」

「あぁ……」


 でも、ガチガチになっていて歩く時に片側の手足が同時に出てるところは、さすがの息の合いっぷりだ。


「あ。同じタイミングでお互いを見て、目を同時に目を逸らしました」

「今時の小学生でもあそこまでうぶじゃねえだろ……」

「蓮君ってうぶはうぶでしたけど、あそこまで女の子の相手苦手じゃないはずなんですけどね」

「まあ、本当に好きな相手と言うか、恋愛に関しては別ってことなんだろ」


 知らんけど。

 偉そうなことを言ってるが、俺だって彼女出来た経験無いし。


 そんなことを考えていると、凪が「ふーん」とどこかからかうような目を俺に向けてきた。


「つまり、もし海斗君に彼女が出来たらあんな風になっちゃうかもしれないってことですかー。それは見てみたいですね」

「それを実行する場合お前は後ろから俺のデートの様子をうかがってるストーカーってことになるだろうな」


 凪のからかいに、肩を竦めて応じる。


「というか、初デートの時ああなりそうなのは俺よりも凪の方だろ。自分の心配してろよ」

「はぁ!? わ、私だってちゃんと落ち着いてデート出来ますよ!」

「本当か?」

「……確かに緊張はするでしょうけど」

「正直でよろしい」


 凪がふいっと視線を逸らす。

 はい俺の勝ち。

 

 俺をからかっていつものお返しをしたかったんだろうが、この程度のカウンターで慌てているようじゃ、まだまだ甘いな。


 この程度の勝ちはいつものことなので、特段勝ち誇るでもなく、ふと視線を前に戻せば俺たちの和気藹々とした雰囲気を感じ取ったのか、前を歩いていたカップルが振り返って、俺たちを見つめていた。


「ふむ。あの目は助けてくれって合図だな」

「どうします? そろそろ助け舟を出しますか?」

「いや、まだだろ。このくらいで音を上げてたらいつまで経っても2人でデートなんて出来ねえよ」

「まあ、そうですね」


 俺は首を横に振り、凪は腕でバッテンを作って助けを拒否。

 

 どうやら助けは見込めないと判断したらしいカップルは、意を決して話しかけようとしたものの、話しかけるタイミングを被らせて、お互いに譲り合うというお決まりの流れをし始めたのだった。



 紆余曲折ありながらも、俺たちはショッピングモールの映画館フロアへと辿り着いた。


「映画館に来るの結構久しぶりかもー。なに見よっか」

「うーん……そうだなぁ。ちなみに咲希はどれが気になる?」


 歩いている時に目一杯緊張して失敗したからか、ガチガチだった蓮と咲希はすっかりといつも通りの雰囲気を取り戻していた。


 まあ、今は俺と凪が近くにいるからかもしれないが。


「わたしはこれ! 恋愛小説が原作のアニメ映画! 泣けるって評判なんだよねー」

「じゃあ、それにしようか。海斗と凪もそれでいい?」

「いいも何も、これは2人のデートなんだからお前らに従うよ」

「私も。この小説読んだことあるので気になってましたし」


 密かに現実でも目の前のカップルを見てるのに、映画でもカップルを眺めるのかよと思いはしたが、口には出さない。これが協調性。


「んじゃ、席のことだけど。俺と凪はお前らから離れた席で取るから」

「えっ!? なんで!?」

「なんでも何も……今日は普通に遊ぶんじゃなくて、これはお前らのデートだろ? だったらお前らを2人にするのが当たり前だろ」


 見るのが恋愛映画なら尚更そうするべきだ。

 

「う、うう……そうかもしれないけどぉ……」

「そんなの緊張して映画の内容頭に入ってこないって!」

「そこまで言うなら本当に全員で見ますか?」


 凪がそう尋ねると、蓮と咲希は口を閉じる。

 それが答えだ。


「まあ、キスシーンがきて意識しまくってもっと気まずくなりはするだろうけど頑張れ」

「なっ!?」

「なんでそういうこと言うの!? 海斗のバカっ」

「はいはい、バカで結構。というわけで、蓮。咲希のご機嫌取りよろしくな。行くぞー凪」


 離れるのにちょうどいい口実も出来たことだし、俺と凪はカップルから離れて早々に券売機で席を4つ購入。

 

 その内の2枚を有無を言わさずに蓮に押し付けて、俺と凪は売店へ。


「ちょっと無理矢理過ぎましたかね?」

「いや、あれくらいしておかないと、あいつらの為にならねえって」


 進む列に合わせて足を動かしながら、俺はちらりと蓮たちの方に視線をやり……ふっと口元を緩める。


「それに、思ったよりは大丈夫そうだぞ」

「え?」


 凪が怪訝な顔をしつつ、蓮と咲希の方を見る。

 すると、凪も「あぁ」と口元を緩めた。


 俺たちが視線を向けた先では、蓮が顔を真っ赤にしながら咲希の手を握って、売店に並ぼうとしているところだった。


「蓮はやる時はやる男だからな」

「それは私が1番よく知ってます」

 

 凪が自慢そうにしつつもどこか切なげに目を細める。

 多分、俺も似たような表情をしているのだろう。


 俺たちは似た感情を抱えつつ、塩味とキャラメルという違った味のポップコーンをそれぞれ頼んで、劇場内に足を踏み入れた。

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