第7話 デートの始まり
「んじゃ、カップル様のデートプランを聞いておこうか?」
コーヒーで暖を取り始めて間もなく。
示し合わせたように同じタイミングでやってきた蓮と咲希に尋ねる。
「まさか、デートプランまで俺たちに考えさせようってことはないだろ?」
「そ、そりゃもちろん! ちゃんと考えてきたよ!」
まあ、いくらなんでもそんなことはしないか。
こと異性関連に関してはヘタレだが、蓮はやる時はやる奴だし。
「さぁ、記念すべき初デート。この一生に一度きりで間違いなく記憶に残る大事なイベントで彼氏は一体どこを選ぶのか」
「なんでそんなハードル上げるわけ!?」
ちょっとした嫌がらせです。
蓮で遊んでいると、横からべしっと肘の辺りを叩かれる。
そっちを見ると、咲希が頬を膨らませて俺を嗜めるような顔をしていた。
「もうっ、蓮を虐めないでよ海斗。めっ」
「まさかこのご時世にまだめっなんて怒り方をする奴がいようとは」
「またそうやって茶化すんだからもーっ。ちゃんと反省!」
「はいはい」
「はいは1回!」
ここではーいと返事を伸ばそうものなら余計に怒りを買ってしまうことになるわけだ。
まったく、言動は子供っぽいくせに、昔から自分の方が姉みたいなものだと思っているせいか、妙に姉ムーブが身に付いている奴である。
話が盛大に逸れかけていたところ、凪が「それで」と話を戻すように口を開く。
「蓮君はどのようなプランを考えてきたのですか?」
「うん。色々と考えたんだけど……映画を観て普通に遊ぶのが良さそうかなって……」
「なんと言うかコメントが難しいくらい普通だな」
「う……そりゃ、俺だってこれでいいのか散々考えたよ? でも、特別なことをしようとしてもなんか失敗しそうな気がしてさ」
「なるほど。だからこそ、変に肩肘を張らずに遊ぶことを選んだというわけですね」
「……うん。どうかな、咲希?」
蓮が自信無さそうに咲希を見る。
対して、咲希はパッと笑みを咲かせた。
「わたしは全然いいよ! 蓮が考えてくれたことだもん!」
「ほ、本当に?」
「うん! わたしも多分同じこと考えてたと思うし!」
まあ、そうなんだろうな。
今日の待ち合わせに同じタイミングでやってきたことといい、蓮と咲希はとにかく波長が合う。
それこそ、幼馴染の俺よりも咲希と波長が合っているのが蓮だ。
だからなのか、この2人は同じタイミングでお互いを好きになり、両片想いとなったのだから。
こと恋愛において波長ってやつは、時に幼馴染として1番近くで過ごしてきた時間すら超越してしまうらしい。
(いや、近過ぎたんだよな)
恋愛物でよくある、距離が近過ぎて片方が異性として認識しているのに、もう片方はまったく異性として認識していない、例のあれだ。
なんなら気持ちに気付かれても、きょうだいのようなものだって言われて振られるやつ。
「そんじゃ、まずは映画だな。早く行こうぜ。寒いし暖まりたい」
ため息を吐きそうになるのを堪えて、俺は移動を促す。
実際マジで寒い。この寒さはお互いの気持ちが通じ合って微笑み合ってる目の前のカップルの熱じゃ凌そうにない。むしろ心が寒くなる始末だ。
「うん。あ、約束通り今日のお金は全てこちらで持たせてもらいますので……」
「もらいますので……」
一応自分たちの都合に巻き込んだことを申し訳なく思っているらしいカップルが揃って頭を下げてくる。
元々、そういう約束の元、俺たちは召喚されたのだが、
「バカ。そんなの本気にするかよ」
「そうですよ。今からクリスマスプレゼントも用意しないといけないんですから無駄遣いせずに自分の為にお金は使ってください」
「まあ、昼飯だけは奢ってもらうけどな」
「です」
最初から昼飯代以外、こいつらにお金を払わせるつもりはなかった。
*
「空いてる席は……さすがに無いか」
いくら寒くても休日というのものは、人を外出させてしまうものらしく。
運悪く、電車内に空いている席は無かった。
「どうせ数駅だから。立ったままで大丈夫だよ」
「だねー」
蓮と咲希が相槌を打つのと同時、扉が閉まって電車が走り出す。
その際、車体が揺れて凪が少しだけよろけたので、肩を軽く持って受け止めてやる。
俺の胸元に収まる形になった凪が、必然的に上目遣いで見つめてきた。
「ありがとうございます」
「ん」
ついでに、凪と自分の体の位置を入れ替えて、扉側に入れてやった。
車内にはそこそこ人がいるし、知らない奴に体が触れるよりは俺の方がマシだろうしな。
「……なんと言うか」
「ん?」
「こういうことしれっとしてくる海斗君って本当に女の子慣れしてますよね」
「そりゃ、幼馴染がいるもんでな」
昔から一緒に出掛けることも多かったし、その過程で身に付いただけのことだ。
凪だって蓮と幼馴染なんだし、蓮の性格上、こういうことをしてもらっていそうではあるが、この2人、一緒に外に出掛けた経験があまり無いらしい。
もちろん家族ぐるみで仲は良いらしいが、蓮も凪もどちらかと言えばインドア派なせいで、俺と咲希とは違ってこうして外に出るというよりはお互いの家で過ごすことが多かったタイプの幼馴染だ。
そんなことを考えていると、凪が何か言いたそうに俺を見上げてきていた。
「なんだよ?」
「いえ別に? こういうことナチュラルにすると、きっと女の子に勘違いさせてしまいそうだなーと思って。わたし以外」
「なら安心だな。今のところお前以外にやる予定もないし」
まったくもってする必要の無い心配だ。
そうして何度も軽口を叩き合っていると、やがて電車は俺たちの降りる駅へと辿り着いたのだった。
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